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彷徨った森で……。
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「ここは……」
フレリバスの森とは違う雰囲気だった。
後ろを振り返ると、靄の裏側にいた。
「……と言うことは、やっぱりここは人間界……。帰ってきたんだわ」
なんとなく違う空気だった。
どっちが悪いと言うわけではなく、“時空を超えた”ような感触はあった。
(思い込みかもしれないけど)
森のどの辺りなのかは分からないが、奥深くにいるのは確からしい。
あの時と同じように、川の流れる音もなければ、人の気配もない。
ただ一面に似たような景色が広がっている。
空を見上げると、太陽が高く登っている。
時間的には、フレリバスと同じくらいだと判断した。
感覚で進む方角を決め、歩き始めた。
少しでも草が低くて歩きやすそうな所を見極めて足を進める。
道なき道を歩く靴ではない。
ヒールのない、バレーシューズが一番歩きやすそうだったから、それを履いてきた。
底の薄いバレーシューズは、丁寧にも足裏に石や飛び出した木の根っこの感触まで伝えてくれる。
角のある石や落ちている木の枝なんかはとっても痛かった。
それでも、なんとなくあの木を求めて彷徨い続けた。
あの日の大木の元まで行けるような気がしていた。
「本当に、こっちで良いのかしら……」
あの木なら、見れば直ぐに分かる。
木陰の続く森の中でも、歩き続けているうちに、じんわりと汗が滲む。
それでも体力の続く限り歩くと決めていた。
もう街に出たいとか、そういう気持ちは一切ない。
とにかくあの日の大木まで行きたい。
そこまで行ければ、あとは望むものなど何もなかった。
何度も転びそうになりながら、それっぽい大木を探す。
———ニコラさんは、まだ施設にいるかしら。
最近は夕方まで帰ってこない。
きっと、私がいなくなったのにも気付いていないだろう。
大好きなニコラさんには、幸せになってほしい。
そのためなら、私が身を引くことくらい……。そのくらいは……。
「うぅ……。会いたいよ……」
立ち止まり、後ろを振り返ってもニコラさんも住んでいた家も見えない。
そこには同じような緑の景色しかない。
言葉にしてはいけなかった。
発した言葉は、宙を舞い耳から戻ってくる。
すると、“会いたい”という感情が大きく膨れ上がる。
……会いたい、会いたい、会いたい……。
優しい笑顔を思い浮かべる。
そういえば、ニコラさんは最近あまり笑わなくなっていたように思う。
私とレニーさんのことで悩んでいたのかもしれない。
そんな変化にすら、私は気付いてあげられなかった。
ニコラさんはいつだって、私の些細な違いに気づいてくれていたのに。
「ふふ……。どちらにせよ、番失格ね」
“無能なオメガ”
妹のレアーノからよく言われていたが、きっと私のこういう所を見抜いていたんだわ。
腕で目を擦ると、再び歩き始める。
体感では、何時間も経っているように感じるが、空にはまだ青空が広がっている。
お腹が空いた。
もうこんな空腹を何ヶ月も味わっていなかった。
それだけ、私はニコラさんに助けられていたのだと実感する。
「あっ! あの木……。もしかして……」
あの日の大木にそっくりだ。大きく育った幹が歪んでいる。
あの歪みに私は身を預けて眠りについた。
そうだ。あの木に間違いない。
まさかこの森で同じ木に辿り着けるとは、思いもよらなかった。
神様のお導きとしか思えない。
しかし近づくにつれ、視界に木とは別のものが入ってきた。
フサフサの焦茶色の毛。丸い耳と尻尾。大きな体。
あれは……。もしかして……。
「アリシア!!」
「……ニコラ……さん……?」
大木の下にいたのは、熊の姿になったニコラさんだった。
フレリバスの森とは違う雰囲気だった。
後ろを振り返ると、靄の裏側にいた。
「……と言うことは、やっぱりここは人間界……。帰ってきたんだわ」
なんとなく違う空気だった。
どっちが悪いと言うわけではなく、“時空を超えた”ような感触はあった。
(思い込みかもしれないけど)
森のどの辺りなのかは分からないが、奥深くにいるのは確からしい。
あの時と同じように、川の流れる音もなければ、人の気配もない。
ただ一面に似たような景色が広がっている。
空を見上げると、太陽が高く登っている。
時間的には、フレリバスと同じくらいだと判断した。
感覚で進む方角を決め、歩き始めた。
少しでも草が低くて歩きやすそうな所を見極めて足を進める。
道なき道を歩く靴ではない。
ヒールのない、バレーシューズが一番歩きやすそうだったから、それを履いてきた。
底の薄いバレーシューズは、丁寧にも足裏に石や飛び出した木の根っこの感触まで伝えてくれる。
角のある石や落ちている木の枝なんかはとっても痛かった。
それでも、なんとなくあの木を求めて彷徨い続けた。
あの日の大木の元まで行けるような気がしていた。
「本当に、こっちで良いのかしら……」
あの木なら、見れば直ぐに分かる。
木陰の続く森の中でも、歩き続けているうちに、じんわりと汗が滲む。
それでも体力の続く限り歩くと決めていた。
もう街に出たいとか、そういう気持ちは一切ない。
とにかくあの日の大木まで行きたい。
そこまで行ければ、あとは望むものなど何もなかった。
何度も転びそうになりながら、それっぽい大木を探す。
———ニコラさんは、まだ施設にいるかしら。
最近は夕方まで帰ってこない。
きっと、私がいなくなったのにも気付いていないだろう。
大好きなニコラさんには、幸せになってほしい。
そのためなら、私が身を引くことくらい……。そのくらいは……。
「うぅ……。会いたいよ……」
立ち止まり、後ろを振り返ってもニコラさんも住んでいた家も見えない。
そこには同じような緑の景色しかない。
言葉にしてはいけなかった。
発した言葉は、宙を舞い耳から戻ってくる。
すると、“会いたい”という感情が大きく膨れ上がる。
……会いたい、会いたい、会いたい……。
優しい笑顔を思い浮かべる。
そういえば、ニコラさんは最近あまり笑わなくなっていたように思う。
私とレニーさんのことで悩んでいたのかもしれない。
そんな変化にすら、私は気付いてあげられなかった。
ニコラさんはいつだって、私の些細な違いに気づいてくれていたのに。
「ふふ……。どちらにせよ、番失格ね」
“無能なオメガ”
妹のレアーノからよく言われていたが、きっと私のこういう所を見抜いていたんだわ。
腕で目を擦ると、再び歩き始める。
体感では、何時間も経っているように感じるが、空にはまだ青空が広がっている。
お腹が空いた。
もうこんな空腹を何ヶ月も味わっていなかった。
それだけ、私はニコラさんに助けられていたのだと実感する。
「あっ! あの木……。もしかして……」
あの日の大木にそっくりだ。大きく育った幹が歪んでいる。
あの歪みに私は身を預けて眠りについた。
そうだ。あの木に間違いない。
まさかこの森で同じ木に辿り着けるとは、思いもよらなかった。
神様のお導きとしか思えない。
しかし近づくにつれ、視界に木とは別のものが入ってきた。
フサフサの焦茶色の毛。丸い耳と尻尾。大きな体。
あれは……。もしかして……。
「アリシア!!」
「……ニコラ……さん……?」
大木の下にいたのは、熊の姿になったニコラさんだった。
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