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ニアのいなくなった団長室には先程までの穏やかな空気はない。
険しい顔つきの総司令官と、同じく険しい顔をした第二騎士団団長、親子とは思えないようなひりひりとした空気が流れている。
「ニアが第十王子のお子など、聞いていませんでしたが。」
「公にしていなかったからな。」
「秘匿されていたと?あのようにあっさりと公言されて良かったのですか?」
司令官は表情を崩さない。
「ニア様が除籍された第十王子のお子であることを公言しない、特別扱いしない、これが王子から出された条件だ。」
すでに噂は広がっているかもしれない。王子に出された条件とやらを父はあっさりと覆えしてしまった。
この余裕はなんなのだろう。
「それなのに、ばらしてしまったのは父上でしょう?」
「除籍されていないのだから、構わんだろう。」
「まさか、今回ここに来られたのは…」
「ニア様が試験を受けられた際、筆記の他に特別な身体検査もさせてある。」
「結果が、出たのですね。」
「そうだ。除籍されていない王子のお子で、王子の体質を受け継いでおられる。特別なお方だ。」
「ニアに会うこと、王宮へ連れ戻すことが目的だったと。」
「お前のせいで少々予定が狂ってしまったが、嬉しい誤算だ。」
「王には申し訳ありませんが、ニアが帰る場所はわたしのところ以外ありませんよ。」
「はっ、短期間でずいぶんと惚れ込んだものだな。」
たったったっ、と小走りに部屋へと向かう足音が聞こえてくる。
二人は顔を見合わせて、ニヤリと笑った。
ばんっと扉が開かれると同時に、息を切らしたニアが飛び込んで来る。
「団長!大変です!ぼくの荷物がなくなってて、泥棒?あと、これ、この指輪が!」
ひらひらと左手を振るニアの薬指には、ラルフ一族が大切に受け継いできた歴史ある指輪がぴたりとはまっている。
「勝手に、だから、ぼく、泥棒じゃないんです!全然外れなくて、お願いだから外してくださいっ!」
ニアの左手を目を細めながら司令官が食い入るように見つめてくる。
どうしよう、ぼく捕まってしまう?
司令官と団長に捕らえられる姿を想像し、ニアは震えあがった。
「ほう、これは、ずいぶんぴたりと収まっておるな。」
「ええ、指輪にまで認められたのですから、もう誰にも反対などできません。」
ラルフはニアの左手を手に取り、指輪がはまった薬指をうっとりと眺めている。
「ニア様。」
司令官の低く響く呼び声に、ニアはびくっと跳ね上がる。
「これはもう仕方ありませんぞ。」
「だから、ぼく、盗んでなんか…ひっ!な、、なにしてるんですか!」
団長がニアの左手薬指を口に含んで、舐め始めた。
「わたしからの贈り物だ。こんなにぴたりと収まるなんて、ニアはやはり堪らないな。」
「え、この指輪団長からぼくに?」
団長の舌が指に纏わりつき、ニアはそわそわとした変な気持ちになる。
「そうだ。受け取ってくれてありがとう。」
受け取ってなんかいない。
勝手に指輪が…
って、そんなことある?
「ちが、受け取ったんじゃなく、それに、団長からの贈り物だなんて、知らなかったし、それよりも舐めないで!」
何度も指を引き抜こうとするが、団長の舌と口が離してくれない。
何やってるのこの人…
自分の父親の前で…
おじさんも、注意してよ…
「赤い実と、あの森に棲まう主と、この指輪と、そしてラルフまで…ニア様は、我が一族にとって、なんと罪づくりなお方なのでしょうな。」
「はい?」
団長だけでなく、おじさんまで何を言っているのか、ちょっとよくわからない…。
「さあ、参りましょう。」
おじさんが急に立ち上がったので、ニアは驚く。
「行くって、何処へ?」
「王宮で王がお待ちです。」
「は?なんで?王?」
ちゅぷっと、吸いついていた指を名残りおしそうに口から抜くと、ラルフが声をあげる。
う、唾液でべとべと、変態…
「必ず今日中に、うちに返して下さい。でなければ、行かせません!」
うち?返す?帰す?どっち?
あ、帰っても、ぼくの荷物!
「ぼくの荷物は!?ベーコンは?泥棒は!?」
「ベーコンは朝食で食べただろ?荷物はうちに移動してあるから、安心しろ。」
団長、何言ってるんだ?
今朝、団長の家で食べた朝食のベーコンは厚切りにしてあり、とても美味しかった。
ニアのとっておきのベーコンとよく似た味だった。
「え、あのベーコンって…。」
「そろそろ出発しますぞ。」
司令官に抱き上げられ、ニアの視線がぐんと高くなる。
「あまりニアに触れないで頂きたい。」
「ニア様に逃げられては困るからな。」
ベーコン、朝のベーコンは、ニアの…?
事務室に戻った司令官と、司令官に抱えられたニアと、面白くない顔をした団長の三人の姿に、全員がぎょっとした。
「そういう訳で、これからニア様を王宮へとお連れする。後は宜しく頼む。」
「父上、必ず今日中にニアを返して下さいよ。」
なぜか虚ろなニアの頬にラルフは何度も頬ずりし、その口に軽く口づけを落とした。
____そういう訳って、どういう訳?
ニア様、なんか虚ろなんだけど…
団長って、あんな感じだった?
ああ、ニア様、なんか、ドナドナ。
お元気で…ドナドナ
総司令官に抱えられ一際小さくみえる、とても小さなニアの後ろ姿を皆んなが見送った。
あ、ノエル。
いつもニアに絡んできていたノエルと目が合うが、ニアと目が合うと気まずそうにその目を逸らされる。
ノエル、なんか言って!!!
いつも必ずなんか言ってきたのに!
ノエルは長いものに巻かれるタイプだ。
ニアへの言動が不敬にならないか、今はもうそれだけが心配なので、ニアの助けを求めるような視線には気がつかないふりをした。
険しい顔つきの総司令官と、同じく険しい顔をした第二騎士団団長、親子とは思えないようなひりひりとした空気が流れている。
「ニアが第十王子のお子など、聞いていませんでしたが。」
「公にしていなかったからな。」
「秘匿されていたと?あのようにあっさりと公言されて良かったのですか?」
司令官は表情を崩さない。
「ニア様が除籍された第十王子のお子であることを公言しない、特別扱いしない、これが王子から出された条件だ。」
すでに噂は広がっているかもしれない。王子に出された条件とやらを父はあっさりと覆えしてしまった。
この余裕はなんなのだろう。
「それなのに、ばらしてしまったのは父上でしょう?」
「除籍されていないのだから、構わんだろう。」
「まさか、今回ここに来られたのは…」
「ニア様が試験を受けられた際、筆記の他に特別な身体検査もさせてある。」
「結果が、出たのですね。」
「そうだ。除籍されていない王子のお子で、王子の体質を受け継いでおられる。特別なお方だ。」
「ニアに会うこと、王宮へ連れ戻すことが目的だったと。」
「お前のせいで少々予定が狂ってしまったが、嬉しい誤算だ。」
「王には申し訳ありませんが、ニアが帰る場所はわたしのところ以外ありませんよ。」
「はっ、短期間でずいぶんと惚れ込んだものだな。」
たったったっ、と小走りに部屋へと向かう足音が聞こえてくる。
二人は顔を見合わせて、ニヤリと笑った。
ばんっと扉が開かれると同時に、息を切らしたニアが飛び込んで来る。
「団長!大変です!ぼくの荷物がなくなってて、泥棒?あと、これ、この指輪が!」
ひらひらと左手を振るニアの薬指には、ラルフ一族が大切に受け継いできた歴史ある指輪がぴたりとはまっている。
「勝手に、だから、ぼく、泥棒じゃないんです!全然外れなくて、お願いだから外してくださいっ!」
ニアの左手を目を細めながら司令官が食い入るように見つめてくる。
どうしよう、ぼく捕まってしまう?
司令官と団長に捕らえられる姿を想像し、ニアは震えあがった。
「ほう、これは、ずいぶんぴたりと収まっておるな。」
「ええ、指輪にまで認められたのですから、もう誰にも反対などできません。」
ラルフはニアの左手を手に取り、指輪がはまった薬指をうっとりと眺めている。
「ニア様。」
司令官の低く響く呼び声に、ニアはびくっと跳ね上がる。
「これはもう仕方ありませんぞ。」
「だから、ぼく、盗んでなんか…ひっ!な、、なにしてるんですか!」
団長がニアの左手薬指を口に含んで、舐め始めた。
「わたしからの贈り物だ。こんなにぴたりと収まるなんて、ニアはやはり堪らないな。」
「え、この指輪団長からぼくに?」
団長の舌が指に纏わりつき、ニアはそわそわとした変な気持ちになる。
「そうだ。受け取ってくれてありがとう。」
受け取ってなんかいない。
勝手に指輪が…
って、そんなことある?
「ちが、受け取ったんじゃなく、それに、団長からの贈り物だなんて、知らなかったし、それよりも舐めないで!」
何度も指を引き抜こうとするが、団長の舌と口が離してくれない。
何やってるのこの人…
自分の父親の前で…
おじさんも、注意してよ…
「赤い実と、あの森に棲まう主と、この指輪と、そしてラルフまで…ニア様は、我が一族にとって、なんと罪づくりなお方なのでしょうな。」
「はい?」
団長だけでなく、おじさんまで何を言っているのか、ちょっとよくわからない…。
「さあ、参りましょう。」
おじさんが急に立ち上がったので、ニアは驚く。
「行くって、何処へ?」
「王宮で王がお待ちです。」
「は?なんで?王?」
ちゅぷっと、吸いついていた指を名残りおしそうに口から抜くと、ラルフが声をあげる。
う、唾液でべとべと、変態…
「必ず今日中に、うちに返して下さい。でなければ、行かせません!」
うち?返す?帰す?どっち?
あ、帰っても、ぼくの荷物!
「ぼくの荷物は!?ベーコンは?泥棒は!?」
「ベーコンは朝食で食べただろ?荷物はうちに移動してあるから、安心しろ。」
団長、何言ってるんだ?
今朝、団長の家で食べた朝食のベーコンは厚切りにしてあり、とても美味しかった。
ニアのとっておきのベーコンとよく似た味だった。
「え、あのベーコンって…。」
「そろそろ出発しますぞ。」
司令官に抱き上げられ、ニアの視線がぐんと高くなる。
「あまりニアに触れないで頂きたい。」
「ニア様に逃げられては困るからな。」
ベーコン、朝のベーコンは、ニアの…?
事務室に戻った司令官と、司令官に抱えられたニアと、面白くない顔をした団長の三人の姿に、全員がぎょっとした。
「そういう訳で、これからニア様を王宮へとお連れする。後は宜しく頼む。」
「父上、必ず今日中にニアを返して下さいよ。」
なぜか虚ろなニアの頬にラルフは何度も頬ずりし、その口に軽く口づけを落とした。
____そういう訳って、どういう訳?
ニア様、なんか虚ろなんだけど…
団長って、あんな感じだった?
ああ、ニア様、なんか、ドナドナ。
お元気で…ドナドナ
総司令官に抱えられ一際小さくみえる、とても小さなニアの後ろ姿を皆んなが見送った。
あ、ノエル。
いつもニアに絡んできていたノエルと目が合うが、ニアと目が合うと気まずそうにその目を逸らされる。
ノエル、なんか言って!!!
いつも必ずなんか言ってきたのに!
ノエルは長いものに巻かれるタイプだ。
ニアへの言動が不敬にならないか、今はもうそれだけが心配なので、ニアの助けを求めるような視線には気がつかないふりをした。
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