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シルエット
しおりを挟む「はい、ゴール!」
俺は両腕を広げながら壁から跳躍し地面に降り立った。
数十秒後、ハクとルナが到着。息を切らしながら、膝に手を当て呼吸を整えようとしている。
「し…シンヤ……。もうちょっと……ゆっくり走って……」
ネルは俺の背中でぐったりとなっている。
なので自然魔法で作った、草でふんわりとしたベットの形のものの上に乗せた。少し刺激が強すぎたようだ。
「やっぱりご主人様速いー」
「つ、疲れたー」
ハクとルナは草むらに寝転びだす。なので、ネルと同じようにベットの形のものを作る。
「ふぅ、ハクとルナも体の使い方が良くなってきたな。冒険者登録した時は、よく転んで泣いていたのに」
ハクとルナは、生まれてすぐ歩けはしたが走れば石や草に躓き、ジャンプをすれば着地に失敗、一番最初のご飯の時は食べ方も分からなかったらしく、俺がスプーンで食べさしてあげたりしていた。
二人は恥ずかしかったのか、俺からプイッと目をそらし別の場所を見ている。
「それにしても、お前らどうやって壁を走ったんだ?」
流石に体の使い方が良くなってきたからと言って、壁を走るなんて困難なことだ。俺は自分の靴に無属性を属性魔法付与し、応用で壁に引っ付くようにして走っていた。だが、ハクとルナは属性魔法付与を使うことが出来ない。
「あれはねー、アリアの真似をしたんだよ」
「ボクもです」
「真似って何をだ?」
「あれですよ。部分的に元の姿に戻したんですよ」
なるほど、しかしよく出来たな。
恐らく、あれもすぐにはできないもの。それを実行するとは、やはりこいつらは将来有望だ。
「さて、行くぞー」
「えー、嫌だー」
「もう少し、これに乗っていたいですー」
「シンヤ……まだムリ………」
しかし、壁を一気に走り疲れてしまいだらけている有望株の二人。
俺は仕方がないので、三人が寝転んでいるものを進む方向に新たに作り、寝転んでいるものは斜めにして転がしていく。
こうしていると、ハクとルナは楽しそうにしている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その時アリアたちは。
「ねぇアリア。あの光の玉っていつまであるんだろ?」
「たぶんあれはずっとあるぞ。それぐらいの魔力が込められておる」
「ずっと!?」
アリアの言葉に驚く子供たち。
「さっ、それより魔法の勉強を始める始めるぞ」
『はーい』
子供たちは元気よく返事をする。
「あやつは本当に規格外じゃ」
アリアはそう呟いていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ネルは転がすのではなく、滑らせぐったりしているまま進ましている。
理由は先程、「し、シンヤ。転がすのやめて。吐きそう」と顔を真っ青にして口を抑えながら言われたからだ。だが、いまはネルも少し楽しんでいるみたいだ。
俺もそれを見て自分の場所にも同じように作る。転がすのではなく、滑るほうで。
ほう、これは以外に気持ちいいものだ。
「あれ?私たちって今、幻見てないよね、なんで?」
「ああ、それは幻を消す結界を俺たちの周りに丸くして張ってんだ。少し手を伸ばせば触れるぞ」
ネルの疑問に答え、ネルは手を伸ばす。すると、俺たちの周りがぶにゅっと全体的に波打った。それを見て、ハクとルナも真似をする。
「シンヤ!あれ!キラーエイプ!キラーエイプ!早く逃げて!あいつSクラスのモンスターだから!」
突然声を上げたネルは森の中を指さした。俺も気配を感じていたのでわかっていたか、10数匹の気配がある。
いや、この程度の気配の魔物は普通に倒せるけど。まだ信じてないの?と俺は思いながら森を見る。
そして木の枝にぶら下がり現れたのは、手足が2mぐらいの長さがあり、口からは尖った歯を見せている猿だった。
図鑑に書いてあったのは、その体にある毛は岩のように硬く、その歯は鎧を着た人間の体をも貫く、鼻も利くとあった。そしてキラーエイプは獰猛で、人間を見つければすぐに襲いかかるのだ。
しかし今キラーエイプは現れただけで、襲ることなくただ見ているだけ。その姿を見てネルは首を傾げている。
多分俺たちは谷でアリア、つまり古き竜王と一緒に居たので少しその匂いが付いているのだろう。キラーエイプは幻惑の森に生息する魔物なので、谷には古き竜王がいることもわかっているはず。そしてその古き竜王と自分たちの力量の差もわかっているのだろう。だから襲ってこない。
キラーエイプはそのまま何もせず、俺たちはその中を通って行った。
「何だったんだろ、あれ」
ネル通り過ぎたキラーエイプの姿を見て言った。
「アリアの匂いが俺たちに付いているのだろう」
「アリアさんの匂い!?」
その言葉にネルが食い付く。
そこまで食い付くことか?
「あれだよ、アリアと一緒に居たから古き竜王の匂いが付いたってこと」
「ああ、そういうこと」
ネルは安心した様子。
「なぁネル」
「なに?」
「どこかに海ってないか」
「海?どうしたの急に」
「いや、最近修行してないからさ。体が少し鈍ってるんだよ」
この世界に召喚されて、帝国の庭で行ったができたのは剣を振ることと筋力体力作り。王国にいた時に修行をすれば家は壊れるだろうし、やる場所がなかったのだ。
しかし海に行けば、深海で魔法の練習もできるし、砂場で走れば地面よりもっと効果があるだろう。そしてそれに、重力魔法をかけたらもっと楽しいだろうな。
俺は思わず修行のことを考えて頬が緩む。
地球でも国の中でもできない修行ができるんだ。鈍ってる体も少しは戻るだろう。
「えっとね、この森を抜けて西に進むと大きな海があるはずだよ」
「そうか、教えてくれてありがとう。じゃあ海に行くため西に進もうか」
「ほんと!?」
「ああ」
そんな会話をしていると、森の中から光が見えた。そして進んでいくと、その光は増し、森が開けた。
「ふぅ、それじゃ【盤上の地図】」
俺は盤上の地図を起動せる。だが、いつものとは違う。いつもは目の前に立体的に出現させていたが、今回は出現させるのではなく、頭の中に形成したのだ。目の前に現したら、周りの人にも見られてしまうため、もしもの時用に実験してみたのだ。
結果は成功。
スキルとは、己の才能、技能と言ったものに適したものをいう。なので、人それぞれの才能があるように、スキルにも人それぞれのものがあるのだ。
そして慣れればスキルは自分の体の一部のように扱える。
だから俺は、目の前に現せるのではなく、頭の中に形成させることができたのだ。
「ネル、これからどうする?」
「どうするって?」
「さっきスキルで近くに何かあるか見てみたんだが、何もなくて。つまり、することがないッ!」
俺は力強くそう言った。
ネルはそれを見て「そっか」と返してくる。ハクとルナはそろそろこの転がすやつに飽きてきた様子だ。
「ねぇねぇシンヤ」
「ん?」
「今気づいたんだけど、ハクちゃんとルナちゃんってシンヤの従魔じゃないよね」
ネルから発せられた言葉に、俺はこの人生一番の衝撃を受けた。
その言葉を聞き、ハクとルナが殺気を出した。
その殺気に顔を少し青ざめるネル。
「ちょっ、ちょっと待って。殺気を抑えて抑えて。説明するから」
ネルは慌ててそう言った。
説明と聞き、ハクとルナは殺気を抑える。
それを感じたネルは、ホッとした様子。
「えっとね、まずテイムのことはわかってる?」
「いや、知らない」
そういえば、この世界に来て久しぶりにスキルを見てテイムってのがあったな。なんなんだあれ。神様たち、教えること忘れてるのあるじゃん。
そう心の中で俺は思った。
「テイムはね、人間と魔物がお互いに認めあった時、人間が魔物に魔力を注ぎ、どこでもいいから体に血を一滴垂らすことによって契約が結ばれる。テイムされている魔物は、うなじの部分に紋章が浮かび上がるの」
「認めあった時ってどうゆうことだ?」
「私は魔法使いだからよく知らないけど、魔物が自ら寄ってくることじゃない?」
俺は驚いた。テイムするためにそこまでする必要があるのだと。
それはハクとルナも同じだった。驚きの表情を見せ、あたふたしている。
「そ、そうか。契約ってのは?」
俺も少し慌てていたようだ。声が上ずる。
「契約は、主である人間が一日一回、魔物に魔力を与えること。代わりに魔物は主の命を聞くこと。これが契約」
「じゃあ、あれは?頭の中に直接喋るやつ。契約してないけどできた」
「それができるってことは仮契約は済ませてるのね」
「仮契約?」
「うん。仮契約は一番最初にすること、魔力を注ぐことで仮契約ができるの。そして仮契約から一日たつと仮契約から契約に移れるの。その時点で魔物が寄ってこないと、テイムはできないけどね」
「じゃあ俺たちはもう、仮契約を終わらせていて、一日、いや、一週間以上経ってるから契約に移れるのか」
「うん」
そう聞いたハクとルナは互いの顔を見てぱぁーっと明るい笑顔を見せた。その笑顔を見て俺も嬉しく思う。
そしてハクとルナは体から、ワクワクとした感情が漏れ出した様子でこちらを見てきた。
なので俺はうん、と頷いた。
手でハクルナを呼び、二人は俺の前に立つ。
そして俺は風系魔法の中で最もランクが低い、風魔法で小さな鎌鼬を作り両手の人差し指を切った。そこから、赤く、鉄臭い血が流れ出る。流れ出た血はゆっくりと指を伝って肘の方に垂れてきた。
ハクとルナを見ると口を開けている。なので、俺は二人の口に人差し指を入れた。
二人の口の中は、ヌルッとして生暖かく、体温が直で感じられる。
そのまま二人は指を舐めたり吸ったりーーー
「ってお前らどこでそんなこと覚えた!?」
俺はすぐには指を口から抜く。
二人はてへぺろっと可愛い仕草をするため何も言えない。
俺は仕方なく追求するのをやめ、二人の頭に手を乗せ、魔力を流し込んだ。少し、ハクとルナの顔が赤くなり、もじもじし始めた。
「ご、ごしゅじんしゃま~。ちょっとまって~。ごしゅじんしゃまとひとつになっちゃう~」
「だ、ダメですよ、ご主人。こんにゃのだめ~。ご主人がボクの中に入ってくる~」
二人は、その幼女の体に似ても似つかない甘美な声を出し、俺の顔をそのトロンとした顔で見上げた。
俺は慌てて手を離すと、二人はペタリと地面にお尻をついた。ネルに視線を向ける。だが、ネルは首を横に振り自分も知らない、といった仕草をした。
「ハク、ルナ。ど、どうした?何があった?」
「ち、違うの。体がぽかぽかするの。ご主人様」
「何か、ご主人の熱くて気持ちのいいものが、いっきに体の中いっぱいに広がっていったんです」
二人は息をハァハァと荒くしてそう言った。
俺とネルはその姿に戸惑う。だって、顔は赤く、トロンとした表情に体をもじもじさせ、誰かに聞かれると勘違いされそうな言葉を言うんだから。
「そ、そうか。今度はゆっくり、優しく注ぐからな」
そう言って改めて頭に手を乗せる。魔力をゆっくり、優しく注いでいく。もじもじと体を動かしている二人だが、さっきのような声は出ていない。
「テイム!!」
ハクとルナの足元から魔法陣が現れる。その魔法陣はくるくると回り、パリィィィンと音が鳴り粉々に割れた。
「っん」
「あれ?」
ハクとルナは自分のうなじを触り出す。俺とネルは二人のうなじの部分を見る。すると、ネルが言った通りそこから血が広がったような紋章が浮かび上がった。
これはテイムが成功したという証拠だ。
「よし、成功だ」
俺はハクとルナに向かってそう言った。二人は笑顔になって俺に抱きついてきた。二人の頭を優しく撫でる。
「もう、太陽が沈みそうだし。ここで野宿しよ」
地平線の彼方から、オレンジ色になった太陽が輝きながら沈んでいく。
「そうだな。また小屋を作るか」
地面に手を付き自然魔法で木々を操り小屋を作る。
「本当に小屋ができた」
「いつ見てもすごいね」
「ご主人はすごい!」
ここら辺は山に囲まれているため、魔物が降りてくる可能性がある。なので、魔物には感知できない結界を小屋の周りに張る。
ハクとルナが小屋の中に入っていく時、俺はネルを呼び止めた。
「どうしたの、シンヤ?」
「さっき、ハクとルナのうなじに紋章はあったよな?」
「うん、それがどうかした?」
「いや、じゃああの、ハクとルナの手の甲にある紋章はなんなんだ?」
「えっ、そんなのあるの?」
ネルは、俺の言ったことを確かめるため、ハクとルナの手の甲を見る。
「あれ?本当だ。なんだろう?」
「ネルも知らないのか?」
「うん。まぁ、大丈夫なんじゃない?」
「そうか」
ネルはそう言い小屋に入る。
あの紋章、どこかで見たことがあるんだよな。
俺は考えるが、思い出すことはなく、小屋の中に入った。
そして、森で倒した魔物を無限収納から出し、肉を切り取る。それで料理を作りみんながいる机に乗せ食べる。
「「「「いただきます」」」」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「「「「ごちそうさまでした」」」」
「よし、風呂入るか」
「わーい」
「お風呂だー」
ハクとルナは立ち上がり、外に出ていった。俺とネルは追いかけて外に出る。
「ご主人様ー早く早く」
「ご主人ッ」
「はいはい」
俺は小屋の隣にもう一つ、一回り小さな小屋を作った。俺とハクとルナはその小屋に入り服を脱いでいく。
「はい万歳してー」
二人は両手を上げ万歳のポーズ。俺は二人が来ている服を脱がしていく。終わったあと俺も服を脱ぐ。すると、後ろにあるドアが開いた。
そこに居たのは、俺の後ろについてきていたネルだった。
ネルは「~~~~~ッ!!」と驚き、一瞬で顔を赤くして、その顔を手で覆った。俺はパンイチだったがそれでもネルは耐えられなかったらしく、倒れた。
自然魔法で椅子を作りネルをそこに座らせる。
そしてハクとルナと一緒に風呂に入った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほ、ほんとに一緒に入っているなんて」
俺たちは元の小屋に戻り椅子に座ってくつろいでいる。ネルは気絶したあと、一人で風呂に入り置いてあったバスタオルで濡れた体を拭きながら戻ってきた。
「もういいだろ。そんなこと」
ネルは呆れた様子でため息つく。
「もう遅いし寝るぞー」
三人は「はーい」と返事をし、二つあるベッドの一つにネルが、もう一つのベットに俺が入ると、ハクとルナが自然に入ってくる。ルナは耳と尻尾を出している。
「ハクちゃんルナちゃん?どうしてそんなに自然にシンヤのベッドに入っているの?」
ネルは優しそうな声で、体から黒いモヤモヤが出てくる。そして俺は何故か寒気を感じた。
「だっていつも一緒に寝てるもん」
ハクは普通にネルからの質問を返す。ネルは何故か呆れた様子だ。
「ロリコン」
「グハッ!!」
ネルの瞳は氷のように冷たく、発せられた言葉が俺の胸に深く突き刺さる。
「俺は別にロリコンじゃないぞ!」
「そうね、ただ娘を溺愛している親バカね」
「そうだ!俺はただハクとルナを可愛がっているだけだ!」
「自覚はあるんだ。フンッ」
ネルはベットの毛布の中に潜り込む。
こうして俺たちはベットの上で眠りに使うとした。その時、
「「「「「「ちょっとまったーー!!!」」」」」」
そんな声が小屋の中で響いた。
ハクでもない、ルナでもない、ネルでもない、ましてや俺でもない。その声からは根太いものや、細いもの、よく響くものや、弱々しい声が混ざりあっていた。
俺はベットから出る。光はなく、そのシルエットは七つあり、形からして人型だとわかり光球を使う。
そしてそのシルエットから現れたのはーーー
応援ありがとうございます!
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