1 / 28
1
しおりを挟む
件名: 辞表
関係者各位、
私、高野真由美は辞職いたします。長い間の陰湿な虐めと会社の対応に失望しました。
何度も訴えたにも関わらず、上位の無関心と問題解決の意欲の欠如に憤りを感じています。
私は自尊心と健康を守るため、成長できる新たな環境を求める道を選びます。
退職までの間、職務を全ういたしますが、率直に言って会社に対する情熱や意欲はありません。
私の決断をご理解いただき、お手続きを進めていただけますようお願いいたします。
総務統括本部 コーポレートサービスGr
高野真由美
メールの下書きを持ち帰ってしまったわ。明日は退職届をクソ課長にガツンと突きつけて、このメールを全従業員二万人に送りつけてやる。ふふん、社長兼CEOにも必ず読んでもらいたいな。IQ150の知性を持つ私を手放したことを心底後悔させてやるから。
私はボロアパートの一室で、飲み干したビール缶をギュッと握り潰し、ひとりでニタリと笑っていた。アルコールに弱いから、もう酔っ払ったようだ。
考えてみれば、この職場はスキルアップのチャンスもないくだらない場所だったわ。入社して二年間、いや最初の一年は研修もあってなんとかまともにやってきたけど、総務に配属されてから徐々に嫌がらせを受けるようになったな。まあ、仕事は他の誰よりもできるってことで妬みを買ったんだろう。それに私の性格が暗くて社交性も皆無で、化粧なんて一切しない『干物女』だから、さらにイライラされたのかもしれない。でももういいわ、どうでもいいんだから。私は一心発起、熟慮断行、剛毅果断したのよ……ふあぁぁぁぁ、眠いな……むにゃん。
朝、目が覚めて後悔の念に襲われた。私としたことが机の上で寝てしまったのだ。風邪でも引いたら自己管理を問われる事案だ。そう思っていたら、手にはなんだか分厚い手帳みたいなものが握られていることに気がついた。
「は?……なにコレ?」
寝ぼけた頭で考えがまとまらない。これは私のものではない。では、誰のだろう?昨夜は見かけなかった。もしかして、誰かが侵入してきたのかと──いや、そんなはずはないか。でも──
窓や玄関の鍵を確認するために立ち上がった。そして、玄関が開いていることに気づいて「えーっ!」と声が出てしまった。何たる不注意だ。それに、露わな下着姿の自分に恥じ入ってしまう。こんな姿を見られたなんて!?いや、そんなことを考える余裕はない。まずは、盗まれたものがないか貴重品を確認しなければ。ドタドタと慌ただしく部屋を回るものの、幸い何も取られていないようだ。
一安心した私は、ようやく謎めいた手帳と向き合うことにした。
パールの装飾が施された表紙は、少し高級な雰囲気を醸し出している。題名はなく、ページをめくっていくと手帳ではなく、むしろ日記だと分かった。ただし、何も書かれていないし、昨日までの日付が破られていた。そして裏表紙に書かれている文字を見て、私は驚きを隠せなかった。
『書かれていることが実際に起こる日記』
──そんなわけありませんよ!
関係者各位、
私、高野真由美は辞職いたします。長い間の陰湿な虐めと会社の対応に失望しました。
何度も訴えたにも関わらず、上位の無関心と問題解決の意欲の欠如に憤りを感じています。
私は自尊心と健康を守るため、成長できる新たな環境を求める道を選びます。
退職までの間、職務を全ういたしますが、率直に言って会社に対する情熱や意欲はありません。
私の決断をご理解いただき、お手続きを進めていただけますようお願いいたします。
総務統括本部 コーポレートサービスGr
高野真由美
メールの下書きを持ち帰ってしまったわ。明日は退職届をクソ課長にガツンと突きつけて、このメールを全従業員二万人に送りつけてやる。ふふん、社長兼CEOにも必ず読んでもらいたいな。IQ150の知性を持つ私を手放したことを心底後悔させてやるから。
私はボロアパートの一室で、飲み干したビール缶をギュッと握り潰し、ひとりでニタリと笑っていた。アルコールに弱いから、もう酔っ払ったようだ。
考えてみれば、この職場はスキルアップのチャンスもないくだらない場所だったわ。入社して二年間、いや最初の一年は研修もあってなんとかまともにやってきたけど、総務に配属されてから徐々に嫌がらせを受けるようになったな。まあ、仕事は他の誰よりもできるってことで妬みを買ったんだろう。それに私の性格が暗くて社交性も皆無で、化粧なんて一切しない『干物女』だから、さらにイライラされたのかもしれない。でももういいわ、どうでもいいんだから。私は一心発起、熟慮断行、剛毅果断したのよ……ふあぁぁぁぁ、眠いな……むにゃん。
朝、目が覚めて後悔の念に襲われた。私としたことが机の上で寝てしまったのだ。風邪でも引いたら自己管理を問われる事案だ。そう思っていたら、手にはなんだか分厚い手帳みたいなものが握られていることに気がついた。
「は?……なにコレ?」
寝ぼけた頭で考えがまとまらない。これは私のものではない。では、誰のだろう?昨夜は見かけなかった。もしかして、誰かが侵入してきたのかと──いや、そんなはずはないか。でも──
窓や玄関の鍵を確認するために立ち上がった。そして、玄関が開いていることに気づいて「えーっ!」と声が出てしまった。何たる不注意だ。それに、露わな下着姿の自分に恥じ入ってしまう。こんな姿を見られたなんて!?いや、そんなことを考える余裕はない。まずは、盗まれたものがないか貴重品を確認しなければ。ドタドタと慌ただしく部屋を回るものの、幸い何も取られていないようだ。
一安心した私は、ようやく謎めいた手帳と向き合うことにした。
パールの装飾が施された表紙は、少し高級な雰囲気を醸し出している。題名はなく、ページをめくっていくと手帳ではなく、むしろ日記だと分かった。ただし、何も書かれていないし、昨日までの日付が破られていた。そして裏表紙に書かれている文字を見て、私は驚きを隠せなかった。
『書かれていることが実際に起こる日記』
──そんなわけありませんよ!
応援ありがとうございます!
3
お気に入りに追加
4
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる