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忘れられた悪魔
これは幸せになろうとした罰
しおりを挟むシロツメクサの丘の大きな木の下で、永遠の愛を誓い合ったおれとリヒト。
本当に幸せで、幸せすぎて逆に不安になって、悪魔なのにこんなに幸せで許されるのかな?とリヒトに聞くと、「ルカは悪魔だけど良い子だから大丈夫だよ」と言ってくれたから、その言葉を信じてこの幸せを噛み締め生きていこうと思っていたのだけれど。
…やっぱり、悪魔は幸せになっちゃいけなかったみたい。
リヒトが、カリーナ、という女性に依頼をされて悪魔祓いをする為、毎晩彼女の家に張り込みをすることになった。
おれはクオンやカイみたいに強くないし、リヒトは悪魔祓いの現場に使い魔を同行させたくないみたいで連れて行ってもらえないから、家で一人留守番をしなければならないのはすごく寂しかったけど、わがままを言ってリヒトを困らせるのが一番嫌だったから、毎日朝から普通に仕事に出掛け、夕方一度帰宅して三時間程仮眠を取り、今度はカリーナの家に出掛けて行くリヒトの姿を、「行かないで」と言いたくなる気持ちをグッと堪えて見送った。
そんな生活が続いて十五日目を迎えた日の夜、漸く任務を終えたリヒトが帰宅して、それからはまた今まで通りの生活を送れるのだと思った。
でもそのすぐ三日後。
またリヒトのところにカリーナから悪魔祓いの依頼が入った。
どうやら前回悪魔祓いの依頼を受けた時は、本当は悪魔になど襲われていなくて、全部カリーナの作り話だったらしい。
だけど今回は本当に彼女から悪魔の気配がすると話すリヒトからは緊張感が漂っていて、恐らく相手はかなり手強いのだろうとおれにも分かった。
前回と同じく三時間程度の仮眠をとったリヒトがカリーナの家に出掛けていくのを見送り、一人ぼっちの長い夜を過ごして。
朝になり、家の中を軽く掃除したあと、帰宅したリヒトがすぐに食べられるようにお野菜たっぷりのスープとフルーツの朝食を用意していると玄関のほうから扉の鍵を開けるガチャガチャという音が聞こえてきて、洗った手を拭くのもそこそこに急いで出迎えると、そこには。
「きゃあ!誰?!」
「…カリーナ、下がって。こいつ、悪魔の気配がする」
頭に包帯を巻いたリヒトと、まるでいつもおれとリヒトがしているように肩を寄せ合い、リヒトの腕に自分の腕を絡めている綺麗な女の人が立っていた。
「……え…りひ、と、頭、怪我…?その人、かりーな……え……?」
目の前の状況に頭が追いつかず、聞きたいことが沢山ありすぎてうまく言葉にすることができない。
それに今リヒトは、おれのことをこいつって言った…?悪魔の気配がする、って。
今になって一体何を言っているの…?
「お前、一体ここで何をしている。どうして俺の名前を知っているんだ?」
「…どうして、って、だって、おれ……」
「リヒトさん、そいつ、悪魔なんでしょう?怖いわ…」
カリーナ、と呼ばれた女の人が、おれの言葉を遮るようにリヒトに縋り付き、不安そうな目でリヒトを見上げている。
やめて、触らないで、リヒトはおれのなの、そう言いたいのに、まるで喉を締め付けられているかのように苦しくて、あ、とか、う、という弱々しい声しか出てこない。
「大丈夫だよ、カリーナ。俺がすぐに祓うから」
「?!…なん、で…?」
「残念だけど、襲う家を間違えたな。俺は祓魔師だ。そしてお前は悪魔。それが何を意味しているか…分かるよな?」
辛うじて声を絞り出したおれを、感情を読み取ることが出来ないすごく冷たい目で睨み付けてくるリヒト。
初めて会ったあの夜と同じ目だ。
その目と彼が纏う殺気立ったオーラから、彼が冗談を言っているとは思えなくて。
首から下げた十字架を握ったリヒトを力いっぱい突き飛ばし、おれはリヒトと幸せな日々を過ごした大切な家を飛び出した。
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