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第2話

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 職を失い、寮を追い出された以上、私にできる選択は、聖騎士団のある都を離れ、実家に帰るということだけだった。

『聖女』として活動してきた中で得た戦闘経験を活かせば、あるいは都の傭兵として生きていくこともできたかもしれないが、とてもそんな気力は残っていない。

 何より、久々に故郷に戻り、家族の顔が見たかった。……いや、もっと正直に言うなら、婚約者であるルドウィンに会いたかった。

 私の婚約者、ルドウィン・アルフェスは、地方の小貴族の次男坊である。

 小貴族の次男坊と言っても、貴族は貴族であり、本来なら平民である私が婚約者に選ばれることなどあり得なかった。だが、三年前、私が聖女になったことをきっかけに、アルフェス家から縁談があり、父は私の話も聞かずに、ルドウィンとの婚約を決めてしまった。

 ……当然のことだが、その頃の私は憤慨した。

 いくら貴族との縁談とはいえ、私の意思などお構いなしに、そんな大事なことを決めてしまうなんて。普通の感性があれば、怒って当たり前である。

 しかし、何度かルドウィンと会い、言葉を交わすうちに、そんな怒りは最初からなかったかのように霧散してしまった。

 ルドウィンの、女性的で儚げな、整った顔立ちに惹かれた――というのもあるが、彼が、私がそれまで抱いていた傲慢な貴族のイメージとは大きく異なる、穏やかで物静かな男性だったことが、最も大きい。

 幼少時から思春期に至るまで、私の周りにいる男性たちは皆、基本的に主張の強い人々ばかりだったので、ルドウィンの奥ゆかしさが、私にはとても新鮮に感じ、その感情が恋心に育つまで、時間はかからなかった。

 だが、私が『聖女』になってから三年、ルドウィンと会うことができたのは、片手の指よりも少ない数だけ。

 それを思えば、聖女をクビになり、こうして故郷に帰って、再びルドウィンと会えることが、大変な幸運のように思えてくる。

 ……そうよね。
 私、もともと『聖女』なんてガラじゃないもの。

 このまま故郷に戻って、えっと、その、ルドウィンのお嫁さんにしてもらうのが、一番幸せなことに違いないわ。

 はやる気持ちを抑えながら歩を進め、私は約一週間かけて、故郷のレシシュ村に戻った。そして、実家に帰るよりも先に、この辺り一帯を治めるアルフェス家――つまり、ルドウィンのお屋敷に向かった。

 時刻は夕方。

 幸運と言うべきか、運命と言うべきか。
 私はアルフェス家の門前で、趣味の遠乗りから帰って来たばかりのルドウィンと出会うことができた。前に会った時と少しも変わっていない優しげな顔立ちに胸がいっぱいになり、思わず瞳を潤ませ、私は上ずった声をあげてしまう。

「ルドウィン! 私よ! えっと、その……何ヶ月、ぶりかな……」

 大きな声を出し、急に気恥ずかしくなった私を見て、ルドウィンは天使のような優しい笑みを浮かべた。
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