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EP3 復讐の黄金比1 黄金週間の憂鬱
勅使河原の狙い
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「まったく、金に群がる虫けらどもめ……」
傭兵たちの元から去った後、勅使河原は吐き捨てるようにそう呟いた。
「だが、いい。構わん。もはや実験は最終段階だ」
地下の研究施設、うっとりと勅使河原は薬液で満たされたタンクを見つめていた。
手首をがりがりと搔く。
そのたびにぞわぞわと寒気のような強い使命感と渇望に駆られる。
あれからひと月、勅使河原は殆ど実験室にこもり切りで実験を繰り返していた。
ラテアこそ捕らえられなかったものの、ストック分の実験体でかなり実験は進んだ。
死体の山が築かれようと、勅使河原は一切気にしない。
パネルを操作し、頑丈な強化ガラスの檻の中に人間の男が一人降ろされる。
「実験で一つ判明したことは、この薬の適合には可能な限り弱い種族の方がいいということだ。強い種族であればあるほどこの薬はただの毒となる。弱い生物は進化し、順応するが天敵のいない種族はそれがない」
彼は意識が朦朧としていた。意識濃度を低下させる薬品を既に投与済みだからだ。
ある程度の実験体の適性が判明した今、勅使河原は人間での実験に完全に切り替えていた。
幸いにも、実験体ならいくらでもいる。
病院の患者を使えばいいのだ。
「どうせ地球とはもうおさらばじゃ。あと少し、エデンへ行こうと薬の開発が終わればわしは無敵じゃ」
御絡流の会の者たちはあれ以降こちらに仕掛けてくることはない。
少なくとも勅使河原はそう認識している。
「やはり病院を盾に使うのは正解じゃった。いい時間稼ぎじゃ。ここまで甘いと思っておらんかったがのう」
実験体に薬品を注入する。
ぶるりと小さく震え、動きを止める。
「いや、本当に甘いだけか?國雪ほどではないにせよ、K県支部長も狐じゃ。……なにか目的が?」
数分経過。
全身からぶわりと汗を吹き出し、獣のような唸り声を上げ始める。
「なんにせよ、急ぐ必要がある」
がりがりと手首を搔きながら、目の前の哀れな実験体を食い入るように見つめる。
絶叫。
全身から血を吹き出し、身体が裂け、裂けた箇所から様々な生物の部位があふれ出る。
その様は普通の人間であれば絶句し倒れかねないものだったが、勅使河原にとってはそうではない。
身体の目まぐるしい変態が止まり、合成獣が誕生する。
生物にあるまじき姿をした化け物ではあったが、暴れることも苦しむこともなくじぃっと勅使河原を見つめている。
「多少の知性が残ったが、生物としてはまとまりに欠ける。命令を聞く分使い道はいくらでもあるが。以前はただ暴れるだけの魔物になり果てていた分進歩した。あとほんの少しじゃ。……薬事態はほぼ完成しておる。後は投与対象……あの狐の獣人がやはり必要じゃ」
戦力問題は現状の薬があれば解決する。
しかし、生け捕りという点を考えると合成獣たちに任せることは難しい。
「まあ、失敗するようなら……もう待てぬ。街もろとも合成獣で破壊し、なんとしてでもあの獣人を手に入れるだけじゃ。エデンに行こうと個の戦力があればわしは無敵じゃ」
生まれ落ちた合成獣をアームが掴み、収容施設へと連れていく。
それを見届けてから勅使河原は席を立ち、表向きの仕事へと戻るために地下を後にする。
この一か月、勅使河原は殆どここから出なかった。
故に流石にいい加減、院長としての仕事をしなければならなかった。
たとえ、あとほんの少しでこの地位を捨て地球から離れるとしても、最後までボロを出してはならない。
「まったく、面倒じゃのう」
実験体として消費した患者の事もある。
勅使河原は重い腰を上げ、エレベーターへと乗り込んだ。
「……やっと出ていったわね。面倒くさい男だこと」
無人となった実験室。
液体の満たされた薬液タンクの中から異なる液体が溢れ、地面へと流れ落ちた。
液体は集まり、形を変え、女の姿へと成った。
美しいエメラルドグリーンの髪を持った女、簾翠だった。
一切の感情の機敏を見せない陰鬱などろりと濁った眼。
「まさかひと月も潜伏する羽目になるなんて。でも、途中で混ぜ物をすれば確実にバレるもの。國雪もとんだ面倒くさい仕事を頼んできたものだわ」
簾翠は独り言ちる。
薬液タンクの蓋を開き、一つの小さなガラス瓶を取り出す。
中に入っているのは赤黒い液体。
簾翠が小さく瓶を小突くと、赤黒い液体は無色透明、無味無臭の液体へと変化する。
それを確認してから瓶を傾け、タンクの中へと注ぐ。
「これでやっとこの場所からおさらばできるわね」
空になったことを確認し、タンクの中身を瓶に詰め直す。
それから薬液タンクの蓋をしめ、踵を返した。
傭兵たちの元から去った後、勅使河原は吐き捨てるようにそう呟いた。
「だが、いい。構わん。もはや実験は最終段階だ」
地下の研究施設、うっとりと勅使河原は薬液で満たされたタンクを見つめていた。
手首をがりがりと搔く。
そのたびにぞわぞわと寒気のような強い使命感と渇望に駆られる。
あれからひと月、勅使河原は殆ど実験室にこもり切りで実験を繰り返していた。
ラテアこそ捕らえられなかったものの、ストック分の実験体でかなり実験は進んだ。
死体の山が築かれようと、勅使河原は一切気にしない。
パネルを操作し、頑丈な強化ガラスの檻の中に人間の男が一人降ろされる。
「実験で一つ判明したことは、この薬の適合には可能な限り弱い種族の方がいいということだ。強い種族であればあるほどこの薬はただの毒となる。弱い生物は進化し、順応するが天敵のいない種族はそれがない」
彼は意識が朦朧としていた。意識濃度を低下させる薬品を既に投与済みだからだ。
ある程度の実験体の適性が判明した今、勅使河原は人間での実験に完全に切り替えていた。
幸いにも、実験体ならいくらでもいる。
病院の患者を使えばいいのだ。
「どうせ地球とはもうおさらばじゃ。あと少し、エデンへ行こうと薬の開発が終わればわしは無敵じゃ」
御絡流の会の者たちはあれ以降こちらに仕掛けてくることはない。
少なくとも勅使河原はそう認識している。
「やはり病院を盾に使うのは正解じゃった。いい時間稼ぎじゃ。ここまで甘いと思っておらんかったがのう」
実験体に薬品を注入する。
ぶるりと小さく震え、動きを止める。
「いや、本当に甘いだけか?國雪ほどではないにせよ、K県支部長も狐じゃ。……なにか目的が?」
数分経過。
全身からぶわりと汗を吹き出し、獣のような唸り声を上げ始める。
「なんにせよ、急ぐ必要がある」
がりがりと手首を搔きながら、目の前の哀れな実験体を食い入るように見つめる。
絶叫。
全身から血を吹き出し、身体が裂け、裂けた箇所から様々な生物の部位があふれ出る。
その様は普通の人間であれば絶句し倒れかねないものだったが、勅使河原にとってはそうではない。
身体の目まぐるしい変態が止まり、合成獣が誕生する。
生物にあるまじき姿をした化け物ではあったが、暴れることも苦しむこともなくじぃっと勅使河原を見つめている。
「多少の知性が残ったが、生物としてはまとまりに欠ける。命令を聞く分使い道はいくらでもあるが。以前はただ暴れるだけの魔物になり果てていた分進歩した。あとほんの少しじゃ。……薬事態はほぼ完成しておる。後は投与対象……あの狐の獣人がやはり必要じゃ」
戦力問題は現状の薬があれば解決する。
しかし、生け捕りという点を考えると合成獣たちに任せることは難しい。
「まあ、失敗するようなら……もう待てぬ。街もろとも合成獣で破壊し、なんとしてでもあの獣人を手に入れるだけじゃ。エデンに行こうと個の戦力があればわしは無敵じゃ」
生まれ落ちた合成獣をアームが掴み、収容施設へと連れていく。
それを見届けてから勅使河原は席を立ち、表向きの仕事へと戻るために地下を後にする。
この一か月、勅使河原は殆どここから出なかった。
故に流石にいい加減、院長としての仕事をしなければならなかった。
たとえ、あとほんの少しでこの地位を捨て地球から離れるとしても、最後までボロを出してはならない。
「まったく、面倒じゃのう」
実験体として消費した患者の事もある。
勅使河原は重い腰を上げ、エレベーターへと乗り込んだ。
「……やっと出ていったわね。面倒くさい男だこと」
無人となった実験室。
液体の満たされた薬液タンクの中から異なる液体が溢れ、地面へと流れ落ちた。
液体は集まり、形を変え、女の姿へと成った。
美しいエメラルドグリーンの髪を持った女、簾翠だった。
一切の感情の機敏を見せない陰鬱などろりと濁った眼。
「まさかひと月も潜伏する羽目になるなんて。でも、途中で混ぜ物をすれば確実にバレるもの。國雪もとんだ面倒くさい仕事を頼んできたものだわ」
簾翠は独り言ちる。
薬液タンクの蓋を開き、一つの小さなガラス瓶を取り出す。
中に入っているのは赤黒い液体。
簾翠が小さく瓶を小突くと、赤黒い液体は無色透明、無味無臭の液体へと変化する。
それを確認してから瓶を傾け、タンクの中へと注ぐ。
「これでやっとこの場所からおさらばできるわね」
空になったことを確認し、タンクの中身を瓶に詰め直す。
それから薬液タンクの蓋をしめ、踵を返した。
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