【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO

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第四章・Yesterday,Today,Forever…

52・恋のキューピット

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 ほんの少し前まで、物凄く生意気で失礼な人だと思っていたクリスが、ただの不器用な人に見えてきたんだけど…
 あれはそもそも虚勢を張り、ああいった態度でなければ自分を保てなかったのかも知れないな…だけど心の中では不安で一杯で。それだけレオに本気なんだよ…
  
 クリスはあれから僕達に何かを頼む訳でもなく、ただ話しを聞いてくれてありがとう…と言い残して帰って行った。僕もかつては、ミシェルに片想いをしていたが無視されて、苦しい思いをしていた…だからその気持ちは痛いほど分かる。

 もちろん乃恵留に強要するつもりはないけど、もしかして少しはクリスに対しての気持ちがあるとしたら…それは後押ししなきゃ!でしょ?二人共とっても不器用そうだからね~
 それで僕は勝手に恋のキューピット作戦を実行する事にした!


 「あのね、乃恵留はクリスのこと好き?それともやっぱり苦手なのかな…」

 自分を訪ねて来るなり、開口一番そう聞いてくる僕に乃恵留は唖然としている。

 「何だよ~それさ。何か企んでる?」

 「まさか!乃恵留相手に何を企むってーんだよ?率直な質問だから」

 間髪入れずにそう返したけど、明らかに乃恵留は警戒している。それからクリスねぇ…って呟く。

 「うーん…クリスとミシェルが今後付き合ったり、結婚したりはもう完全に無いのは分かってる。ミシェルのお前に対する溺愛ぶりは物凄いものがあるし、誰が見たって本物だ。だけどなぁ…それを分かっていたとしても、クリスが当て馬の俺を好きだなんて、どう考えても信じられないんだよなぁ。ハァーッ…」

 大きな溜め息を吐く乃恵留に、僕はもうその溜め息が返事みたいなもんじゃん!って思う。だってさ、本当に嫌いだったならそもそも悩まないと思わない?悩む…って事は、やっぱり少なからず想いがある証拠だよ。そして乃恵留は僕よりもずっと長い間小説に囚われている…
 
 以前から…それも幼少期から前世を思い出している乃恵留は、その事に対して雁字搦がんじがらめになっているんだ。それをどうにか解いてあげられるといいんだけど…

 「それにさ、俺が王太子じゃなかったらどうだったと思う?じゃなきゃ歯牙にもかけなかったと思うけど…」

 ──そ、それはいくら何でもクリスを疑いすぎじゃないかな?

 その考えは親友の僕だとしても看過できないよ。あのクリスの様子から打算的なものは一切見えない…あれがもし演技だっていうなら、アカデミー賞ものだよ!あのクリスの純粋な気持ちを思うと、そんなの酷いと思う…

 「乃恵留…もうこの世界が小説の中だという事を忘れたらどうだろう。だって、既にありとあらゆる事が変わってきてるんだ。小説と同じ世界じゃない!なのに君はまだそれに囚われているのか?クリスの想いをそんなふうに疑うなんて…いくら何でも酷くないかな?」

 僕は真剣に乃恵留を見つめてそう諭した。そうしないと、いつまで経っても乃恵留自身が幸せになれないよ。全てのことを疑う…僕の大切な親友にそんな人生を送ってほしくはない!
 そしてクリスが言っていたあの言葉…自分の想いは自分だけのもの!その通りだと思うから…

 乃恵留は、何かを言おうとして口を開きかけたが、僕の真剣な表情を見て言い淀んでしまっている。

 「乃恵留の気持ちも分かるよ?君の気持ちも理解出来るんだ…だけどこの辺で自由になるべきじゃないかな?今僕達はこの世界で生きてるんだから!」

 ──キィーッ、バン!!

 突然部屋の扉が開け放たれ、その勢いで壁に打ち付けられる。な、何だ?と大きな音に驚いて、反射的にバッと振り返ると…そこには目を真っ赤にして泣き腫らすクリスが立っていた。
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