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31 非常階段での出来事の続き ~萩原~
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有休がとれたとメールがあった。合わせて木曜日に有休を申請する。
「おう、萩原、代休でいいから。週末も忙しかったって聞いてるしな。ゆっくり休め。」
ありがたい。部長に手を合わせたい。
ゆっくり休む気はないですが、有効に使いますので。
席に戻る途中、南田が目くばせして席を離れる。
今でもその後姿に蹴りを入れたいくらいだが。
大人しくついていく、当然手ぶらで。
もちろんコーヒー代は出させよう、気のすむまでしばらく奢らせてやる。
「良かったな、元さやに戻れて。」
どの口が言うんだ。怒りを込めて睨む。
「ごめんってば。あんなにやつれたのは俺のせいも少しはあるんだよね。今度ゆっくり元気になる魔法でもかけてあげるからって伝えてくれる?」
「結構、不要。すっかり食欲も戻って元気になったし。」
「それはお前が昨日の夜に無理させたからじゃないのかよ、ごちそうさまです。」
違う!最初に無理したいと言ったのは琴の方だ、なんて教えてやるか。
思い出した。何で今まで忘れてたんだか、今ふっと思い出した。
「デザイン部の鈴木って男知ってるか?」
個人の名前が出るので声を潜める。
「ああ、何度か飲んだよ。何?」
「どんなやつ?」
「性格?能力?顔? まあ、普通レベル。特にすごい才能って話も聞かない。社内でもてるとか恋ネタの噂もないけど、営業も出来そうなくらいの社交性もあると思う。こっそり告白されてるかもしれない隠れモテキャラタイプ。これくらいでいい?」
思わず眉が上がる自分。
「で何で?何か気になるわけ?」
「琴が非常階段で泣いてるときに2回ほど世話になったらしい。」
一層声を潜める。
「それで?」南田も合わせてひそめる。
妖しくも怪しい雰囲気で顔を寄せ合う二人の出来上がりだが今はいい。
「個人のアドレスと番号付きの名刺をもらって、連絡が欲しいとか言われたらしい。」
「彼女がそう相談したんならいいんじゃない、断るでしょう?」
「いや、俺が偶然ポケットから落ちた名刺を見つけて問いただした。」
「あ~嫌だねえ~、余裕がないっていうかなんというか。疑う、そこ。」
「うぅ、まさかそこまで言われてるとは思わなかったんだ。当の琴は何ともはっきり言われたことが分かってないみたいだし。放っておくつもりらしい。」
「は、はぁ~ん、それでもモヤモヤする訳ねぇ。」
「誰のせいだと思ってる。」黙らせたくて睨んだ。
「様子見るしかないでしょう?それとも新しい噂で一気に片を付ける?」
「それは今はまだ駄目だ。さらし者になるし、略奪とか言われかねない。」
「ほほぉお、守るねぇ。」
「まあ、オプションだけど何とか考えておくから。」
「そうか?まあ、そっちは期待せずに待ってる。」
「任せろ。サービスだ。」
「あと、俺は木曜日に代休とるからよろしく。できればその間に噂を消してくれると助かる。」
「へぇ~、琴ちゃんも休みって言ってたけど・・・、そういうことね。」
ニンマリとした奴の顔に思わず胸ぐらをつかんで問いただした。
「お前、いつの間に彼女のところに行ったんだ?何しに行った?」
「手、手。もう、考えてみれば嘘だってわかるでしょう?俺まじめに仕事してたでしょう?『鎌をかける』ってやつです。仲直りの旅行とかうまいこと言って。ってぅうっ。」
「いつ聞いた?それ。」
「もうだから・・・鎌です。わかりやっす~い!浮気はできないねえ~、萩原君。」
どっと疲労感がのしかかる。
「俺も有給使おっかなあ~。」
のんびりと言いながら廊下を戻る南田。
しまった、コーヒーをおごってもらってない。
昼の時間にメールしておく。
「明日の夜から一泊の旅行でいい?どこがいい?房総とか箱根とか、伊豆くらいならいけるよね?」
「ワクワクです。伊豆は一回行ったことがあるけど、他は行ったことがないです。時間のかかり方とか見当がつかないのでお任せしてもいいですか?露天風呂あったらうれしいです。朝、一緒に散歩もしたいかも。」
「任せてくれるなら勝手に予約もするよ。楽しみにしてて。」
昼の時間に女性陣が立ち去った後、南田に相談する。
視界が開けると彼女が見える。
箱根の旅館を紹介され、なんと予約もしてくれた。
何度か行ってるから紹介枠とか言っていた。
平日だからか前日でも取れてラッキーだよと奴が言う。
そうかもしれない。
南田が「あれ」と言って顎で指し示すところに。
1人の男が琴と香さんと話している。
というか香さんはぼんやり見上げているだけで、琴がもっぱら相手している。
「あれが例のお尋ねの男だよ。はぁ、結構積極的に攻めるタイプなんだなあ、意外。」
ムムム・・・。
眉間に皺が寄る。
香さんがちらちらとこっちを見ている。
そういう視線をやられると余計に話の内容が気になる。
「はたから見るといい雰囲気だねえ?おわぁ。」
無神経な奴め、殴ってやった。
どうやらぼんやりとはしてられないようだ。
琴はどうするんだ。はっきり好きな人がいると言え!今!
笑顔で手を振り去っていくやつを見てると断られた様子もない。
どうやら今!とはいかなかったらしい。
香さんに話しかけられてこっちを見る彼女。
目をつり目にしたあと、こっそり携帯を振っておいた。
南田手配の箱根の情報を書き、ついでに明日説教すると宣言した。
スッキリしない。
モヤモヤを抱えつつも仕事をする。
とりあえず周りの探るような視線は落ち着いている。
ニュースバリューとして二日も持たないらしい。
自ら続報を流さない姿勢というのも一因と思いたい。
そういえば彼女が独り言で言っていた。
『噂になってることを誰も教えてくれないなんて・・・・興味を持って問い合わせてくる人もなく、問い合わせの嵐にもならず。それもこれもクールぶってるからだ』と。
そうなんだろうか?
面白がって聞きそうなあの南田だって結局1回からかいのメールをよこして、そのあと電話しても出ないとは。
人望という塊が小さくなって心に刺さる。
うっ、結構響いた、今更響いた。 痛い。
「おう、萩原、代休でいいから。週末も忙しかったって聞いてるしな。ゆっくり休め。」
ありがたい。部長に手を合わせたい。
ゆっくり休む気はないですが、有効に使いますので。
席に戻る途中、南田が目くばせして席を離れる。
今でもその後姿に蹴りを入れたいくらいだが。
大人しくついていく、当然手ぶらで。
もちろんコーヒー代は出させよう、気のすむまでしばらく奢らせてやる。
「良かったな、元さやに戻れて。」
どの口が言うんだ。怒りを込めて睨む。
「ごめんってば。あんなにやつれたのは俺のせいも少しはあるんだよね。今度ゆっくり元気になる魔法でもかけてあげるからって伝えてくれる?」
「結構、不要。すっかり食欲も戻って元気になったし。」
「それはお前が昨日の夜に無理させたからじゃないのかよ、ごちそうさまです。」
違う!最初に無理したいと言ったのは琴の方だ、なんて教えてやるか。
思い出した。何で今まで忘れてたんだか、今ふっと思い出した。
「デザイン部の鈴木って男知ってるか?」
個人の名前が出るので声を潜める。
「ああ、何度か飲んだよ。何?」
「どんなやつ?」
「性格?能力?顔? まあ、普通レベル。特にすごい才能って話も聞かない。社内でもてるとか恋ネタの噂もないけど、営業も出来そうなくらいの社交性もあると思う。こっそり告白されてるかもしれない隠れモテキャラタイプ。これくらいでいい?」
思わず眉が上がる自分。
「で何で?何か気になるわけ?」
「琴が非常階段で泣いてるときに2回ほど世話になったらしい。」
一層声を潜める。
「それで?」南田も合わせてひそめる。
妖しくも怪しい雰囲気で顔を寄せ合う二人の出来上がりだが今はいい。
「個人のアドレスと番号付きの名刺をもらって、連絡が欲しいとか言われたらしい。」
「彼女がそう相談したんならいいんじゃない、断るでしょう?」
「いや、俺が偶然ポケットから落ちた名刺を見つけて問いただした。」
「あ~嫌だねえ~、余裕がないっていうかなんというか。疑う、そこ。」
「うぅ、まさかそこまで言われてるとは思わなかったんだ。当の琴は何ともはっきり言われたことが分かってないみたいだし。放っておくつもりらしい。」
「は、はぁ~ん、それでもモヤモヤする訳ねぇ。」
「誰のせいだと思ってる。」黙らせたくて睨んだ。
「様子見るしかないでしょう?それとも新しい噂で一気に片を付ける?」
「それは今はまだ駄目だ。さらし者になるし、略奪とか言われかねない。」
「ほほぉお、守るねぇ。」
「まあ、オプションだけど何とか考えておくから。」
「そうか?まあ、そっちは期待せずに待ってる。」
「任せろ。サービスだ。」
「あと、俺は木曜日に代休とるからよろしく。できればその間に噂を消してくれると助かる。」
「へぇ~、琴ちゃんも休みって言ってたけど・・・、そういうことね。」
ニンマリとした奴の顔に思わず胸ぐらをつかんで問いただした。
「お前、いつの間に彼女のところに行ったんだ?何しに行った?」
「手、手。もう、考えてみれば嘘だってわかるでしょう?俺まじめに仕事してたでしょう?『鎌をかける』ってやつです。仲直りの旅行とかうまいこと言って。ってぅうっ。」
「いつ聞いた?それ。」
「もうだから・・・鎌です。わかりやっす~い!浮気はできないねえ~、萩原君。」
どっと疲労感がのしかかる。
「俺も有給使おっかなあ~。」
のんびりと言いながら廊下を戻る南田。
しまった、コーヒーをおごってもらってない。
昼の時間にメールしておく。
「明日の夜から一泊の旅行でいい?どこがいい?房総とか箱根とか、伊豆くらいならいけるよね?」
「ワクワクです。伊豆は一回行ったことがあるけど、他は行ったことがないです。時間のかかり方とか見当がつかないのでお任せしてもいいですか?露天風呂あったらうれしいです。朝、一緒に散歩もしたいかも。」
「任せてくれるなら勝手に予約もするよ。楽しみにしてて。」
昼の時間に女性陣が立ち去った後、南田に相談する。
視界が開けると彼女が見える。
箱根の旅館を紹介され、なんと予約もしてくれた。
何度か行ってるから紹介枠とか言っていた。
平日だからか前日でも取れてラッキーだよと奴が言う。
そうかもしれない。
南田が「あれ」と言って顎で指し示すところに。
1人の男が琴と香さんと話している。
というか香さんはぼんやり見上げているだけで、琴がもっぱら相手している。
「あれが例のお尋ねの男だよ。はぁ、結構積極的に攻めるタイプなんだなあ、意外。」
ムムム・・・。
眉間に皺が寄る。
香さんがちらちらとこっちを見ている。
そういう視線をやられると余計に話の内容が気になる。
「はたから見るといい雰囲気だねえ?おわぁ。」
無神経な奴め、殴ってやった。
どうやらぼんやりとはしてられないようだ。
琴はどうするんだ。はっきり好きな人がいると言え!今!
笑顔で手を振り去っていくやつを見てると断られた様子もない。
どうやら今!とはいかなかったらしい。
香さんに話しかけられてこっちを見る彼女。
目をつり目にしたあと、こっそり携帯を振っておいた。
南田手配の箱根の情報を書き、ついでに明日説教すると宣言した。
スッキリしない。
モヤモヤを抱えつつも仕事をする。
とりあえず周りの探るような視線は落ち着いている。
ニュースバリューとして二日も持たないらしい。
自ら続報を流さない姿勢というのも一因と思いたい。
そういえば彼女が独り言で言っていた。
『噂になってることを誰も教えてくれないなんて・・・・興味を持って問い合わせてくる人もなく、問い合わせの嵐にもならず。それもこれもクールぶってるからだ』と。
そうなんだろうか?
面白がって聞きそうなあの南田だって結局1回からかいのメールをよこして、そのあと電話しても出ないとは。
人望という塊が小さくなって心に刺さる。
うっ、結構響いた、今更響いた。 痛い。
応援ありがとうございます!
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