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第9話

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 王子様と軍隊に別れを告げ、飛び続けること数時間。すっかり日は沈み、輝く満月の光に照らされながら、私は今も、のんびりと空を進んでいた。

 スピードは、だいたい時速40kmくらいかな。遅すぎず、速すぎず、ゆったりと風を切って飛ぶ空の旅は、なかなかに快適である。

 そこで私は、ふと、あることを思いだした。

「あ、そうだ……暖炉の光……そのままにしてきちゃったけど、大丈夫かな」

 今私は、『暖炉の火』と言わず、『暖炉の光』と言ったが、言い間違いではない。……うちには、私が子供の頃から、ずっと光り続けている暖炉があるのだ。

 ……『ずっと光り続けている暖炉』って、我ながら、変な言い方だわ。でも、他に適当な言い回しも思いつかないので、そう形容するしかない。

 うちの炊事場の奥に、普段は入ることのない物置があり、そこに、ホコリを被った古い暖炉がある。その暖炉の中には、純然たるエネルギーの塊とでも言うべき、光の集合体があり、それは決して絶えることなく、輝きを放ち続けているのである。

 その『光の集合体』が何なのか気になって、私は幼い頃、父さんにこう尋ねた。

『お父さん。暖炉の中の、あの光はなんなの?』

 父さんは優しく微笑んで、答えた。

『あれは、この国にとって、とても大切なものだよ。……ラディアは、この国が好きかい?』

 幼い私は、さほど悩みもせず、事も無げに言った。

『別に、好きでも嫌いでもないわ。私、あんまり物や場所に執着しない主義なの』

 私の大人びた言い方がおかしかったのか、父さんはくすくす笑った。

『そうか。ラディアは賢いね。過ぎた執着は、苦しみの元だからね。……でもね、ラディア。お父さんは、この国が好きなんだ。正直言って、土地も、人も、あまり良いとは言えない国だけど、ずっとずっと昔から、住んでいるところだからね。お父さんは、この国が、いつまでも平和であってほしいと思ってる』

 私も父さんを真似るように、くすくすと笑った。

『私も、平和が一番だと思うわ。争いなんて、お馬鹿のすることだもの』

 父さんは私の頭を撫でて、言った。

『そうだね。……ラディア、お父さんのお願いを、聞いてくれないかな?』

『なあに?』

『この国の平和を保つためには、この暖炉の光を、絶やしてはいけないんだ。だから、暖炉の光を消さないために、お前の力を貸してほしいんだ』

 私は首を傾げて、問いかけた。

『国の平和と、暖炉の光に、何の関係があるの?』

 当然の疑問だが、父さんの答えは、非常にあいまいなものだった。

『そういうルールなんだ』

『誰が決めたルールなの?』

『ごめんね、それは言えないんだ』

『どうして言えないの?』

『そういうルールなんだ』

 幼い私は、これ以上問いかけても、堂々巡りになるだけだと思い、質問するのをやめた。父さんはいつだって私に優しかったが、ときどき、どんなに尋ねても、決して答えを教えてくれないことがあった。だから私は、父さんが『答えを教えてくれないモード』に入ったときは、無駄な問答をしないようにしていたのである。
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