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「君のことが好きだ。愛してる。だから僕の恋人になってほしい」真っ直ぐにこちらを見つめながら訴えかけてくる姿を見ているうちに自然と涙が流れ出していた。何故泣いているのか自分でもわからなかったが止めようと思っても止まらないので困っていると彼に抱き締められてしまった。最初は抵抗しようとしたが優しく包み込まれるような感覚に身を委ねると段々と力が抜けていき最終的には身を任せてしまっていた。それからどれくらいの時間が経っただろうか?数分かもしれないし数時間かもしれない。時間の感覚が麻痺するほど長い時間そうしていたのだが唐突に彼が離れる気配を感じたので名残惜しく感じていると額に口づけされたので驚いて顔を上げると目が合った瞬間に微笑まれたことで恥ずかしくなって顔を背けてしまった。だが次の瞬間には顎を掴まれて無理矢理正面を向かされると再び唇を重ねられてしまった。しかも今度は舌まで入れられてしまったために息が苦しくなって呼吸が荒くなったがそれでも構わず続けられていたため意識が朦朧としてきた頃にようやく解放された時には完全に脱力しきっており自力で立つことすらできなくなっていたのだった。
そんな状態の私に彼は囁くように言った。「返事を聞かせてもらえるかな?」その言葉にハッとした私は慌てて首を横に振った後で彼の目を見つめながらはっきりと告げた。「お断りします」それを聞いた瞬間、彼の顔が曇ったように見えたがすぐに笑顔に戻ると再度問いかけてきた。「理由を聞いてもいいかな?」その問いに答えるかどうか迷った挙句、正直に話すことにした。「だってあなた浮気してるじゃないですか!」そう言うと彼は驚いたように目を見開いた後、バツが悪そうに目を逸らしたが観念したのか溜息をつくと話し始めた。
その内容はこうだった。どうやら彼は複数の女性と関係を持っているらしく、私にも手を出そうとしていたようだったがそれは絶対に嫌だったので拒絶したところ逆上して襲われそうになったため必死になって逃げ回った結果、現在に至るというわけだ。それを聞いて怒りが込み上げてきた私は彼を睨みつけながら言った。「最低ですね!もう二度と近づかないでください!!」吐き捨てるように言い放つと背を向けて立ち去ろうとしたのだが腕を掴まれてしまったため振り返ると真剣な表情をした彼と視線がぶつかった。その瞳からは強い意志のようなものが感じられて気圧されそうになったが負けじと睨み返すと彼が言った。「待ってくれ、話を聞いてくれ」懇願するような声色に一瞬躊躇したものの振り払うと駆け出した。背後から呼び止める声が聞こえてきたが無視して走り続けた結果、家に着く頃には息も絶え絶えになっていたが構わず部屋に入るとベッドに倒れ込み枕に顔を埋めた。
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