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第110話

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 私の言葉遣いが変化したのは、リザベルトと過ごす時間が長かったせいだろう。人は、つきあう相手の影響を多分に受けてしまうもの。いつの間にか、私の立ち振る舞いは、以前とは大きく違うものになっていた。

「エリウッド様は、以前の私の方が、お好きでしたか?」

「言葉遣いや身のこなしで人の内面が変わるわけではない。お前の振る舞いたいように振る舞えばいいさ。ただ、少々寂しくはあるな。お前には、気など使わず、距離を詰めて接してほしかったが、これではますます距離は遠のくばかりだ」

 私は苦笑して言う。

「今やパーミルの国王陛下となられたエリウッド様に、気を使わないというわけにはいきませんよ。こうして隣り合って、物理的に距離を縮めてるだけで、我慢してください」

「おっ、その生意気な物言い。少しずつ昔の勘が戻ってきたようだな、嬉しいぞ」

 そして私たちは、手を握り合ったまま、しばらく黙っていた。
 その静寂を、エリウッドが打ち破る。穏やかな水面に小石を落とすように。

「なあ、マリヤ。『国王となった俺に気を使わないわけにはいかない』というのなら、お前も俺の隣に来てくれないか? そして今度こそ、気を使わずに、ごく自然に、接してほしい」

「隣になら、今座っているじゃないですか?」

「そういうことじゃない。俺の隣――つまり、妻になってほしいと言っているんだ」

「えっ……」

「戯れで言っているのではないぞ。俺は、女にこれほど心を許したのは初めてだ。お前と話していると……いや、話をしていなくても、共にいるだけで心が安らぐ」

「…………」

「おっと、もう休憩時間の10分が経ってしまったな。そろそろ政務に戻らねばならん。マリヤ、重ねて言うが、いま述べたことは戯れではない。また次に会う時までに、答えを決めておいてくれ。それではな」





 考えなければならない重大事項がまた一つ増え、ますます悩みを募らせる私は、久方ぶりに城下町を訪れた。時刻は昼下がり。向かったのは、いつだったか、メリンダと二人で話をした公園だ。

 ……この時間帯にあそこに行けば、お昼の休憩時間を潰しているメリンダに会えると思ったのだ。とにかく、王宮内の問題と無関係な人と話がしたかった。

 しかし、メリンダはいなかった。
 どうにも気になって、役所へと足を運ぶ。

 すると、役所の庭園から、楽しげな声が聞こえてきた。
 話していたのは、役所の職員と思しき女性たちと、メリンダだ。
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