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〈22〉トラブルに巻き込まれに行く趣味はないはずなんだけど……たぶん

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 私が聖女さんと伯爵の痴話喧嘩に首を突っ込んでしまいどうしたものかと悩んでいると、いつの間にか背後にリヒトが姿を現した。

 ……いや、本当にいつの間に来たの?!忍者なの?!

「エレナ様はトラブルに巻き込まれるのがお好きですね。元気が有り余っているようですし」

 いつものにっこり執事スマイルだが言葉の端には棘を感じる。うぅ、これはもしかしなくてもエリオットにではなくリヒトに怒られる感じ?!

 しかしリヒトは視線を聖女さんたちにうつして頭を下げた。

「……うちのお嬢様が大変失礼致しました。カリスロ伯爵と聖女様でございますね?

 こちらは我が主でメルキューレ侯爵家のご令嬢、エレナ・メルキューレ様でございます」

「まさか、メルキューレ侯爵家のーーーーあの・・養女殿でいらっしゃいましたか」

 リヒトの言葉にカリスロ伯爵の目が鋭くなった。こちらもこちらでなんとなく棘がある気がする。どうやら私の事情を知っているようだ。

 ……私が元孤児院の子供だと。そして、孤児院育ちであることを“下”に見ている。そんな感じだろうか。

「あ、あの……っ」

 しかしリヒトとカリスロ伯爵の間になにやらピリついた空気が流れた時、なんとそれまで下をうつむいていた聖女さんが勢い良く私に抱きついてきたのである。な、なんで……?!

「こ、この方はわたくしのお友達なんです!じ、実はこれから一緒に約束があるので……だ、だから伯爵様のご用事はまた後日にお願いします!」

「へっ?!なにを……「ですよね?!エレナ様!!」あ、は、はい。ソノトオリデス……」

「……友達?あなたとこの・・令嬢が?」

 驚いたものの、鬼気迫る顔で懇願され私は仕方なく頷く。納得がいかないのかカリスロ伯爵の口髭がピクリと動いた。これは絶対に疑われてるよ。というか、なんで聖女さんは私の名前を知って……あぁ、さっきリヒトが紹介してくれちゃってたっけ。

 さらに空気を読んだリヒトがにっこりと口を開く。

「……お嬢様は聖女様にお会いするのを楽しみにしていまして、楽しみのあまりにこうやって馬車を飛び出してきてしまったのです。お転婆でお恥ずかしい限りでございますが」

 その含みのある言い方にカチンときて「ちょっと、誰がお転婆なのよ!?」と、リヒトに言い返そうとしたその時。ぺしん!と後頭部に軽い衝撃を感じた。

「はぁーーーー、本当にお転婆なおねーさまで困るよ!」

「イタっ!て、……エリオット?!」

 ちょっと息を切らしたエリオットが追いついてくるなり深いため息をつきながら私の後頭部をはたいたようだ。軽くだから本当に痛かった訳では無いので条件反射的な叫びである。私とエリオットは同じくらいの身長だから振り向きざまに目が合ったが、絶対に怒っていそうなオーラをひしひしと感じた。

 するとエリオットは私の横に立ち、カリスロ伯爵に向かって口を開いた。

「で、僕がその侯爵家の三男のエリオット・メルキューレだよ。知っての通り僕も養子だけど、うちのおねーさまが養女だからなんだって?」

「ぐっ……。いえ、なにも……」

 たじろぐカリスロ伯爵に「だったら、この聖女は僕のおねーさまが先約だから帰ってくれる?」と言って鋭く睨んだ。

「……承知致しました。では、我が婚約者をよろしくお願いいたします」

 こうしてカリスロ伯爵は去っていった。去り際に私を睨んでいたが……最初はナイスミドルな紳士に見えたがなんだか闇が深そうだ。


「おねーさま、大丈夫?」

「うん、ありがとう。でも、エリオットが現れた途端に伯爵の態度が変わったわね。やっぱり侯爵令息ってすごいのね!」

 あのままではもう一悶着ありそうな雰囲気だったのでホッと胸を撫で下ろした。やっぱり同じ養子や養女でも私とエリオットではかなり違うのだと痛感した。まぁ、孤児院出身の私と違ってエリオットはちゃんとした貴族から養子に出されたはずだし……あれ?そう言えばエリオットの元の家族に関する事ってゲームに出て来てたっけ?と記憶を探るが、私のプレイしたサンプル版にはエリオットの詳細は全く出てきていなかった。というか、サンプル版だからなのか攻略対象者の三人はそれぞれ貴族の家から養子に出されたとしか語られていなかったのだ。

 するとエリオットは複雑そうに眉をしかめ、小さな声でなにかを呟いた。

「え、あぁ……。そうか、おねーさまはエリオットルートの裏設定知らないから……」

「え?」

 よく聞こえなくて「?」となっていると、エリオットは首を横に振った。

「なんでもないよ。そう、僕はえらーい侯爵令息だからね!ほら、そっちの聖女も……いつまでおねーさまに抱きついている気なの?早く離れてよね」

「は、はいぃぃぃっ!申し訳ございません……!
あ、あの!助けて頂いて本当にありがとうございました……お詫びをしたいのですが……どうか我が家に来てくださいませんか……?!」

 謝りながらも私から離れようとしない聖女さん。私としてもどうしたらいいかわからずエリオットをちらりと見る。

「……仕方ない、先に首を突っ込んだのおねーさまだしね……。リヒト、馬車だけど「一台はすでに侯爵家に帰るように指示しております。もう一台は聖女様のお屋敷に回しておきますね」……ちっ。ムカつくくらい手回しがいいな」

 エリオットの舌打ちにリヒトが「お褒めいただき光栄です」と笑った。




 こうして私とエリオットは聖女さんの屋敷に招待されたのだが……。







「改めまして、わたくしの名はミリーナ・ブラームスと申します。ブラームス男爵家のひとり娘ですわ」

 どうしても聞いてほしい事があると部屋に通されるが、メイドや執事の姿はなく聖女さん自らお茶の準備をしてくれた。

 そして、さっきの痴話喧嘩とらやの事を教えてくれたのだ。

「我が家は貴族と言っても貧乏男爵家でして、お恥ずかしながら使用人がほとんどおりません。わたくしが聖女となれたのも父が少しでも良い縁談を得るためにと借金までして教会に寄付をしたからなんです。……ですが、聖女になれたものの借金を返せずに困っているとカリスロ伯爵が借金を肩代わりするから代わりにわたくしを寄越せと言い出しそのまま婚約者にされてしまったのです」

 ひと口お茶を飲み、聖女さん……ミリーナさんは肩を落とす。

「……でもあの人は人前では紳士ぶっていますが、決してわたくしの事を愛しているわけではなくただ聖女と言う名の女をいたぶりたいなんです!せめてもの抵抗にと、結婚までは嫌だとわたくしは肌を許しておりませんでした。ですが、わたくしが隠れて誰かと逢引しているのでは疑い出しまして……さっきは、わたくしに乱暴な事をするために無理矢理連れて行こうとしていたのですわ」

 その顔色の悪さと震える声がそれを真実だと物語っていた。私も、もちろんエリオットもいい気分の話ではない。エリオットが「あのクソジジイ、サイテーだね」と悪態づいていた。お金のための政略結婚はよくある事らしいが、それでも嫌なことにかわりはない。

「もちろん借金を返せなかったわたくしや父が悪いのですが、この結婚がどうしても嫌で……。わ、わたくしには心に想う方が……それに、実はーーーー」

 その相手がジェンキンスであることは明らかなのでそこに驚きはしないが、次の発言で私とエリオットは飲みかけのお茶を思わず吹き出しそうになるはめになったのだった。






「に、妊娠してるですってぇぇぇぇえ?!むぐっ!」

「しーっ!大きな声で言わないで下さいぃぃぃ!!」



 思わず叫んだ私の口をミリーナさんが慌てて塞ぐが、これが叫ばずにいられるだろうか。このミリーナさんには一応婚約者がいて、でもその婚約者には指一本触れさせていないとなると、それってやっぱりもしかしなくてももしかして……?!
あぁ、でもこんなデリケートな問題をズバリ聞くなんてさすがにでk

「それってやっぱり、ジェンキンスの子供ってこと?」

エリオットが聞いちゃったーっ!ちょっと、エリオット!興味津々丸出しの顔でそんなこと聞いちゃダメよ!!私が恐る恐るミリーナさんの方に視線を向けると……彼女は顔を真っ赤にして小さく頷いたのだった……。


 まじかぁー……!なにやってんよ、ジェンキンスは!!





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