17 / 54
17 忘れたい事は信じたくない事
しおりを挟む
「大学生のころはいろんな奴の部屋に泊ってたんだろう?じゃあ、慣れてるのか?いろんなことに?」
「もちろんです。大学生の部屋なんて狭いですから、キッチンでも廊下でも玄関でも寝れます。枕代わりに服を丸めて、タオルケット代わりにバスタオル掛けて。いろいろなパターンです。それで風邪もひかず。泊めてもらえるだけで助かってましたし。」
「いや、そういうことじゃなくて、もっと個人的な付き合いの事だよ。」
「個人的な?」
「彼氏とかいただろう?」
いくら酔っていても話したくない事はあるのに、というか話すこともないからだけど。
「言いたくないです。」
「そうか、てっきり慣れてないと思ってたら高田と鬼頭は変な顔をしたから。一応聞いてみただけだから。興味があったわけじゃないから、忘れてくれ。」
何だ何だ。高田さんも鬼頭君まで?皆で何を話したの?
『てっきり慣れてないと思った』だと~、勝手に想像しないでください。
「興味もないのに詮索なんてしないで、放っといてください。」
頭に来たからそう言って、話題を変えて問い詰めた。
「そういう近藤さんはどうなんですか?美人の彼女さんがいるって聞いてます。」
堂々と美人だと部下に言えるとは、照れはないのか?
「もう、一年以上になるって、高田さんも言ってました。」
「何で高田とそんな話題になるんだ?」
「何でと言われても、いろいろ聞かれたから聞き返したのに、何故か高田さん自身じゃなくて近藤さんの事を教えられたというか・・・。何故でしょう?」
「坂井さんもいましたけど。」
「いつ高田とそんな話をする暇がある?」
「ランチの時、ごくたまに一緒に食べてます。近藤さんがいないときが多いです。近藤さんがいないと寂しいんですかね。よく一緒に食べてますよね。」
変な顔をする。
「高田さんと一緒だと面白いし、楽しいです。あっという間に一時間過ぎちゃいます。」
無言で厳しい目をしている。
「もう、別に高田さんはいいんです。今は彼女です、彼女。写真ないんですか?堂々と美人だと褒めるなんて相当ですよね。」
「別に、美人は美人だ。」
「美人に『別に』はいりません。美男美女カップルですね。お似合いでしょうね。この部屋にはまったく存在のかけらも見当たりませんが。」
改めてキョロキョロする。一年も付き合ってるのに写真がないし、荷物もなさそう。
突然私を連れてきたのに隠したってこともないよね。
近藤さんの匂いも薄い位なのに。
「この部屋には連れてこない。泊ったこともない。そう言う意味ではお前が初めてだよ。」
「すみません、・・・・そういう人はいますよね。でも彼女さんは来たいんじゃないですか?」
だって部屋を見ればいろいろ分かる。
まして一年付き合って将来を考えるくらいになったら絶対知りたい。見たい。
「だからそんな関係の彼女じゃない。誘われて食事してホテルに行って別れるだけ。淡白な関係で、お前が想像してるような関係の彼女じゃない。」
は?
「どんな彼女かと聞かれたから美人だと言っただけだ。確かにきれいなんだ。顔も体も、問題ない。」
へ? 問題ないって思いっきり男の意見じゃないの?
恥ずかしげもなくそんなことを言う?
何を言ってる、この人?
恋人にこんな言われようって。私が悲しくなった。
彼女はそんな関係で大丈夫なの?それを望んでるの?
それとも、それでもいいと思えるほど好きとか?
「彼女はそれで満足なんですか?もっと違う関係じゃなくて。」つい聞いた。
「そんなのは聞いたことも聞かれたこともない。嫌だったら連絡はしてこないだろう。」
あっさりと言う近藤さん。こんな人だったの?
近藤さんが煽る様に残りのビールを飲み干した。
静かに飲んだビール缶をテーブルに置いた。
その手が揺らいで缶が倒れた。
中身は空だったのでこぼれることもなく。
フラッと立ち上がってゆらゆらした足取りで寝室に向かっって行った。
その背中をぼんやり見つめる。
さっきのは本音?それとも何かあってのそんな状況?
しばらく寝室の方を見ていたけど扉が開くことはなく。
ゆっくり近寄って耳をすます。物音がしない。
寝た?『お終い』もなく、『お休み』もなく、『寝よう』もなく。勝手に寝た?
飲みかけを飲んで、開いた袋を閉じて、歯磨きをして。
それでも寝室は静かなままで。
モヤモヤと嫌な思いを抱いたままソファに横になった。
理解不能な言動が頭の中で響く。
眠れそうにないと思ったのに勝手に思考停止を宣言して脳が先に寝た。
あの時、途中までは上司と部下の会話だった。
パジャマ代わりの部屋着にスッピンだったけど。
それなりに会話は普通だった。
あとは適当なプライベートな会話をしたりして。
会社で接するのとは違ってリラックスして笑顔も見られて。
それが最後のほうは無表情になり、投げやりな会話になったような。
あれは酔っぱらってたのだろうか?
次の朝目が覚めて、さりげなく言っていた。記憶がないと。
自分でもガッカリとして、ショックだったらしい。
初めてだと落ち込んでもいた。
後日、高田さんにも確認した。酔った姿は見たことがないと。
あれが酔った姿なのか、私には判別できない。
少し前まで見ていた上司の表情と笑顔とのギャップ、でも本音とも言えそうな救いようのない考え方。
同時に見せられて、それをどう考えればいいのか分からないまま。
次の日の朝起きて、コーヒーをご馳走になった。
いつまでもダラダラとしてる私に合わせて話をして、家族は大丈夫かと心配して、送ってくれて。
その前にテーブルの片づけから、布団の片づけまでやってくれていた。
冗談を言いながら話をして私は十分楽しめたのに。
分からないまま。
結局酔っていたのだろうと、思うことにした。
でももう、あんな一面は見たくない。
そんな考え方をする人だとは思いたくない。
でも私が考えることじゃない、判断することでもない、関係ない。
ただ仕事を一緒にしていく上司としては信頼できる。
それだけで必要十分。
だから忘れようと思った。
本人が忘れてるんだから、私も忘れようとした。
それでも、今夜は先に言った。
酔う前にお互いにやめましょう、その前にお開きにしましょうと。
「もちろんです。大学生の部屋なんて狭いですから、キッチンでも廊下でも玄関でも寝れます。枕代わりに服を丸めて、タオルケット代わりにバスタオル掛けて。いろいろなパターンです。それで風邪もひかず。泊めてもらえるだけで助かってましたし。」
「いや、そういうことじゃなくて、もっと個人的な付き合いの事だよ。」
「個人的な?」
「彼氏とかいただろう?」
いくら酔っていても話したくない事はあるのに、というか話すこともないからだけど。
「言いたくないです。」
「そうか、てっきり慣れてないと思ってたら高田と鬼頭は変な顔をしたから。一応聞いてみただけだから。興味があったわけじゃないから、忘れてくれ。」
何だ何だ。高田さんも鬼頭君まで?皆で何を話したの?
『てっきり慣れてないと思った』だと~、勝手に想像しないでください。
「興味もないのに詮索なんてしないで、放っといてください。」
頭に来たからそう言って、話題を変えて問い詰めた。
「そういう近藤さんはどうなんですか?美人の彼女さんがいるって聞いてます。」
堂々と美人だと部下に言えるとは、照れはないのか?
「もう、一年以上になるって、高田さんも言ってました。」
「何で高田とそんな話題になるんだ?」
「何でと言われても、いろいろ聞かれたから聞き返したのに、何故か高田さん自身じゃなくて近藤さんの事を教えられたというか・・・。何故でしょう?」
「坂井さんもいましたけど。」
「いつ高田とそんな話をする暇がある?」
「ランチの時、ごくたまに一緒に食べてます。近藤さんがいないときが多いです。近藤さんがいないと寂しいんですかね。よく一緒に食べてますよね。」
変な顔をする。
「高田さんと一緒だと面白いし、楽しいです。あっという間に一時間過ぎちゃいます。」
無言で厳しい目をしている。
「もう、別に高田さんはいいんです。今は彼女です、彼女。写真ないんですか?堂々と美人だと褒めるなんて相当ですよね。」
「別に、美人は美人だ。」
「美人に『別に』はいりません。美男美女カップルですね。お似合いでしょうね。この部屋にはまったく存在のかけらも見当たりませんが。」
改めてキョロキョロする。一年も付き合ってるのに写真がないし、荷物もなさそう。
突然私を連れてきたのに隠したってこともないよね。
近藤さんの匂いも薄い位なのに。
「この部屋には連れてこない。泊ったこともない。そう言う意味ではお前が初めてだよ。」
「すみません、・・・・そういう人はいますよね。でも彼女さんは来たいんじゃないですか?」
だって部屋を見ればいろいろ分かる。
まして一年付き合って将来を考えるくらいになったら絶対知りたい。見たい。
「だからそんな関係の彼女じゃない。誘われて食事してホテルに行って別れるだけ。淡白な関係で、お前が想像してるような関係の彼女じゃない。」
は?
「どんな彼女かと聞かれたから美人だと言っただけだ。確かにきれいなんだ。顔も体も、問題ない。」
へ? 問題ないって思いっきり男の意見じゃないの?
恥ずかしげもなくそんなことを言う?
何を言ってる、この人?
恋人にこんな言われようって。私が悲しくなった。
彼女はそんな関係で大丈夫なの?それを望んでるの?
それとも、それでもいいと思えるほど好きとか?
「彼女はそれで満足なんですか?もっと違う関係じゃなくて。」つい聞いた。
「そんなのは聞いたことも聞かれたこともない。嫌だったら連絡はしてこないだろう。」
あっさりと言う近藤さん。こんな人だったの?
近藤さんが煽る様に残りのビールを飲み干した。
静かに飲んだビール缶をテーブルに置いた。
その手が揺らいで缶が倒れた。
中身は空だったのでこぼれることもなく。
フラッと立ち上がってゆらゆらした足取りで寝室に向かっって行った。
その背中をぼんやり見つめる。
さっきのは本音?それとも何かあってのそんな状況?
しばらく寝室の方を見ていたけど扉が開くことはなく。
ゆっくり近寄って耳をすます。物音がしない。
寝た?『お終い』もなく、『お休み』もなく、『寝よう』もなく。勝手に寝た?
飲みかけを飲んで、開いた袋を閉じて、歯磨きをして。
それでも寝室は静かなままで。
モヤモヤと嫌な思いを抱いたままソファに横になった。
理解不能な言動が頭の中で響く。
眠れそうにないと思ったのに勝手に思考停止を宣言して脳が先に寝た。
あの時、途中までは上司と部下の会話だった。
パジャマ代わりの部屋着にスッピンだったけど。
それなりに会話は普通だった。
あとは適当なプライベートな会話をしたりして。
会社で接するのとは違ってリラックスして笑顔も見られて。
それが最後のほうは無表情になり、投げやりな会話になったような。
あれは酔っぱらってたのだろうか?
次の朝目が覚めて、さりげなく言っていた。記憶がないと。
自分でもガッカリとして、ショックだったらしい。
初めてだと落ち込んでもいた。
後日、高田さんにも確認した。酔った姿は見たことがないと。
あれが酔った姿なのか、私には判別できない。
少し前まで見ていた上司の表情と笑顔とのギャップ、でも本音とも言えそうな救いようのない考え方。
同時に見せられて、それをどう考えればいいのか分からないまま。
次の日の朝起きて、コーヒーをご馳走になった。
いつまでもダラダラとしてる私に合わせて話をして、家族は大丈夫かと心配して、送ってくれて。
その前にテーブルの片づけから、布団の片づけまでやってくれていた。
冗談を言いながら話をして私は十分楽しめたのに。
分からないまま。
結局酔っていたのだろうと、思うことにした。
でももう、あんな一面は見たくない。
そんな考え方をする人だとは思いたくない。
でも私が考えることじゃない、判断することでもない、関係ない。
ただ仕事を一緒にしていく上司としては信頼できる。
それだけで必要十分。
だから忘れようと思った。
本人が忘れてるんだから、私も忘れようとした。
それでも、今夜は先に言った。
酔う前にお互いにやめましょう、その前にお開きにしましょうと。
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる