ニアの頬袋

なこ

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ニア意識する

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「よく食べて、よく寝るんだな。」

ラルフの隣りではニアがすうすうと気持ち良さそうに眠っている。

「大きくなっても良さそうなのに、不思議な身体だ。」

こんなに健全に共寝することは、ラルフにとって初めての経験だ。

「さて、どうしたものか。」

胸元辺りまで服をはだけ、ニアは無防備に眠ったままだ。




ニアが裏庭に向かうと、既に先客がいる。

団長とノエルだ。

ノエルが座っている場所は、いつもならニアが座る場所なのに。

テーブルの上には、たくさんの昼食が並べられている。

ローストビーフ!

あれは、絶品だった。

二人はニアに気がつく様子もなく、見つめ合っては何か楽しげに話している。

「ほら、ノエル食べてごらん。」

団長が小さめに切り分けたローストビーフをノエルの口に差し出す。

「もう、そんなに食べられませんよ。」

「ノエルは少食だな。そこがまた、愛らしい。」

は?

たくさん食べるのが好きって言っていたのに?

「これなら食べられるだろう。」

真っ赤に熟した不思議な赤い果実の皮を、団長は丁寧に剥き出した。

見た目は真っ赤なのに、中の身は真っ白で、じゅくじゅくで甘くて、とっても美味しかった。

あれ?

ぼく、いつ食べたんだ?

美味し過ぎて、つい指まで舐めてしまった。

誰の指…?

「それなら、食べられそう。」

「ほら、ノエル、口を…」

ノエルが艶めかしく口を開いている。

その口に、真っ白な果実が、団長の太く長い指で……

「だめ!!それは、ぼくが食べるんだから!!」



ニアはがばりと起き上がった。

隣りでは団長が可笑しそうにくっくっと笑っている。

「……あ、夢?」

「夢の中でも何か食べていたのか?」

「だって、あれはぼくの……。」

「ニアの?」

「違う。ぼくのじゃないのに…。」

「まだ寝呆けているのか?」

「だって、あそこは僕の場所だし、あの実はとっても美味しかったから…」

「朝からおかしな奴だな。」

「…………。」

確かに、まだ寝呆けているのかもしれない。

「せっかく早く起きたことだし、少し出かけるか。」

「どこへ?」

「湖へ。」

「この辺に湖なんて、ありましたか?」

「あるんだ。」

「うわあ、見てみたい。」

「朝と昼は向こうで食べよう。」

「…でも、服。」

「うちの執事は優秀なんだ。」

ニアにぴったりの新しい服が、すでに用意されていた。



「あの、こんなに立派な服、ありがとうございます。」

「いえいえ、ラルフ様の大切なお方なのですから、これぐらいは当然のことです。」

用意されていた服は上等な生地でできている。

なかなかサイズの合う服を見つけられないニアにとって、こんなにぴったりと身体に合う服は貴重だ。

「夕飯も、とても美味しかったです。あんなに美味しいものを初めて食べました。ご馳走様でした。」

ぺこりと頭を下げるニアを、執事のニックと厨房を管轄するシェフが穏やかに微笑んで見ている。

「本当に、全部食べられたんですね。こちらこそ、きれいに完食していただき有難うございます。」

昨晩、まさか本当に三人分食べきるとは思っていなかったシェフは、綺麗に全て食べられた皿を見て満足していた。

「向こうに着いてから食べるものも沢山用意させたぞ。」

「またあんなに美味しいものが食べられるんですか?ありがとうございます!」

「そろそろ出発するか。夕方までは戻るだろう。」

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ。」

「一晩お邪魔しました。とてもお世話になりました。ありがとうございました。失礼します。」

ニアの挨拶に、ニックとシェフは変な顔をしていたが、ニアは気が付かなかった。

「行ってらっしゃいませ!」

二人に見送られ、ニアは何度も振り返って手を振った。

ラルフとニアの姿が見えなくなると、残された二人は顔を見合わせた。

「ニア様、もうここへ戻ってこないような挨拶をされていましたが…。」

シェフが呟く。

「昨晩ニア様が湯浴みをされているときに、これからはここで一緒に暮らすからと、ニア様の物を全て用意するように申し付けられているんですよね。」

ニックも呟く。

「ニア様、分かっていないのかなあ。」

「どうでしょう。」

「家に恋人を連れてくるなんて、初めてじゃないですか?」

「そうなんですよ。」

「あれは、相当…。」

「ですよね。」

「多分、今晩も…。」

「きっとここにお戻りになると思います。」

「あの食べっぷり、いいですよね。料理人魂に火がつきます。」

「ラルフ様もそんなことを仰っていました。」

「ははは。いい子じゃないですか。俺は気に入りましたよ。」

「そうですね。わたしも、気に入りました。」

「ラルフ様、うまく囲い込めるといいけど。」

「大丈夫でしょう。本気を出したラルフ様に落ちない相手はいませんよ。」

「ですよね。じゃあ、今晩のメニューでも考えようかな。」

「わたしも、色々と準備しないと。」

ニアの知らない所で、色んなことが着々と準備されている。





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