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ニア意識する
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「こんな所に湖があったなんて…。」
ニアが驚くのも無理はない。
「ここはな、代々うちで管理している湖なんだ。湖を囲う森も含め、ずっと管理されている。許可なき者は入れない場所だ。」
「すご……きれい…」
「綺麗だろう。昔からずっと手付かずのまま、自然のままだ。」
湖はそれ程大きなものではないが、透明で底まではっきりと透けて見える。
水面は穏やかで、太陽の光を反射しきらきらと輝き、周りをぐるっと森で囲まれ神秘的な雰囲気を醸し出している。
一棟だけ、ひっそりとコテージがあり、ニアはその棟に迎え入れられた。
「久しぶりに訪れるからな。少し埃っぽいか。」
「あ、ぼくお掃除しますよ。」
ニアはぱぱっと窓を開き、掃除道具を見つけると手際よく中を掃除し始めた。
「悪いな。」
「いえ。こういうのは得意です。それに、あんな綺麗な湖を見させてもらったお礼です。」
ぱたぱたと動き回るニアは、仕事中のニアの姿と重なる。
ラルフがつい目で追ってしまう、あの姿だ。
「ニア、遅くなったが、あそこで食べよう。もうすぐ昼になる。」
ラルフが指差す先には、ベランダがある。
テーブルと何脚かの椅子があり、湖を眺めながら食事を愉しめる造りになっている。
「わあ、素敵な場所!湖をこんな近くで見られるなんて。」
ニアがテーブルを水拭きすると、ラルフはその上に持ち込んだ料理の数々を並べていった。
「ずいぶん張り切って用意してくれたようだ。」
「美味しそう!」
「腹が減っただろう?」
ニアは恥ずかしそうに頷く。
「きれいに掃除してくれたんだな。ここはわたしが準備するから、少し湖でも見て来るか?」
「いいんですか?」
「ここから行けばすぐだ。ああ見えても水深は深いぞ。気をつけろよ。」
「じゃあ、少しだけ…。すぐに戻りますから!」
ととと、とニアは湖に向かって走り出した。
周りは森林だ。なんだか、実家にいた頃を思い出す。
二人の兄と川や森でよく遊んでいた。
「ここ、少しだけ入ってもいいですかあ!」
「いいが、気をつけろよ!」
「はーい!」
ベランダにいるラルフに声を掛け、履いていた靴を脱ぎ、膝上までズボンを捲り上げて、そっと水の中に足を踏み入れる。
「冷たっ!」
こんな所にこんな場所があったなんて。
「とっても水がきれいだなあ。」
手に取って掬い上げ、日にかざす。
「きれい……」
湖の浅瀬でぱしゃぱしゃと裸足で歩き回るニアの姿を横目に、ラルフは食事の準備を整えた。
「あんなにはしゃいで、ここから見ていると、本当に子どもにしか見えんのにな。」
まさか、ニアに惚れるとは思わなかった。
あれに欲情するなんて、自分もなかなか大概だ。
「うわあ!」
突然、ニアの前に見たことのない大きな黒い影が現れた。
ニアよりもずっと大きく、狼のような姿をしている。
「うそ、なんで?こういうのって、森の奥深くとか、夜とかに出るんじゃないの?」
湖の岸からニアを睨み、ぐるぐると喉を鳴らしている。
どうしよう。どうしよう。
助けを求めてベランダを見るが、先程までそこにいた団長の姿が見えない。
狼のような野獣は、時折長い舌をベロリと舐め上げ、ニアを睨み続けている。
どうしよう。団長、団長、助けて…
…あれ、何してるんだろう?
狼は後ろを振り向くと、ニアに向かってぶんぶんと尻尾を振り回し始めた。
大きく太い、モフモフの尻尾だ。
それでも、喉を鳴らしながらニアの事を睨み続けているのは変わりない。
食べられる?
こんなことなら、まだ団長に食べられた方が良かった…。
団長、どこ?
「おいっ!」
「団長!」
「何をしてるんだ!」
「急に、あれが出てきて…」
「ニアじゃない。」
ラルフと狼が暫くの間睨み合うと、狼は森の奥へと消えていった。
「すごい、団長。睨んだだけで…。」
「大丈夫か?」
湖から出てきたニアをラルフは抱き上げた。
「…怖かった。食べられるのかと、思いました。」
抱き上げるラルフにしがみつき、ニアは震えている。
「食べはしないと思うが…。」
「あれに食べられるなら、団長の方がいい。」
「ん?」
吊り橋効果か?
あの狼は、この森に昔から棲みつく主だ。
気に入らない者が入り込むと、追い払われる。
餌はたくさんあるので、人を食べたりしない。
ラルフの一族と共に、この湖をずっと守ってきた。
「そんなに、怖かったか?」
「はい。団長は、いつもあんなのと戦ったりしているんですね…。」
「いや、あれは、まあ、そうだな……」
ニアは怯えているが、あの狼はニアのことを脅そうとしていた訳ではない。
あんな風に尻尾を振り回すのは、求愛の証だ。
普段人前に出てこない主が突然現れ、ニアに向かって激しく求愛し始めたので、ラルフは慌ててここまで来たのだ。
相当気に入られたらしい。
「きっと、ぼくのこと、いい餌だって思ったんでしょうね。怖かった。団長、助けてくれて有難うございます。」
「そうだ、な。」
狼に欲情され、求愛されていたんだとは言い難く、ラルフは言葉を飲み込んだ。
あの主も、ラルフと同じ。
人間のニアに欲情するなど大概だ。
◇作者呟き◇
…どんな話しだよって、感じです。笑
思いつくまま自由に書いているので、深く考えずにお読み頂ければ幸いです…(。-_-。)
ニアが驚くのも無理はない。
「ここはな、代々うちで管理している湖なんだ。湖を囲う森も含め、ずっと管理されている。許可なき者は入れない場所だ。」
「すご……きれい…」
「綺麗だろう。昔からずっと手付かずのまま、自然のままだ。」
湖はそれ程大きなものではないが、透明で底まではっきりと透けて見える。
水面は穏やかで、太陽の光を反射しきらきらと輝き、周りをぐるっと森で囲まれ神秘的な雰囲気を醸し出している。
一棟だけ、ひっそりとコテージがあり、ニアはその棟に迎え入れられた。
「久しぶりに訪れるからな。少し埃っぽいか。」
「あ、ぼくお掃除しますよ。」
ニアはぱぱっと窓を開き、掃除道具を見つけると手際よく中を掃除し始めた。
「悪いな。」
「いえ。こういうのは得意です。それに、あんな綺麗な湖を見させてもらったお礼です。」
ぱたぱたと動き回るニアは、仕事中のニアの姿と重なる。
ラルフがつい目で追ってしまう、あの姿だ。
「ニア、遅くなったが、あそこで食べよう。もうすぐ昼になる。」
ラルフが指差す先には、ベランダがある。
テーブルと何脚かの椅子があり、湖を眺めながら食事を愉しめる造りになっている。
「わあ、素敵な場所!湖をこんな近くで見られるなんて。」
ニアがテーブルを水拭きすると、ラルフはその上に持ち込んだ料理の数々を並べていった。
「ずいぶん張り切って用意してくれたようだ。」
「美味しそう!」
「腹が減っただろう?」
ニアは恥ずかしそうに頷く。
「きれいに掃除してくれたんだな。ここはわたしが準備するから、少し湖でも見て来るか?」
「いいんですか?」
「ここから行けばすぐだ。ああ見えても水深は深いぞ。気をつけろよ。」
「じゃあ、少しだけ…。すぐに戻りますから!」
ととと、とニアは湖に向かって走り出した。
周りは森林だ。なんだか、実家にいた頃を思い出す。
二人の兄と川や森でよく遊んでいた。
「ここ、少しだけ入ってもいいですかあ!」
「いいが、気をつけろよ!」
「はーい!」
ベランダにいるラルフに声を掛け、履いていた靴を脱ぎ、膝上までズボンを捲り上げて、そっと水の中に足を踏み入れる。
「冷たっ!」
こんな所にこんな場所があったなんて。
「とっても水がきれいだなあ。」
手に取って掬い上げ、日にかざす。
「きれい……」
湖の浅瀬でぱしゃぱしゃと裸足で歩き回るニアの姿を横目に、ラルフは食事の準備を整えた。
「あんなにはしゃいで、ここから見ていると、本当に子どもにしか見えんのにな。」
まさか、ニアに惚れるとは思わなかった。
あれに欲情するなんて、自分もなかなか大概だ。
「うわあ!」
突然、ニアの前に見たことのない大きな黒い影が現れた。
ニアよりもずっと大きく、狼のような姿をしている。
「うそ、なんで?こういうのって、森の奥深くとか、夜とかに出るんじゃないの?」
湖の岸からニアを睨み、ぐるぐると喉を鳴らしている。
どうしよう。どうしよう。
助けを求めてベランダを見るが、先程までそこにいた団長の姿が見えない。
狼のような野獣は、時折長い舌をベロリと舐め上げ、ニアを睨み続けている。
どうしよう。団長、団長、助けて…
…あれ、何してるんだろう?
狼は後ろを振り向くと、ニアに向かってぶんぶんと尻尾を振り回し始めた。
大きく太い、モフモフの尻尾だ。
それでも、喉を鳴らしながらニアの事を睨み続けているのは変わりない。
食べられる?
こんなことなら、まだ団長に食べられた方が良かった…。
団長、どこ?
「おいっ!」
「団長!」
「何をしてるんだ!」
「急に、あれが出てきて…」
「ニアじゃない。」
ラルフと狼が暫くの間睨み合うと、狼は森の奥へと消えていった。
「すごい、団長。睨んだだけで…。」
「大丈夫か?」
湖から出てきたニアをラルフは抱き上げた。
「…怖かった。食べられるのかと、思いました。」
抱き上げるラルフにしがみつき、ニアは震えている。
「食べはしないと思うが…。」
「あれに食べられるなら、団長の方がいい。」
「ん?」
吊り橋効果か?
あの狼は、この森に昔から棲みつく主だ。
気に入らない者が入り込むと、追い払われる。
餌はたくさんあるので、人を食べたりしない。
ラルフの一族と共に、この湖をずっと守ってきた。
「そんなに、怖かったか?」
「はい。団長は、いつもあんなのと戦ったりしているんですね…。」
「いや、あれは、まあ、そうだな……」
ニアは怯えているが、あの狼はニアのことを脅そうとしていた訳ではない。
あんな風に尻尾を振り回すのは、求愛の証だ。
普段人前に出てこない主が突然現れ、ニアに向かって激しく求愛し始めたので、ラルフは慌ててここまで来たのだ。
相当気に入られたらしい。
「きっと、ぼくのこと、いい餌だって思ったんでしょうね。怖かった。団長、助けてくれて有難うございます。」
「そうだ、な。」
狼に欲情され、求愛されていたんだとは言い難く、ラルフは言葉を飲み込んだ。
あの主も、ラルフと同じ。
人間のニアに欲情するなど大概だ。
◇作者呟き◇
…どんな話しだよって、感じです。笑
思いつくまま自由に書いているので、深く考えずにお読み頂ければ幸いです…(。-_-。)
応援ありがとうございます!
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