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〈11〉ありきたりなホラーになんか構ってられない

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    こんにちは、エレナです。只今最大のピンチ更新中だよ☆

    ……なーんてふざけている場合ではない。本当にマジピンチなのだ。なにせ私は今……




「きっさまぁぁぁ!」

    ブチ切れしたドSでやんちゃな次男坊ジェンキンスに胸ぐら捕まれてまーす!
    これも全部、あのメイドのせいだ!マジふざけんなぁぁぁ!!







***






    その日、私はいつものように屋敷探索をしていた。私の行動などしっかり把握していると思われる腹黒執事が何も言わないのでたぶん黙認されていると言うことだろう。リヒトは相変わらず何を考えているかわからないがニコニコしているだけで特に何か仕掛けてくる気配は無い。口出しされないのはありがたいが、それはそれでとても怖いものである。

    だが、それよりも厄介な存在……いや、鬱陶しいのがひとりいるので思わずため息がでた。

「リヒトも怖いけど、それよりもアレ・・がねぇ……」

    そう、バレバレなくせにこっそり(?)と私を監視してくるあのメイドだ。

    とにかく鬱陶しい。敵意剥き出しのオーラを撒き散らしていながらも影から私を睨んでくるのが本当に鬱陶しい。ここまであからさまにやられると本当にストレスなのだ。

    このストレスは相当なものになっていった。

    表面上は単に侯爵家の屋敷が珍しくて部屋を探検している風を装ってはいるが笑顔もひきつりそうだ。

    そんなときに屋敷を探索し続け、脳内に『侯爵家緊急避難マップ』を作成している私はまだ足を踏み入れていない部屋の存在に気付く。もちろんあの三兄弟や執事の私室ではない。あいつらの部屋なんて出来れば近寄りたくないからね。

    その部屋は一階の通路の奥にあり、調度品などに隠れて一見分かりにくい所に扉がついている。まるでわざと隠されているようにも感じられた。

「……なんの部屋かしら」

    見るからに怪しいその部屋がどうしても気になる。絶対に何かがあるはずだ。そんな気がした。なんでこんなに気になるのだろうか……。

    これはもしや、ヒロイン的な直感というやつでは……?!

    今すぐにでも部屋に突入して中を調べたい衝動にかられるが、背中にあのメイドの視線をグサグサと感じている最中にそれをするわけにもいかず、モヤモヤする気持ちを押さえながら私はその場を後にしたのだ。




    そしてその日の夜。あのメイドも私が寝静まったフリをして様子を見ていたら部屋の前からいなくなっていた。やはり夜中までは見張ってないようだ。それにしても日中は毎日私に張り付いて、メイドの仕事はいつしているのだろうか?行儀見習いに来てるんじゃなかったの?

    私は注意を払いながらそっと自室から抜け出し、例の部屋へと足を向けた。

    調度品の影に身を隠し、例の部屋の扉に手を伸ばす。

「ーーーー開いてる」

    鍵のかかっていなかった扉はカチリと小さな音を響かせてなんなく開いた。だが扉の中はすぐ壁で囲まれており小さな物置部屋のようだった。おそらく掃除道具を入れておく場所なのだろう。

    なんだ……、私の勘も当てにならないわね。

    緊張していただけにガッカリと肩を落とす。でも、一応調べておこうかな。と、その中へ身を乗り出した瞬間。

「やっぱりここに来たわね」

「え」

    突然背中を押され、物置部屋におしこめられてしまったのだ。振り向いた時に閉まる扉の隙間から見えたのはニヤリと笑うあのメイドの顔だった。

ガチャッ!ゴトゴト……

    閉まった扉からは鍵のかけられた音がして、どうやら側にあった調度品を扉の前に移動させているようである。

「何をするの……?!」

「んふふ……、あんた邪魔なのよ。大丈夫、朝になったら出してあげるわ。死んじゃったらあの方が処分にお困りになるもの。でもね、孤児院上がりの身の程知らずが大きな顔をしてるなんて許せないのよ。生意気だわ。
    ねぇ、知ってる?この部屋はね、ただの物置部屋なんかじゃないの。本当は昔の当主の奥様がお仕置き部屋として使っていたの。だけどある時やり過ぎて使用人を殺してしまったの。そしたら奥様は精神がおかしくなってこの部屋で自殺したんですって。馬鹿よねぇ。

    当時の当主はね、その時の妻の死んだ姿に怖くなって部屋を壁でふさいだらしいのだけど、なぜか扉の部分だけ空間を残したわ。変だと思わない?

    ほら、その空間……ちょうど人間ひとり分のスペースが空いてるのよ。そこは決して物置なんかじゃない。実はね、夜な夜な当主の枕元に死んだ奥様が立つんですって。苦しいから仲間が欲しい。って。それで当主はそのスペースを作ったの。なんでだと思う?

    ……粗相をした使用人をお仕置きだと称してここに閉じ込めるの。するとね、その閉じ込められた人間は何かを見たり感じたりするらしくて翌朝には精神が崩壊してるそうよ。そうして生け贄を差し出せば奥様の幽霊はしばらく現れないんですって。

    あーおかしい。みんな馬鹿ばっかりだわ。
    あたしは幽霊なんて信じてないけど、あんたがこの部屋に興味を示したのを見て本当に頭が変になるのかあんたで実験しようと思ったの。何を調べてるのかは知らないけど、卑しい孤児女だから部屋を調べて盗みでもするつもりだったんでしょ?残念だったわね。もしお仕置き好きの幽霊が出てきたら頑張ってねぇ」

    そうして遠ざかる足音を聞きながら自分のマヌケさにため息がでた。ジェンキンスかエリオット関連のキャラだとは思って警戒はしていたつもりだったがいつの間にフラグがたっていたのだろうか。なんか妙な逆恨み?されてるっぽいんですけど。そして夜中に行動することもバレバレだったなんて……なんたる不覚。

    それにしても……生け贄のお仕置き部屋ねぇ。確かにこのゲームはある意味とってもホラーティストだったが幽霊なんかの本格ホラーは出てこなかったはずだ。と言うことは単なる噂……いや、たぶん過去に本当にあったのだろうけれど。どのみちそんなホラー話にいちいち怯えてる暇はないのだ。それに私は幽霊よりも人間の方が怖いってよく知っている。あの女主任の怨念こそが真のホラーだ。

「……まぁ、確かにこんな狭い空間に一晩中閉じ込められたら精神がやられそうだわ」

    たぶんあのメイドは私が泣いて許しを乞うとか、気が触れておかしくなったりするのをお望みのようだ。出なければわざわざあんな話をしないだろう。殺す気はないみたいだけど……非常に面倒くさいキャラのようだ。なんであんなに敵視されなきゃいけないのか。

    どうしたものかと頭を悩ませていると、ふわりとわずかな隙間風を感じた。

    ……どこかに隙間がある?

    突っ立っていても仕方ないのでペタペタと壁を触っていると、1ヶ所だけ微妙に段差があるのがわかった。

    今度こそヒロイン的直感が働いた。ここは開く!

「……開いたどーっ!あのメイドざまーみ……」

    思わず、昔テレビで見た無人島で魚をゲットした人みたいな叫びをあげてその開いた部分をこじ開け壁の中へと身を滑らせる。拳にした右手を上にあげ喜びを表現していた私は目の前に広がる光景に喜びの顔から冷や汗ダラダラのヤベー顔に変貌してしまう。

「んなっ……なんで、こんな……?!」

    開いた壁の中には手狭ながらもちゃんとした部屋があり明るかった。暗闇にいた私は目が眩んで最初はよく見えなかったのだが、目が慣れるとそこはとんでもない戦場だったのだ。

    なんてこったい。ジェンキンスさんが、若い女性にナイフを向けられておりますがな。え?もしかしなくても修羅場?

「ーーーーあぁ、やっぱり新しい女がいたのね。だから、わたくしと別れるなんて……」

    私に背を向けていたその女性が視線だけを後ろに向けて私を見て呟いた。

    揉み合った後なのか衣服は乱れ金色の長い髪もほどけてくしゃくしゃになっている。顔も涙と鼻水で大変な事になっていたが、それでもとんでもなく綺麗な人なのだとわかる程に超美女だ。

「違う、そんな女なんか関係ないんだ!ただオレは君の幸せの為に……」

「そんなの嘘よ!だってわたくしはあなたの側にいる事が幸せなのに、あなたに捨てられてあんな男の所に嫁ぐくらいならいっそ……!」

    そう言ってその美女は持っていたナイフの刃先を自分に向け、一気に突き刺そうとしたのだ。

「ダ、ダメ……!」

    そしてそんな突然の修羅場にパニックになった私はずっと上にあげていた拳を目の前にいる美女に向かって振り下ろし……思いっきり首の後ろ部分を殴って気絶させてしまった。

    あ、白眼剥いてても美女だなぁ。わぁ、泡まで吹いてるぅ。って、ヤバイ、力いっぱい殴りすぎたかも……?!

「……きっさまぁぁぁ!なんてことを!!」

    こうして私はジェンキンスに捕まり、ブチ切れされているのである。

    これも全部私をあんなとこに閉じ込めたメイドのせいだぁ!と言うか、こんなところで修羅場ってるジェンキンスが悪いんだろうが!マジふざけんなぁぁぁ!!




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