聖女をクビにされ、婚約者も冷たいですが、優しい義兄がいるので大丈夫です【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
3 / 38

第3話

しおりを挟む
「ローレッタ、どうしてここに? 『聖女』であるきみが故郷に帰れるのなんて、年に一度か二度――魔物の襲撃が極端に少ない厳冬の時期だけのはず」

 当然の問いだ。

 今は初夏。
 春ほどではないものの、魔物たちの侵攻が激しい時期であり、本当なら、『聖女』である私が聖騎士団を離れていいはずがない。都に残った騎士団員たちのことを思うと、もっと必死になってエグバートに食い下がり、土下座をしてでも聖騎士団に残るべきだったのかもしれない。

 土下座――

 自分自身で思い浮かべてしまった卑屈な言葉に、悔しさが湧き上がってくる。

 私生活を犠牲にしてまで『聖女』として頑張ってきたのに、どうして私があんなくだらない男に土下座しなきゃならないの……!

 悔しさはやがて怒りに変わり、その怒りも、数秒もしないうちに虚しさと悲しみへ変わってしまった。だって、今更どれだけ憤ろうが、嘆こうが、もうどうしようもないもの。

 私は一度だけ深呼吸をして、事の顛末をルドウィンに話した。

 大げさに慰めてもらいたいわけじゃないけど、彼の口から一言、『大変だったね』と言ってほしかった。その温かいねぎらいの言葉があれば、私は気力を取り戻し、また何か、新しいことに取り組んでいける――そんな気がしたのだ。

 ルドウィンは白馬に跨ったまま、ほとんど表情を変えず、私の話に耳を傾けた。彼は基本的に、こちらが話している間は口を挟んできたりしないし、相槌すら打たない。ルドウィンのそういうところが、私は昔から好きだった。

 そして私の話は終わった。

 すぐに聞こえてきたのは、『フン』と鼻で笑ったようにも、『フゥー』とため息をついたようにも聞こえる、呼吸音だった。……どうやら、ルドウィンが発したものらしい。

 ルドウィンはもう一度、今度はハッキリと聞き取れる大きなため息を漏らしてから、言葉を続ける。

「はぁー……ローレッタ、きみ、馬鹿じゃないのか?」
「えっ……?」

 思ってもいない台詞に、私は固まってしまう。
 恐らく、いや間違いなく、ルドウィンに『馬鹿』と言われたのは、これが初めてのことだった。

 ルドウィンは馬上から、つまらない玩具でも見るような目で私を見下し、いつも通りの静かな調子で、滔々と語りだす。
その様相は、不機嫌そうでありながら、妙に饒舌で、不思議と高揚しているようにも見えた。

「俗物であるエグバートが聖騎士団の長官になったのなら、成り上がるチャンスじゃないか。あの放蕩貴族は女好きだし、ご機嫌を取って、適当に色目を使っておけば、きみを厚遇しただろうに。もしかしたら、史上初の女聖騎士団長になれたかもしれない。それを、わざわざ諫言して、挙句の果てに聖女をクビになるとは……前々から思っていたが、愚かとしか言いようがない」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

【完結】経費削減でリストラされた社畜聖女は、隣国でスローライフを送る〜隣国で祈ったら国王に溺愛され幸せを掴んだ上に国自体が明るくなりました〜

よどら文鳥
恋愛
「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」  ブラークメリル王国の新米国王ロブリーは、節約と経費削減に力を入れる国王である。  どこの国でも、聖女が作る結界の加護によって危険なモンスターから国を守ってきた。  国として大事な機能も経費削減のために不要だと決断したのである。  そのとばっちりを受けたのが聖女イデア。  国のために、毎日限界まで聖なる力を放出してきた。  本来は何人もの聖女がひとつの国の結界を作るのに、たった一人で国全体を守っていたほどだ。  しかも、食事だけで生きていくのが精一杯なくらい少ない給料で。  だがその生活もロブリーの政策のためにリストラされ、社畜生活は解放される。  と、思っていたら、今度はイデア自身が他国から高値で取引されていたことを知り、渋々その国へ御者アメリと共に移動する。  目的のホワイトラブリー王国へ到着し、クラフト国王に聖女だと話すが、意図が通じず戸惑いを隠せないイデアとアメリ。  しかし、実はそもそもの取引が……。  幸いにも、ホワイトラブリー王国での生活が認められ、イデアはこの国で聖なる力を発揮していく。  今までの過労が嘘だったかのように、楽しく無理なく力を発揮できていて仕事に誇りを持ち始めるイデア。  しかも、周りにも聖なる力の影響は凄まじかったようで、ホワイトラブリー王国は激的な変化が起こる。  一方、聖女のいなくなったブラークメリル王国では、結界もなくなった上、無茶苦茶な経費削減政策が次々と起こって……? ※政策などに関してはご都合主義な部分があります。

公爵令嬢が婚約破棄され、弟の天才魔導師が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています

聖女の妹、『灰色女』の私

ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。 『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。 一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。 「あなたこそが聖女です」 「あなたは俺の領地で保護します」 「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」 こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。 やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】小国の王太子に捨てられたけど、大国の王太子に溺愛されています。え?私って聖女なの?

如月ぐるぐる
恋愛
王太子との婚約を一方的に破棄され、王太子は伯爵令嬢マーテリーと婚約してしまう。 留学から帰ってきたマーテリーはすっかりあか抜けており、王太子はマーテリーに夢中。 政略結婚と割り切っていたが納得いかず、必死に説得するも、ありもしない罪をかぶせられ国外追放になる。 家族にも見捨てられ、頼れる人が居ない。 「こんな国、もう知らない!」 そんなある日、とある街で子供が怪我をしたため、術を使って治療を施す。 アトリアは弱いながらも治癒の力がある。 子供の怪我の治癒をした時、ある男性に目撃されて旅に付いて来てしまう。 それ以降も街で見かけた体調の悪い人を治癒の力で回復したが、気が付くとさっきの男性がずっとそばに付いて来る。 「ぜひ我が国へ来てほしい」 男性から誘いを受け、行く当てもないため付いて行く。が、着いた先は祖国ヴァルプールとは比較にならない大国メジェンヌ……の王城。 「……ん!?」

処理中です...