運命と運命の人

なこ

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第5章

7

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窓の外は雨だ。

いつから降り続いているのか、ざあざあと降り止む気配のないその雨を、寝台の上から、ユアンはずっと眺めていた。




「…入るぞ。」

用意された食事は、手をつけられた様子が全くない。

「少しでもいい、口にするんだ。」

寝台の脇に腰を下ろすと、カイゼルはユアンの口へとそれを運んだ。

小さく開く口の中へ、少しずつ。

あんなことがあったとは思えない程、2人の間はとても静かだ。

気を取り戻したユアンに、カイゼルは淡々と事実だけを述べた。

取り乱すかと思われたユアンは、思いの外冷静にその事実を受け止めていた。

あれから、ユアンは何も語らない。

何かを考え込んでいるのか、傷ついた身体を寝台に休ませ、ただじっと外を眺めるばかりだ。

「…………家へ、帰るか?」

カイゼルは今回の出来事を、なんと侯爵家へ伝えればいいか、考えあぐねていた。

おそらく、ユアンは侯爵家へ帰るだろう。

事故のようなものとは言え、愛していない者に身体を暴かれたユアンは、きっとここを離れたがるはずだ。それが、いくら不可抗力のことだったとしても。

念の為、まだこの部屋へはカイゼル以外入れないようにしてある。

もう、大丈夫だろう。

明日からは他の者に任せてもいいかと、カイゼルは考えていた。

「………まだ、侯爵家には、何も、伝えないでいて、下さい。」

あの日以来、ユアンが初めて言葉を発した。

「そうか。だが、いずれ全てを伝えなければならん。」

「………もう少し、考える時間を、下さい。」

「わかった。…マリが会いたがっている。部屋へ入れてもいいか?」

翡翠の瞳を瞬かせ、ユアンは嬉しそうに頷いた。





執務室へと戻ったカイゼルは、目の前に重なる書類の束を前に、深く溜め息を吐いた。

あの日、カイゼルは、マリが部屋を出て行った後、暴れるユアンを押さえつけ、汗で濡れ所々破れたその衣服を、脱がせようとしていた。

下履きへと手をかけたとき、その違和感に気が付いた。

おそらく、濡れてぐしゃぐしゃになっているかと思われたそれは、汗でしっとりとはしているが、想像していたものとは、違っていた。

下履きを剥がれた、ユアンのそこは、慎ましく立ち上がり、今にもはち切れそうではあったが、精を吐き出した様子が全くない。

まさか………………いや、そんなはず………

カイゼルの手が、撫であげるようにそこへと触れると、

うあああああああああああ!!!

と嬌声を上げ、ユアンがその手に、精を吐き出した。

おそらく、それは、ユアンの初めての精通だった。

「孕み子」であることの事実を理解していたユアンは、投薬と共に、ずっとその身体を管理し続けていた。

万が一に備え、辺境の執事にも、薬の飲み忘れがないようその管理を依頼し、二重に徹底していた程だ。

それでも、本来「孕み子」は性的に早熟である。

自らを慰める術を、早くから身につけているはずであるのに、おそらくユアンはそれをしていなかった。

目に見えない形で、じわじわとユアンの中には熱が蓄えられ、薬でも抑え切れない程、限界を迎えていたのではないか。

それが、今回の発情に繋がったのではないかと、カイゼルは考えていた。

一度精通を覚えたユアンの身体は、その後夥しい程の匂いを発し、「孕み子」としてのさがを開花させた。

前からはダラダラと精液が流れ続け、後ろはぐっしょりと濡れ上がり、早く与えろと言わんばかりにカイゼルの身体を求めた。

カイゼルとて、これまで何度も「孕み子」たちの、哀れな姿を見てきた。

他に方法はないのだ。

その行為自体に、カイゼルは何の思い入れもない。

熱が溜まれば、その時々で誘われるまま、身体を繋げてきた。

ただ熱を吐き出すだけのそれは、相手が誰であろうとも、何の感慨もないものだ。

流石に前妻を娶ってからは、誰でも、ということはなくなったが。

抱くことは、難しいことではない。簡単なことだ。

それでも、ユアンを目の前に、カイゼルは躊躇してしまう。

ユアンは、そのように抱いていい存在ではない。

にいるべきだったのは、ユアンだ。

あの男に愛され、幸せそうに微笑んでいるのは、ユアンのはずだった。

寄り添い合う2人から、遠く離れたこの場所で、

ユアンは1人、たった1人、与えられない苦しみに耐えていた。

苦しまずとも、いくらでも満足できるぐらいに、与えられるべき存在だったのに。


「…わたしのような者で、すまない。耐えてくれ、ユアン。」


そう言って、カイゼルはユアンの中へと身を落としたのだった。






「ユアンさま!!!」

部屋へと入ってきたマリは、ユアンへと抱きついた。

「ユアンさま!よかった!よかったあ、ユアンさまああああああ。」

マリとユアンは、2人抱き合って泣いた。

「ありがとう。マリ、ありがとう。マリの声はずっと聞こえていたよ。マリのおかげ。ありがとう。マリ。」

側から見ると、まるで2人の子どもが泣き合っているかのように、

2人は声をあげ、暫く泣き続けていた。













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