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第二章

運命の一夜②

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 飲み過ぎて夜景すら視界に入らなくなった頃、さくらの隣に誰かが座った。気配を感じたが、特に気にもしなかった。

「飲み過ぎじゃないか?」

 突然バリトンボイスが聞こえた。でもまさか自分が話しかけられているとは思わない。気にすることなくグラスを口に運ぶ。

「おい」

 言葉と共に、グラスを持つ手を押さえられ驚き声の主を見るが、飲み過ぎと潤む目で男性だということしか認識出来ない。

「私に何か御用ですか?」
「さっきから見ていたが飲み過ぎだ」
「えっ?この席ずっと空いていましたよ?」
「ああ、あっち」

 コの字のカウンターの対面を指差す。確かに、正面の席からならよく見えていただろう。

「私のことは放っておいて下さい」
「それが出来ないから、わざわざ席を移動してきたんだ。この際だから、何があったか話してみろよ」
「初対面の人に?」
「初対面だからいいんだろう?」

 そう言われるとそんな気がしてくる。かなりお酒が入り、判断能力も低下しているからだろうか、今日あったことを素直に吐き出していた。


 さくらが詰まりながらも経緯を話す間、軽い相槌だけで口を挟むことなく、男性は真剣に聞いてくれた。

 話し終わると何を言うわけでもなく、さくらの頭を大きな手で優しくポンポンとしてくれた。

 温かい手に今まで我慢していた涙が一気に溢れ出す。

 涙を流し続けるさくらを優しく見守ってくれる。

 先程までの、荒れ狂う胸の内が落ち着きを取り戻す。

「なあ」
「はい」
「辛い記憶を俺で塗り替えてやろうか?」
「えっ?」
「この最悪の日を、最高の一夜に変えてやるよ」

 普通の人が言うと何様だと思うだろうセリフも、全く違和感がない。顔がはっきり見えないのが残念だが、さくらの中ではどこの誰だかわからない声の主になぜか惹かれている。

「忘れさせてくれますか?」

 悠太としか付き合ったことがないさくらにとっては、あり得ない状況だが、なぜか男性の言葉が響いたのだった。

「ああ。俺にすべてを任せろ。名前は?」
「さくらです」
「俺はれいだ」
「怜さん」
「ああ。じゃあ行こう」
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