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第9章
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あの女のことなど、なんとも思っていない。
ずっとそう思っていた。
恨んでさえいない。
あの女に対する想いは、無だ。
忘れていた記憶が蘇る。
息絶える直前、あの女は初めてカイゼルに向かって微笑んだ。
「カイゼル、ごめんね。……………る。」
最期に、声にならない言葉を発し、息を引き取った。
はくはくと、掠れた声で発した言葉は、
「あいしてる」
今のカイゼルには、確かにそう言っていたように聞こえる。
「カイゼル様…。ぼくを幸せにしてやれないかもしれないと仰っていましたけど…」
震えるカイゼルを抱きしめたまま、ユアンはカイゼルに語りかける。
「ぼくが、カイゼル様を幸せにするから、大丈夫です。」
「ユア、ン…」
「…さあ、カイゼル様。湯浴みに行きましょう。身体が冷えきっています。一緒に湯浴みしましょう。それから、温かいご飯を食べて、そして、今日も一緒に寝ましょう。」
さあ、さあ、と手を引くユアンに促され、カイゼルは部屋を出た。
身体は芯まで冷え切っていたはずなのに、ユアンがいるだけで、カイゼルは温かいと、そう思えた。
「ユアン様、これでどうでしょう?」
2人の事務官が不安気に尋ねてくる。
「もう少し、この部分を簡潔にまとめて、この間整理した資料も添付してカイゼル様に確認してもらいましょう。」
「はい!畏まりました!」
「ユアン様、こちらも一緒にカイゼル様にお渡ししていただいてよろしいでしょうか…」
「はい。一緒に確認してらもらいますね。」
「ありがとうございます!」
2人は顔を見合わせて言う。
「ユアン様が、ずっとここにいて下さると思うと、本当に心強いです。ユアン様は辺境の女神様です!」
2人の目はきらきらとしている。
「……いや、ぼく、男だし。女神様は、ちょっと言い過ぎですよ。」
ユアンは少し引き気味に答える。
「いいえ!ユアン様はわたしたちにとって、女神様ですから!」
もう苦笑いするしかない。
執務室に戻ったユアンはそわそわとしている。
「カイゼル様、こちらに確認して頂きたい書類をまとめておきますね。それで、あの、外に出てきても、いいですか?」
「ああ、あまり、はしゃぎ過ぎないように。わたしも後で行く。」
「はいっ!では、先に行ってますね!」
ユアンはいつものようにもこもこと着込んで、外へと急ぐ。
「あの、ユアン様っ」
「?」
「よろしければ、こちらを。」
数人の使用人達が、ユアンへと真っ白な毛糸の帽子を手渡す。
「?」
「外はとても寒いですし。耳当てだけでは…。それで、わたしたちが編んだ物なのですが……。」
「え、ぼくに?」
「はい。あの、ユアン様にこのような物は失礼かと思うのですが、宜しければ……」
「うわあ、ありがとう!もう使ってもいい?」
「は、はい!」
ユアンがふわふわとしたその帽子を被ると、使用人達はほぅと溜め息を吐いた。
「ああ、やっぱり…」
「ええ、お似合いだわ…」
「わたし、もう耐えられない…」
「???」
「ユアン様!わたくしたち、ユアン様を見ていると、とても創作意欲が沸くのです!」
「?????」
「これからも、ユアン様のために色々お作りしても宜しいですか!?」
「え?は、はい……?」
「ありがとうございます!」
きゃあきゃあ言いながら、使用人たちは仕事へと戻って行った。
ユアンは外へと急ぐ。
「ユアン様、お風邪をひかないように。お気をつけて。」
「はい!」
いそいそと急ぐユアンの姿に執事は微笑む。
ユアンは、初めて見る。
朝起きて、バルコニーから外を眺めて驚いたのだ。
扉を開けて外へ出ると、そこは真っ白な銀世界だ。
「うわあああ!」
駆け出すユアンに騎士達が声を掛ける。
「ユアン様!そんなに走ったら、危ないです!」
「ユアン様、そこは!」
そこは、少しだけ下りになっている。
…あ、転ぶ。
騎士達は思った。
「ユアン様!!!」
ころんころんと新雪の上を転がると、ユアンは仰向けに倒れ込んだ。
「……ふふ、ふふふ。」
「転んで何を笑ってる?」
カイゼルが怪訝そうに上から覗き込む。
「カイゼル様!ぼく、こんな風に転んだの初めてです!」
「転んで、楽しいのか?」
「はい!ふふふ。」
「おかしなやつだな。」
カイゼルも笑った。
「カイゼル様。ぼく、ここに来て良かったです!ここが大好きです!」
「そうか?寒いだけだぞ。」
「みんな、大好きです。カイゼル様が1番大好きです!」
「急にどうした?頭でも打ったか?」
「ふふふ。カイゼル様も寝転んでみて下さい!楽しいです!」
カイゼルがユアンの隣りに寝転ぶと、2人は空を見上げた。
空は澄んで、日差しが雪に反射して眩しい。
「……カイゼル様、カイゼル様に、もし今運命が現れたら、」
「運命?」
「ぼく、カイゼル様を殺してしまうかもしれません。」
「…随分物騒なことを言うな。」
「そして、ぼくも死ぬの。」
「………」
「ぼくに運命が現れたら、カイゼル様がぼくを殺して下さい。」
「…殺さない。わたしの元に閉じ込める。」
「そうか、その方法がありましたね。」
ふふふと、ユアンは笑う。
「閉じ込められてもいいのか?」
「カイゼル様なら、いいです。」
「では、今から部屋に閉じ込めようか。」
がばりと起き上がると、カイゼルはユアンを起き上がらせた。
「待って!もう少し、見ていたいです!」
「すぐに風邪をひくだろう。今日はここまでだ。」
「もう少しだけ!カイゼル様!」
「だめだ。」
「もう!」
いつも少しだけカイゼルの後ろに寄り添っていたユアンが、今はその隣りでカイゼルを見上げている。
カイゼルはユアンの腰を抱き寄せ、2人は寄り添って部屋へと戻っていった。
翌日。真っ白な辺境の地へ、思いもよらぬ人物が訪ねてきた。
カイゼルもユアンも、思いもよらぬ人物だった。
ずっとそう思っていた。
恨んでさえいない。
あの女に対する想いは、無だ。
忘れていた記憶が蘇る。
息絶える直前、あの女は初めてカイゼルに向かって微笑んだ。
「カイゼル、ごめんね。……………る。」
最期に、声にならない言葉を発し、息を引き取った。
はくはくと、掠れた声で発した言葉は、
「あいしてる」
今のカイゼルには、確かにそう言っていたように聞こえる。
「カイゼル様…。ぼくを幸せにしてやれないかもしれないと仰っていましたけど…」
震えるカイゼルを抱きしめたまま、ユアンはカイゼルに語りかける。
「ぼくが、カイゼル様を幸せにするから、大丈夫です。」
「ユア、ン…」
「…さあ、カイゼル様。湯浴みに行きましょう。身体が冷えきっています。一緒に湯浴みしましょう。それから、温かいご飯を食べて、そして、今日も一緒に寝ましょう。」
さあ、さあ、と手を引くユアンに促され、カイゼルは部屋を出た。
身体は芯まで冷え切っていたはずなのに、ユアンがいるだけで、カイゼルは温かいと、そう思えた。
「ユアン様、これでどうでしょう?」
2人の事務官が不安気に尋ねてくる。
「もう少し、この部分を簡潔にまとめて、この間整理した資料も添付してカイゼル様に確認してもらいましょう。」
「はい!畏まりました!」
「ユアン様、こちらも一緒にカイゼル様にお渡ししていただいてよろしいでしょうか…」
「はい。一緒に確認してらもらいますね。」
「ありがとうございます!」
2人は顔を見合わせて言う。
「ユアン様が、ずっとここにいて下さると思うと、本当に心強いです。ユアン様は辺境の女神様です!」
2人の目はきらきらとしている。
「……いや、ぼく、男だし。女神様は、ちょっと言い過ぎですよ。」
ユアンは少し引き気味に答える。
「いいえ!ユアン様はわたしたちにとって、女神様ですから!」
もう苦笑いするしかない。
執務室に戻ったユアンはそわそわとしている。
「カイゼル様、こちらに確認して頂きたい書類をまとめておきますね。それで、あの、外に出てきても、いいですか?」
「ああ、あまり、はしゃぎ過ぎないように。わたしも後で行く。」
「はいっ!では、先に行ってますね!」
ユアンはいつものようにもこもこと着込んで、外へと急ぐ。
「あの、ユアン様っ」
「?」
「よろしければ、こちらを。」
数人の使用人達が、ユアンへと真っ白な毛糸の帽子を手渡す。
「?」
「外はとても寒いですし。耳当てだけでは…。それで、わたしたちが編んだ物なのですが……。」
「え、ぼくに?」
「はい。あの、ユアン様にこのような物は失礼かと思うのですが、宜しければ……」
「うわあ、ありがとう!もう使ってもいい?」
「は、はい!」
ユアンがふわふわとしたその帽子を被ると、使用人達はほぅと溜め息を吐いた。
「ああ、やっぱり…」
「ええ、お似合いだわ…」
「わたし、もう耐えられない…」
「???」
「ユアン様!わたくしたち、ユアン様を見ていると、とても創作意欲が沸くのです!」
「?????」
「これからも、ユアン様のために色々お作りしても宜しいですか!?」
「え?は、はい……?」
「ありがとうございます!」
きゃあきゃあ言いながら、使用人たちは仕事へと戻って行った。
ユアンは外へと急ぐ。
「ユアン様、お風邪をひかないように。お気をつけて。」
「はい!」
いそいそと急ぐユアンの姿に執事は微笑む。
ユアンは、初めて見る。
朝起きて、バルコニーから外を眺めて驚いたのだ。
扉を開けて外へ出ると、そこは真っ白な銀世界だ。
「うわあああ!」
駆け出すユアンに騎士達が声を掛ける。
「ユアン様!そんなに走ったら、危ないです!」
「ユアン様、そこは!」
そこは、少しだけ下りになっている。
…あ、転ぶ。
騎士達は思った。
「ユアン様!!!」
ころんころんと新雪の上を転がると、ユアンは仰向けに倒れ込んだ。
「……ふふ、ふふふ。」
「転んで何を笑ってる?」
カイゼルが怪訝そうに上から覗き込む。
「カイゼル様!ぼく、こんな風に転んだの初めてです!」
「転んで、楽しいのか?」
「はい!ふふふ。」
「おかしなやつだな。」
カイゼルも笑った。
「カイゼル様。ぼく、ここに来て良かったです!ここが大好きです!」
「そうか?寒いだけだぞ。」
「みんな、大好きです。カイゼル様が1番大好きです!」
「急にどうした?頭でも打ったか?」
「ふふふ。カイゼル様も寝転んでみて下さい!楽しいです!」
カイゼルがユアンの隣りに寝転ぶと、2人は空を見上げた。
空は澄んで、日差しが雪に反射して眩しい。
「……カイゼル様、カイゼル様に、もし今運命が現れたら、」
「運命?」
「ぼく、カイゼル様を殺してしまうかもしれません。」
「…随分物騒なことを言うな。」
「そして、ぼくも死ぬの。」
「………」
「ぼくに運命が現れたら、カイゼル様がぼくを殺して下さい。」
「…殺さない。わたしの元に閉じ込める。」
「そうか、その方法がありましたね。」
ふふふと、ユアンは笑う。
「閉じ込められてもいいのか?」
「カイゼル様なら、いいです。」
「では、今から部屋に閉じ込めようか。」
がばりと起き上がると、カイゼルはユアンを起き上がらせた。
「待って!もう少し、見ていたいです!」
「すぐに風邪をひくだろう。今日はここまでだ。」
「もう少しだけ!カイゼル様!」
「だめだ。」
「もう!」
いつも少しだけカイゼルの後ろに寄り添っていたユアンが、今はその隣りでカイゼルを見上げている。
カイゼルはユアンの腰を抱き寄せ、2人は寄り添って部屋へと戻っていった。
翌日。真っ白な辺境の地へ、思いもよらぬ人物が訪ねてきた。
カイゼルもユアンも、思いもよらぬ人物だった。
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