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第2章 何故、わたくしを!?
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「くかー…」
ほぼ毎日、シェリーは昼から授業を受けなくなった。お昼寝の時間と化していたのだ。まあ、元々この子はよく寝る。休日は昼過ぎまで寝てるのがザラで婦人やライラに気付かれない様、わたくしが上手く誤魔化してきた経緯があった。
昼休憩のルーティンはこうだ。友達と昼食や雑談を楽しんだシェリーは、授業の前にお部屋へ戻って来る。その間、ポピーは変装を済ませておく。そして入れ違いに教室へ向かうのだ。
以前、わたくしはポピーに問いかけた事がある。
「ポピー、用務員と影武者どっちが良い?」
彼女は普段、用務員として働いている。花壇の水やり、院庭の清掃など美化係を担当していた。最も、定期的に専門業者が清掃を行ってるからお手伝い程度ではあるが…。
「それは勿論、用務員ですわ」
「なぜ?」
「気が楽ですから」
「授業は楽しくないの? 本来ならポピーだって此処に通ってたかもしれなのに」
「授業は楽しいですよ。特にダンスの時間は。でも…」
「でも、シェリー様に成りきるのがしんどいの?」
「はい。お友達と話が噛み合わない事が多くて。だからあまり喋らない様にしてます」
「そうね。全てを把握して影武者演じてる訳じゃないからね。難しいと思うわ。…あ、そうだ、わたくしを介して出来るだけ情報を伝えるってのはどう? 少しは役に立つかしら?」
「それは助かります。シェリー様はわたくしの事、お嫌いなので上手くコミニケーション取れなくて困ってたのです」
「それはポピーに嫉妬してるからよ」
「そうですか…?」
「だって何やっても貴女に敵わないんだもの」
確かにポピーは超優秀だった。でも努力家とも言える。彼女の才能に驚いた婦人はシェリーではなくポピーに英才教育を施したのだ。一流の家庭教師を科目毎に揃え、深夜までビッシリと教え込んだ。その後で使用人の仕事をさせられていたから、本人の負担は計り知れない。
「このままでは倒れます!」と婦人らを説得して、貴族院から戻るとポピーの代わりにわたくしがお屋敷の用事を済ませ、彼女の負担を減らしていった。それくらい危険な日々だったのだ。だからポピーはわたくしに感謝していたし、信頼もされている。
***
さて、貴族院中等部をこの様な日常で過ごし、年度末照査を首席で卒業したシェリー(ポピー)は、いよいよ高等部へ進学していく。
そして、隣国からあのエリオット王子が戻って来るのだ。わたくしの見立てではシェリーは勿論、ポピーも王子に恋している。これは一波乱あるに違いない。
「エミリー、王子様はいつ帰国するのー?」
卒業前からシェリーはソワソワしていた。いえ、シェリーだけではない。殆どの女生徒が期待に胸を膨らませている。皇族と同学年なんて滅多にない経験だ。シェリーが婚約者だと認識してるにも関わらず、ファンクラブが発足する様な勢いに彼女は神経質な一面を見せ始めていた。
「シェリー様、王子様の婚約者は貴女です。これは何があろうと絶対に変わりません。だから堂々と振る舞って下さい。余裕、いえ貫禄を見せるのです」
「う、うん。分かってる。…でも」
「でも? まあ貫禄を見せると言っても何も我慢する必要はありません。余りにも逸脱したファンが居れば成敗すれば良いのです。シェリー様は首席でお父様は理事長…この貴族院のボスは貴女なのです。ボスは何をやっても許されますから!」
「ゆ、許される…貴族院のボス…か」
おてんばなシェリーの心に火が灯った様だ。恐らく「独占欲の火」だろう。やがて炎と化す。酸素を供給するのはわたくしだ。
ほぼ毎日、シェリーは昼から授業を受けなくなった。お昼寝の時間と化していたのだ。まあ、元々この子はよく寝る。休日は昼過ぎまで寝てるのがザラで婦人やライラに気付かれない様、わたくしが上手く誤魔化してきた経緯があった。
昼休憩のルーティンはこうだ。友達と昼食や雑談を楽しんだシェリーは、授業の前にお部屋へ戻って来る。その間、ポピーは変装を済ませておく。そして入れ違いに教室へ向かうのだ。
以前、わたくしはポピーに問いかけた事がある。
「ポピー、用務員と影武者どっちが良い?」
彼女は普段、用務員として働いている。花壇の水やり、院庭の清掃など美化係を担当していた。最も、定期的に専門業者が清掃を行ってるからお手伝い程度ではあるが…。
「それは勿論、用務員ですわ」
「なぜ?」
「気が楽ですから」
「授業は楽しくないの? 本来ならポピーだって此処に通ってたかもしれなのに」
「授業は楽しいですよ。特にダンスの時間は。でも…」
「でも、シェリー様に成りきるのがしんどいの?」
「はい。お友達と話が噛み合わない事が多くて。だからあまり喋らない様にしてます」
「そうね。全てを把握して影武者演じてる訳じゃないからね。難しいと思うわ。…あ、そうだ、わたくしを介して出来るだけ情報を伝えるってのはどう? 少しは役に立つかしら?」
「それは助かります。シェリー様はわたくしの事、お嫌いなので上手くコミニケーション取れなくて困ってたのです」
「それはポピーに嫉妬してるからよ」
「そうですか…?」
「だって何やっても貴女に敵わないんだもの」
確かにポピーは超優秀だった。でも努力家とも言える。彼女の才能に驚いた婦人はシェリーではなくポピーに英才教育を施したのだ。一流の家庭教師を科目毎に揃え、深夜までビッシリと教え込んだ。その後で使用人の仕事をさせられていたから、本人の負担は計り知れない。
「このままでは倒れます!」と婦人らを説得して、貴族院から戻るとポピーの代わりにわたくしがお屋敷の用事を済ませ、彼女の負担を減らしていった。それくらい危険な日々だったのだ。だからポピーはわたくしに感謝していたし、信頼もされている。
***
さて、貴族院中等部をこの様な日常で過ごし、年度末照査を首席で卒業したシェリー(ポピー)は、いよいよ高等部へ進学していく。
そして、隣国からあのエリオット王子が戻って来るのだ。わたくしの見立てではシェリーは勿論、ポピーも王子に恋している。これは一波乱あるに違いない。
「エミリー、王子様はいつ帰国するのー?」
卒業前からシェリーはソワソワしていた。いえ、シェリーだけではない。殆どの女生徒が期待に胸を膨らませている。皇族と同学年なんて滅多にない経験だ。シェリーが婚約者だと認識してるにも関わらず、ファンクラブが発足する様な勢いに彼女は神経質な一面を見せ始めていた。
「シェリー様、王子様の婚約者は貴女です。これは何があろうと絶対に変わりません。だから堂々と振る舞って下さい。余裕、いえ貫禄を見せるのです」
「う、うん。分かってる。…でも」
「でも? まあ貫禄を見せると言っても何も我慢する必要はありません。余りにも逸脱したファンが居れば成敗すれば良いのです。シェリー様は首席でお父様は理事長…この貴族院のボスは貴女なのです。ボスは何をやっても許されますから!」
「ゆ、許される…貴族院のボス…か」
おてんばなシェリーの心に火が灯った様だ。恐らく「独占欲の火」だろう。やがて炎と化す。酸素を供給するのはわたくしだ。
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