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第十四章
入院⑧
17時を過ぎたころ、『コンコン』と四人部屋の共同の入口の扉からノックの音が聞こえた。誰の来客かはわからない。
「由奈ちゃん。起きてる?」
突然の予想外の声がカーテンの向こう側から聞こえた。
「え?はい。うん。起きてる」
驚きすぎて返事がおかしくなってしまう。
「入ってもいい?」
「あっ、うん」
返事をしながらも慌てて手ぐしで髪を直し、服装をチェックする。と言ってもパジャマなのだが、お気に入りのパジャマを着ていて良かった。
「大丈夫?」
心配顔で入ってきた瑞希は、制服姿で学校帰りに直接来てくれたようだ。
「うん。どうして……」
「昨日、たまたま朱里ちゃんに会って、由奈ちゃんのことを聞いたんだ。心配で、母さんから由奈ちゃんのお母さんに聞いてもらった」
「わざわざありがとう」
「元気そうな顔を見られて安心した。あっそうだ。これ」
瑞希から渡されたのは、可愛くラッピングされたクッキーと交換ノート。
「もし、時間があれば交換ノートに色々書いておいて。退院して僕にノートが回ってきた時に読むのを楽しみにしてるよ」
退屈しないように考えてくれたのか、どこまでも優しい瑞希に涙が出そうだ。
「今日は部活は?」
「僕もテスト前だからないんだ」
「テスト前の勉強で忙しい時にごめんね」
「由奈ちゃんが謝ることはなにもないよ。僕が来たくて来たんだ。顔を見て安心できて良かった」
「本当にありがとう」
「あっ、あとこれ」
瑞希が差し出したのは一冊の文庫本だった。
「これは?」
「僕のおすすめの本。主人公が中学生のカップルで、友達の濡れ衣をはらすために奮闘する話なんだ。由奈ちゃんはスマホを持っているし退屈はしないだろうけれど、本を読むのもいいかな?と思って。僕が勝手に持ってきただけだから、無理しなくていいからね」
スマホを持たない瑞希らしい。夏休みの宿題の感想文のために本を読んだけれど、普段はあまり本を読むことはない。入院中、スマホばかり触っているのもどうかと思っていた。かといって、勉強ばかりでは息が詰まる。
手のひらサイズの文庫本は、スマホとは違った世界が広がっているのだろう。
「瑞希くんのおすすめなら絶対に面白いと思うから、読ませてもらうね」
長居はせずに瑞希は帰っていった。
早速、瑞希のおすすめの本を開く。こんな機会でもなければ、読むことはなかったかもしれない。同世代の主人公達の活躍が楽しくて、夢中で読んでしまう。
母が来ても夢中で本を読んでいる私に驚いたほどだ。
「由奈、そんなに本好きだったっけ?」
「え?ううん。文字を見ただけで眠くなるもん。でも、この本すっごく面白いの」
「瑞希くん効果は絶大ね」
テストが受けられなくなり一週間の入院に最初は落ち込んでいた由奈だったが、瑞希の存在が気持ちを前向きにさせてくれる。
テスト中にはやり取りすることのない瑞希が持ってきてくれた交換ノートには、由奈を心配する温かいメッセージが書かれていた。
当初の予定通り一週間で退院できた。
色々な意味で、由奈にとっては貴重な体験となったのだった。
「由奈ちゃん。起きてる?」
突然の予想外の声がカーテンの向こう側から聞こえた。
「え?はい。うん。起きてる」
驚きすぎて返事がおかしくなってしまう。
「入ってもいい?」
「あっ、うん」
返事をしながらも慌てて手ぐしで髪を直し、服装をチェックする。と言ってもパジャマなのだが、お気に入りのパジャマを着ていて良かった。
「大丈夫?」
心配顔で入ってきた瑞希は、制服姿で学校帰りに直接来てくれたようだ。
「うん。どうして……」
「昨日、たまたま朱里ちゃんに会って、由奈ちゃんのことを聞いたんだ。心配で、母さんから由奈ちゃんのお母さんに聞いてもらった」
「わざわざありがとう」
「元気そうな顔を見られて安心した。あっそうだ。これ」
瑞希から渡されたのは、可愛くラッピングされたクッキーと交換ノート。
「もし、時間があれば交換ノートに色々書いておいて。退院して僕にノートが回ってきた時に読むのを楽しみにしてるよ」
退屈しないように考えてくれたのか、どこまでも優しい瑞希に涙が出そうだ。
「今日は部活は?」
「僕もテスト前だからないんだ」
「テスト前の勉強で忙しい時にごめんね」
「由奈ちゃんが謝ることはなにもないよ。僕が来たくて来たんだ。顔を見て安心できて良かった」
「本当にありがとう」
「あっ、あとこれ」
瑞希が差し出したのは一冊の文庫本だった。
「これは?」
「僕のおすすめの本。主人公が中学生のカップルで、友達の濡れ衣をはらすために奮闘する話なんだ。由奈ちゃんはスマホを持っているし退屈はしないだろうけれど、本を読むのもいいかな?と思って。僕が勝手に持ってきただけだから、無理しなくていいからね」
スマホを持たない瑞希らしい。夏休みの宿題の感想文のために本を読んだけれど、普段はあまり本を読むことはない。入院中、スマホばかり触っているのもどうかと思っていた。かといって、勉強ばかりでは息が詰まる。
手のひらサイズの文庫本は、スマホとは違った世界が広がっているのだろう。
「瑞希くんのおすすめなら絶対に面白いと思うから、読ませてもらうね」
長居はせずに瑞希は帰っていった。
早速、瑞希のおすすめの本を開く。こんな機会でもなければ、読むことはなかったかもしれない。同世代の主人公達の活躍が楽しくて、夢中で読んでしまう。
母が来ても夢中で本を読んでいる私に驚いたほどだ。
「由奈、そんなに本好きだったっけ?」
「え?ううん。文字を見ただけで眠くなるもん。でも、この本すっごく面白いの」
「瑞希くん効果は絶大ね」
テストが受けられなくなり一週間の入院に最初は落ち込んでいた由奈だったが、瑞希の存在が気持ちを前向きにさせてくれる。
テスト中にはやり取りすることのない瑞希が持ってきてくれた交換ノートには、由奈を心配する温かいメッセージが書かれていた。
当初の予定通り一週間で退院できた。
色々な意味で、由奈にとっては貴重な体験となったのだった。
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