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〈23〉権力とは、弱者を助けるためにあるべきだ
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「……そのことは、えーと、ジェンキンスお兄様は知ってるの?」
興奮気味になりそうなのをぐっと抑えてやや小声でそう聞くと、ミリーナさんは今度は悲しそうに首を横に振る。なんでも私と遭遇したあの日、妊娠したことを告げるためにジェンキンスに会いに行ったそうなのだが……。
「……妊娠の事を言う前に、別れを告げられてしまったんです」
ぽろっとミリーナさんの瞳から涙がひと粒溢れる。そして「あの時は取り乱してしまい申し訳ございませんでした」と頭を下げると、震える声であの時の説明をしてくれたのだ。
元々聖女になる前からミリーナさんとジェンキンスは出会い、お互いに好意を寄せていたらしい。その頃のジェンキンスは侯爵家の養子となって間もない頃で、慣れない暮らしに戸惑いを感じていたらしく(今では朝からワイン飲んでるけど)男爵令嬢ながらも健気なミリーナさんに惹かれた(いや、絶対にドS心が働いたんだよ。騙されちゃダメだよ、ミリーナさん!)らしいとかでジェンキンスから交際を申し込んで来たのだとか。
「……侯爵令息と男爵令嬢では身分差がありますから結ばれるなんて望んではいけないとわかっていたのですが、わたくしもお慕いしておりましたので……。でも、ジェンキンス様はご自分が必ず侯爵家を継ぐと、そうしたら迎えに来るから待っていてくれと言ってくださったんです。ですから、父から聖女になることを勧められた時もわたくしが聖女になれれば侯爵となったジェンキンス様と結ばれるのも夢ではないかもしれないと……。もちろんジェンキンス様にも相談しました。そしたら、“是非聖女になって欲しい”と……。それなのに、急にもう自分は侯爵にはなれないから別れてくれと言われたんです」
「それって……」
「あー、なるほどね」
しょんぼりしているミリーナさんに気づかれないようにエリオットに視線を送ると、エリオットも同じ意見だったのか深く頷いた。
それって、つまり。私が侯爵家の跡継ぎになっちゃったからだよね……?!
侯爵にならないとミリーナさんと結婚出来ない。だが、次代の侯爵になるためには私の伴侶に選ばれなくてはならない。ミリーナさんと結婚したいジェンキンスからしたら詰んだわけだ。
泣きすぎて疲れてしまったミリーナさんには少し休んでもらい、私とエリオットは別室を貸してもらった。極秘の相談をしなければならないからね!
「なんてこっただわ……!だからジェンキンスからやたらと敵視されていたのね」
「それにしてもジェンキンスがそこまで侯爵の座に拘るのはなんなんだろう?別に侯爵子息のままでも男爵令嬢と結婚するくらい出来ると思うんだけど」
エリオットが首をひねる。確かに身分差はあるだろうけど本人たちが望むならやって出来ないことはないはずだ。ミリーナさんの親だって、娘が侯爵家に嫁ぐなら万々歳だと思うのだが。
「ルーファスあたりが反対しそうだとか?」
「……うーん、もしかしたらお父様が反対していたのかも。ジェンキンスはどちらかというと侯爵家の事を嫌っていたから反発心がすごかったんだ。それで生前のお父様とも喧嘩してたし……。 ほら、ジェンキンスってチャラいから。まぁ、ルーファスとはそれなりに仲良くしていたみたいだけど……」
でもその養父はすでに亡くなっているのだし、いざとなったらどうとでも……。と、そこまで考えて「「あっ」」と私とエリオットの声が重なる。
「……そういえば、今の侯爵家の決定権って私にあるのよね?」
「そうだね。つまり、おねーさまの伴侶になる権利を放棄してミリーナさんと結婚したかったら……おねーさまに“お願い”しなきゃいけないわけだ」
思わずため息が出そうになる。つまり、ルーファスに負けじ劣らずプライドの高いジェンキンスは私に頭を下げるのが嫌だったわけだ。
「侯爵当主になれれば全部自分で決めれるから、誰を嫁にしようが権力で押し通すつもりだったんじゃない?それで、男爵令嬢のままよりも聖女の方が結婚しやすいのは確かだから反対しなかった。けどその後にお父様が死んでおねーさまが現れた」
「侯爵当主にはもうなれない。さらにミリーナさんは借金のせいで伯爵の婚約者にされてしまった。借金を肩代わりするにも侯爵になれないと自由に出来るお金もないと……馬鹿じゃないのかしら」
「同感。まぁ、おねーさまと結婚だけしてミリーナさんを愛人にするとかしないだけマシだけど、本気で好きなら駆け落ちくらいしてみればいいのに」
「ドSなのに小心者だからねぇ……。侯爵になれない自分にはミリーナさんを幸せには出来ないとかなんとか考えてそうだわ」
「うわ、自己陶酔とかキモッ!ドSな上に小心者のナルシストじゃん」
エリオットがうげっと舌を出す。もしかしてドSキャラなのは、小心者の本性を隠すためとか言わないでしょうね。そうだとしたら女主任の深い闇が恐ろしすぎる。確かに女主任は攻略対象者も全て不幸になると言っていた。ヒロインと結ばれたら本当に好きな人と結婚出来ずに不幸。ヒロインと結ばれなくても侯爵になれず自信を無くして聖女を迎えに行けないから不幸とは。負のオーラが半端ない。
「……制作者の闇が想像以上にヤバい気がしてきたわ。嫌がらせのレベルが酷いわ」
「みんなが必ず不幸になるゲームなんて、本当に需要あるの?」
あったんですよ、これがまた。(一部だが)
しかし、どうしたものか。と頭を悩ませる。こっちとしては申し訳ないがジェンキンスのプライドやら自己陶酔やらはどうでもいい。だが、ミリーナさんのお腹には小さな命が宿っでいて今のこの瞬間にも着実に育っているのだ。
そして私はあることを思いついた。それは今の私の立場や権力を余すことなく使うことになるのだが……。
「……ねぇ、エリオット。さっきも言ったけど今の侯爵家って本当に私の一存でどうにでもなるのよねぇ……?」
「そうだねぇ。さっきも言ったけど、全ての決定権はおねーさまにあるんだからそうなんじゃない?」
私とエリオットは視線を交わし、ニヤッとお互いに笑いあった。どうやらエリオットには私の考えている事がわかっているらしい。
「それじゃ、その権力……ふんだんに使っちゃいましょうかね」
どうせなら、ばーんと派手に使わないとね?
興奮気味になりそうなのをぐっと抑えてやや小声でそう聞くと、ミリーナさんは今度は悲しそうに首を横に振る。なんでも私と遭遇したあの日、妊娠したことを告げるためにジェンキンスに会いに行ったそうなのだが……。
「……妊娠の事を言う前に、別れを告げられてしまったんです」
ぽろっとミリーナさんの瞳から涙がひと粒溢れる。そして「あの時は取り乱してしまい申し訳ございませんでした」と頭を下げると、震える声であの時の説明をしてくれたのだ。
元々聖女になる前からミリーナさんとジェンキンスは出会い、お互いに好意を寄せていたらしい。その頃のジェンキンスは侯爵家の養子となって間もない頃で、慣れない暮らしに戸惑いを感じていたらしく(今では朝からワイン飲んでるけど)男爵令嬢ながらも健気なミリーナさんに惹かれた(いや、絶対にドS心が働いたんだよ。騙されちゃダメだよ、ミリーナさん!)らしいとかでジェンキンスから交際を申し込んで来たのだとか。
「……侯爵令息と男爵令嬢では身分差がありますから結ばれるなんて望んではいけないとわかっていたのですが、わたくしもお慕いしておりましたので……。でも、ジェンキンス様はご自分が必ず侯爵家を継ぐと、そうしたら迎えに来るから待っていてくれと言ってくださったんです。ですから、父から聖女になることを勧められた時もわたくしが聖女になれれば侯爵となったジェンキンス様と結ばれるのも夢ではないかもしれないと……。もちろんジェンキンス様にも相談しました。そしたら、“是非聖女になって欲しい”と……。それなのに、急にもう自分は侯爵にはなれないから別れてくれと言われたんです」
「それって……」
「あー、なるほどね」
しょんぼりしているミリーナさんに気づかれないようにエリオットに視線を送ると、エリオットも同じ意見だったのか深く頷いた。
それって、つまり。私が侯爵家の跡継ぎになっちゃったからだよね……?!
侯爵にならないとミリーナさんと結婚出来ない。だが、次代の侯爵になるためには私の伴侶に選ばれなくてはならない。ミリーナさんと結婚したいジェンキンスからしたら詰んだわけだ。
泣きすぎて疲れてしまったミリーナさんには少し休んでもらい、私とエリオットは別室を貸してもらった。極秘の相談をしなければならないからね!
「なんてこっただわ……!だからジェンキンスからやたらと敵視されていたのね」
「それにしてもジェンキンスがそこまで侯爵の座に拘るのはなんなんだろう?別に侯爵子息のままでも男爵令嬢と結婚するくらい出来ると思うんだけど」
エリオットが首をひねる。確かに身分差はあるだろうけど本人たちが望むならやって出来ないことはないはずだ。ミリーナさんの親だって、娘が侯爵家に嫁ぐなら万々歳だと思うのだが。
「ルーファスあたりが反対しそうだとか?」
「……うーん、もしかしたらお父様が反対していたのかも。ジェンキンスはどちらかというと侯爵家の事を嫌っていたから反発心がすごかったんだ。それで生前のお父様とも喧嘩してたし……。 ほら、ジェンキンスってチャラいから。まぁ、ルーファスとはそれなりに仲良くしていたみたいだけど……」
でもその養父はすでに亡くなっているのだし、いざとなったらどうとでも……。と、そこまで考えて「「あっ」」と私とエリオットの声が重なる。
「……そういえば、今の侯爵家の決定権って私にあるのよね?」
「そうだね。つまり、おねーさまの伴侶になる権利を放棄してミリーナさんと結婚したかったら……おねーさまに“お願い”しなきゃいけないわけだ」
思わずため息が出そうになる。つまり、ルーファスに負けじ劣らずプライドの高いジェンキンスは私に頭を下げるのが嫌だったわけだ。
「侯爵当主になれれば全部自分で決めれるから、誰を嫁にしようが権力で押し通すつもりだったんじゃない?それで、男爵令嬢のままよりも聖女の方が結婚しやすいのは確かだから反対しなかった。けどその後にお父様が死んでおねーさまが現れた」
「侯爵当主にはもうなれない。さらにミリーナさんは借金のせいで伯爵の婚約者にされてしまった。借金を肩代わりするにも侯爵になれないと自由に出来るお金もないと……馬鹿じゃないのかしら」
「同感。まぁ、おねーさまと結婚だけしてミリーナさんを愛人にするとかしないだけマシだけど、本気で好きなら駆け落ちくらいしてみればいいのに」
「ドSなのに小心者だからねぇ……。侯爵になれない自分にはミリーナさんを幸せには出来ないとかなんとか考えてそうだわ」
「うわ、自己陶酔とかキモッ!ドSな上に小心者のナルシストじゃん」
エリオットがうげっと舌を出す。もしかしてドSキャラなのは、小心者の本性を隠すためとか言わないでしょうね。そうだとしたら女主任の深い闇が恐ろしすぎる。確かに女主任は攻略対象者も全て不幸になると言っていた。ヒロインと結ばれたら本当に好きな人と結婚出来ずに不幸。ヒロインと結ばれなくても侯爵になれず自信を無くして聖女を迎えに行けないから不幸とは。負のオーラが半端ない。
「……制作者の闇が想像以上にヤバい気がしてきたわ。嫌がらせのレベルが酷いわ」
「みんなが必ず不幸になるゲームなんて、本当に需要あるの?」
あったんですよ、これがまた。(一部だが)
しかし、どうしたものか。と頭を悩ませる。こっちとしては申し訳ないがジェンキンスのプライドやら自己陶酔やらはどうでもいい。だが、ミリーナさんのお腹には小さな命が宿っでいて今のこの瞬間にも着実に育っているのだ。
そして私はあることを思いついた。それは今の私の立場や権力を余すことなく使うことになるのだが……。
「……ねぇ、エリオット。さっきも言ったけど今の侯爵家って本当に私の一存でどうにでもなるのよねぇ……?」
「そうだねぇ。さっきも言ったけど、全ての決定権はおねーさまにあるんだからそうなんじゃない?」
私とエリオットは視線を交わし、ニヤッとお互いに笑いあった。どうやらエリオットには私の考えている事がわかっているらしい。
「それじゃ、その権力……ふんだんに使っちゃいましょうかね」
どうせなら、ばーんと派手に使わないとね?
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