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オフィスフロアを抜けると自販機と椅子が並ぶ休憩のスペースがある。ここは、忙しい社員たちの一時の息抜き場所だ。その自販機の裏側には給湯室があり、僅かな隙間から会話の声が漏れ聞こえてくる。
私はお局たちがデスクを離れていく様子を確認し、給湯室に待機した。ダイアリーによれば、10時15分にボイスレコーダーを起動する必要がある。虐めの証拠を収集するためだ。それに、私は人間に興味がないように見えるけれど、結構気にしいの性格。悪口と分かっているにも関わらず、その内容が気になって仕方ないのだ。

「橘さん、課長が人事に呼ばれて行ったみたいね。例の件でしょう?」
お局のデリカシーのない大声が響いてくる。
「干物女の逆襲かしら?うふふ」
隙間にボイスレコーダーをセットしながら覗き込む。椅子に座って雑談しているのはいつものメンバーだ。橘美咲にお局の山本節子、それに同期のボンクラ男子と新卒パープー女子の4人。
僅かに顔が見えた。角度によっては録画もできる。私は迅速に撮影を開始した。このデバイスは音声の録音だけでなく、文字起こし機能や動画撮影も可能な便利なものだ。業務で活用するだけでなく、エゴサーチや虐めの証拠としても利用していた。

「大丈夫なんですか?」とボンクラがニヤつき、パープーも軽蔑の笑みを浮かべている。
なんで同期や後輩にまで馬鹿にされなきゃいけないのよ。本当にムカつくわね! 
そう思いながらも息を潜め聞き耳を立てる。
「裏で手を回してるから問題なくてよ。人事の課長さんも大ごとにしたくないはずだから」
「さすがはご令嬢!それに森田課長も長いものに巻かれやすいタイプだから、適当に処理してくれるでしょうね」
「課長もウザって思ってるわよ。それにしても、私たちをチクるなんて生意気よね。腹立たしいから、午後の会議外してやったわ」
「意地悪ねぇ~!」
オーホホホホっと笑い声が自販機コーナーに響き渡る。

よし、完璧に録画できました。これも秘密のフォルダに追加ね。

この半年間、私が虐待を受けた証拠の音声、画像、動画は全てパソコンに保存している。その都度、人事部や労働組合に提出して相談してるけど、曖昧な対応が続く。橘美咲は専務にかばわれているため、上手くいかないのが現状だ。

「でもほんのすこし気になる御方がいるのよ」
「え、橘さんに敵対する人がいるんですか?」
「高橋直人さん。人事労政の御方で、私に事情を聞きたがっているの。拒否しているけど。ま、圧力かけてるから大丈夫だと思うけどね」

なにっ?高橋直人さんって誰だ?私のこと興味を持ってる人がいる!?




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