86 / 113
第9章
9
しおりを挟む
「カイゼル様は、知っていたんですね。ずっと……。知っていて、それで、」
「…知っていた、というより、気が付いていた。それだけだ。2人がどうこうしていた訳ではない。」
「2人って……相手の方は…」
「ここの、騎士だった。わたしの采配が悪かった。そのせいで、フィーネより少し前に亡くなっている。」
「そんな………」
「ユアン、わたしを軽蔑するか?気付いていながら、わたしは見て見ぬ振りをしていた。あの2人の気持ちなど、わたしには関係ないとな…」
「軽蔑なんて、そんな!」
「いいんだ。わたしも、後悔している。もっと他にやりようがあったかもしれん。フィーネはよくやっていた。フィーネのおかげで、助かっていたことも多々あった。」
「………………」
「わたしの元へ嫁いで来たせいで……。わたしはフィーネを不幸にした。フィーネだけではない。フィーネが愛していた騎士もだ。」
「そんな、違う!違います!カイゼル様は何も悪くありません!」
「いいんだ、ユアン。フィーネは、子を欲しがっていた。本当はきっと、愛する者の子が欲しかったのだろうな……」
ユアンは胸が痛い。
ユアンはカイゼルの子どもの頃の過去を知っている。王が話してくれた、過去を。
愛していないと、ずっと言い続けられていた、過去を。
自分を愛していないと、そう言う人をカイゼルは2人も看取って来たのだ。
胸が抉られるように、痛い。
カイゼルはこの痛みを、ずっと1人で抱えてきたのだ。
「カイゼル様、ぼくがいるから!ぼくは、カイゼル様を愛しているから!」
ユアンは、見知らぬフィーネのことを少しだけ恨んだ。
カイゼルの過去を知らないとは言え、愛していないなど、そこまでいう必要があったのかと思う。
看取ってくれたカイゼルに向かって。
「あの時、もう誰も娶ることはないと、そう誓ったが、ユアン、お前に出会えた。」
カイゼルは悲しげに、ユアンを抱き寄せた。
「ユアン、お前さえいてくれれば、他にはもう何もいらない。だから、側にいてくれ。それだけでいい。ずっと、わたしの側にいてくれ。」
「カイゼル様、ずっとお側にいますから。絶対に離れません。絶対に。」
「わたしは、お前を幸せにしてやることができないかもしれん。みな、側にいる者は不幸になる…」
「違う!ぼくは幸せだから!ぼくもカイゼル様がいてくれれば、それだけでいい!」
ユアンは俯くカイゼルの頬に、額に口元にたくさん口付けをした。
「……ふっ、ユアンくすぐったいぞ。」
「カイゼル様、愛しています。たくさん愛しているよ。ぼくだけがカイゼル様を愛していれば、それでいいでしょう?ぼくだけで、いいでしょう?」
カイゼルを覗き込む翡翠の瞳は、潤んでいる。
「ユアン…」
「ぼくだけじゃ、足りない?」
「……お前さえいてくれれば、それだけでいい。」
「……あ、少し待っていて!」
ユアンは寝台を降りると、続き間の引き出しから、王に託された木箱を持ち出した。
「これは、カイゼル様のものだから。カイゼル様が持っていて下さい。」
ユアンは大事そうにそっと、カイゼルへと差し出した。
兄王がユアンに渡したという簡素な木箱だ。
「これは、何が入って…」
ユアンが蓋を開け、中の数枚をカイゼルへと手渡す。
「これは……あの女の…」
カイゼルは次々に、その紙片に書かれた文字を読み進めていく。
「なぜ、今さら………」
震えるカイゼルをユアンが抱きしめる。
「本当は、ぼくだけがカイゼル様を愛していたかったけど、ぼくだけじゃ、なかったんですね……」
それは、弱々しい筆跡で、思いついたことをそのまま書き綴ったような、そんな内容のものだった。
____カイゼル、わたしの愛しい子。
もう今さらでしょうね。
なぜ、今になって、気がついたのかしら。
気がつけば、いつもわたしの側にいたのは、あなただけだった。
わたしはきっと、もうすぐ死ぬのね。
わたしは、弱い人間だわ。
カイゼル、あなたの名を付けたのは、わたしよ。
強い子になって。そう願って付けたの。
わたしみたいな、弱い人間にならないで。
わたしを恨んでる?
恨んでるわよね。
ひどい母親だったわ。
母親と言えるのかしら。
母親なんて、言えないわね。
わたしのことを恨んだままでいい。それでいいから、強く生きて。幸せになって。
ねえ、どうしてかしら?
あんなに愛していたあの人の顔が思い出せないの。
目を閉じると浮かんでくるのは、カイゼルの顔だけ。
カイゼルと2人、ここを出て、2人だけで暮らしていれば。
わたしには、できない。わたしは弱かった。
もう全て、全て今さらなのよ。
カイゼル、愛してる。愛しい子。
愛してるの。ごめんなさい。弱い母親で。
愛している。ごめんなさい。
愛してる、カイゼル、愛しているわ。
わたしのことなど忘れて、
あなただけは、幸せになって、
カイゼル、わたしの愛しい子______
「…知っていた、というより、気が付いていた。それだけだ。2人がどうこうしていた訳ではない。」
「2人って……相手の方は…」
「ここの、騎士だった。わたしの采配が悪かった。そのせいで、フィーネより少し前に亡くなっている。」
「そんな………」
「ユアン、わたしを軽蔑するか?気付いていながら、わたしは見て見ぬ振りをしていた。あの2人の気持ちなど、わたしには関係ないとな…」
「軽蔑なんて、そんな!」
「いいんだ。わたしも、後悔している。もっと他にやりようがあったかもしれん。フィーネはよくやっていた。フィーネのおかげで、助かっていたことも多々あった。」
「………………」
「わたしの元へ嫁いで来たせいで……。わたしはフィーネを不幸にした。フィーネだけではない。フィーネが愛していた騎士もだ。」
「そんな、違う!違います!カイゼル様は何も悪くありません!」
「いいんだ、ユアン。フィーネは、子を欲しがっていた。本当はきっと、愛する者の子が欲しかったのだろうな……」
ユアンは胸が痛い。
ユアンはカイゼルの子どもの頃の過去を知っている。王が話してくれた、過去を。
愛していないと、ずっと言い続けられていた、過去を。
自分を愛していないと、そう言う人をカイゼルは2人も看取って来たのだ。
胸が抉られるように、痛い。
カイゼルはこの痛みを、ずっと1人で抱えてきたのだ。
「カイゼル様、ぼくがいるから!ぼくは、カイゼル様を愛しているから!」
ユアンは、見知らぬフィーネのことを少しだけ恨んだ。
カイゼルの過去を知らないとは言え、愛していないなど、そこまでいう必要があったのかと思う。
看取ってくれたカイゼルに向かって。
「あの時、もう誰も娶ることはないと、そう誓ったが、ユアン、お前に出会えた。」
カイゼルは悲しげに、ユアンを抱き寄せた。
「ユアン、お前さえいてくれれば、他にはもう何もいらない。だから、側にいてくれ。それだけでいい。ずっと、わたしの側にいてくれ。」
「カイゼル様、ずっとお側にいますから。絶対に離れません。絶対に。」
「わたしは、お前を幸せにしてやることができないかもしれん。みな、側にいる者は不幸になる…」
「違う!ぼくは幸せだから!ぼくもカイゼル様がいてくれれば、それだけでいい!」
ユアンは俯くカイゼルの頬に、額に口元にたくさん口付けをした。
「……ふっ、ユアンくすぐったいぞ。」
「カイゼル様、愛しています。たくさん愛しているよ。ぼくだけがカイゼル様を愛していれば、それでいいでしょう?ぼくだけで、いいでしょう?」
カイゼルを覗き込む翡翠の瞳は、潤んでいる。
「ユアン…」
「ぼくだけじゃ、足りない?」
「……お前さえいてくれれば、それだけでいい。」
「……あ、少し待っていて!」
ユアンは寝台を降りると、続き間の引き出しから、王に託された木箱を持ち出した。
「これは、カイゼル様のものだから。カイゼル様が持っていて下さい。」
ユアンは大事そうにそっと、カイゼルへと差し出した。
兄王がユアンに渡したという簡素な木箱だ。
「これは、何が入って…」
ユアンが蓋を開け、中の数枚をカイゼルへと手渡す。
「これは……あの女の…」
カイゼルは次々に、その紙片に書かれた文字を読み進めていく。
「なぜ、今さら………」
震えるカイゼルをユアンが抱きしめる。
「本当は、ぼくだけがカイゼル様を愛していたかったけど、ぼくだけじゃ、なかったんですね……」
それは、弱々しい筆跡で、思いついたことをそのまま書き綴ったような、そんな内容のものだった。
____カイゼル、わたしの愛しい子。
もう今さらでしょうね。
なぜ、今になって、気がついたのかしら。
気がつけば、いつもわたしの側にいたのは、あなただけだった。
わたしはきっと、もうすぐ死ぬのね。
わたしは、弱い人間だわ。
カイゼル、あなたの名を付けたのは、わたしよ。
強い子になって。そう願って付けたの。
わたしみたいな、弱い人間にならないで。
わたしを恨んでる?
恨んでるわよね。
ひどい母親だったわ。
母親と言えるのかしら。
母親なんて、言えないわね。
わたしのことを恨んだままでいい。それでいいから、強く生きて。幸せになって。
ねえ、どうしてかしら?
あんなに愛していたあの人の顔が思い出せないの。
目を閉じると浮かんでくるのは、カイゼルの顔だけ。
カイゼルと2人、ここを出て、2人だけで暮らしていれば。
わたしには、できない。わたしは弱かった。
もう全て、全て今さらなのよ。
カイゼル、愛してる。愛しい子。
愛してるの。ごめんなさい。弱い母親で。
愛している。ごめんなさい。
愛してる、カイゼル、愛しているわ。
わたしのことなど忘れて、
あなただけは、幸せになって、
カイゼル、わたしの愛しい子______
45
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる