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5 二度目でも緊張は伝わってきて
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朝目が覚めて、よく寝たと思ったような、さっき寝たんじゃないかと思ったような。
昨日はとにかく猫の上下するお腹を見ながら、撫でながら、彼女の姿を思いながらまどろんだ気がする。
ただ何でだか思い出せるのは横顔ばかりで表情は今一つ見えてない。
そうなんだ。話をする時の視線はほとんど子猫に向いていた。
自分に向くことは本当に少なかった。
どうにかしてこっちを向いてほしくて。
でもこっちを見ると少し表情が硬くなるようで。
ちょっと悲しい。ジレンマ・・・。
とりあえず起きだして部屋の窓を開けて換気し、部屋の掃除をする。
コーヒーを淹れる。
箱を覗くとゆっくり顔をあげて鳴き声を聞かせてくる。
頭を撫でてゆっくり抱き上げる。
「おはよう、子猫。今日も来てくれるからな、麻美さん。」
「みゃ~。」
「うれしいか?お前も。俺も楽しみだ。おいしいご飯も買ってきてやるからな。」
箱に戻して朝ごはんを用意してやる。
とりあえず猫ミルク。
膝に乗せてミルクをあげる。
それなりに慣れてきた気がする。
「なかなかうまくなっただろう?どうだ、うまいか?」
勢いついて飲んでお腹がすぐにぽってりとしてきた。
「かわいいメタボじゃないか。」
くるくると撫でてやる。
そのままお尻トントンをしてやる。
さてトイレはどうやって、いつから。
紙に書き出す。『ご飯の事』『トイレの事』『手術の事』『病院の事』『運動の事』
名前・・・、あとどのくらい一緒にいるのか。
『子猫』と呼んでるけど、どうだろうか?
ぼんやりした状態ですっかり手元が忘れられていた。
「あ、ごめんな。」
まだ寝ていなかった子猫を撫でる。
ちょっとおろしてみたら思ったより歩いてるし、ヨタヨタと動く。
箱の中じゃ狭くてかわいそうだな。大きな箱を持ってくるか。
箱じゃダメか。囲い?柵?
これじゃあ早めに実家に連れて行った方がいいのか?
自分の周りでちょこちょこと歩いてる。
ちょっとだけぎこちないのが可愛い。
ゆっくりしてたけど何時だ?時計を見る。まだまだ昼までにはある。
ゆっくり立ち上がる。見上げる子猫。そのまま視界に入れて着替えをする。
遊び道具も買ってくるか。一緒に見てこよう。
待ちに待ったお昼。結局ずっと子猫の散歩を見てた気がする。
箱に戻して声をかける。
「じゃあ、行ってくるから。留守番よろしく。いろいろと楽しみにしてろよ。」
「みゃあ。」
箱の中で首を伸ばす子猫。
もう一度撫でて玄関へ向かう。
デート・・・・気分で。
待ち合わせの駅前の本屋へ。
ペット本のコーナーを見つける様に端の方から歩いていく。ゆっくり。
すぐに見つけた。それでもゆっくり近づく。
その横顔と立ち姿。わざと観察するようにゆっくりと。
でもさすがに視線が強かったのか、持ってる本から顔をあげ気づいた彼女。
一瞬緩みそうな顔はまた見慣れた無表情になる。
いつものスーツとは違う服。シンプルにジーンズにパーカー。
本当に普段着、彼との初デートには選ばないような・・・・・、普通は。
『がっかりするな。』と自分に言い聞かせる。
でもやっぱり魅力は少しも損なわれてない。
ゆるく束ねた髪が逆にリラックスしてるように見える・・・気がする。
ごくりと喉が鳴る。
こっちも緊張するのだ。いろいろと。
「お待たせ。」
「いえ、写真集見てましたので。」
のぞくと素人撮影の猫の写真。
いずれも無条件にかわいい猫の表情で。
それでもうちの子猫が一番と思う親ばかぶりを堂々と披露したくなる。
パタンと写真集を閉じて背伸びして本棚に戻す彼女の横から本を取り元に戻す。
「ありがとうございます。」
「ああ、別にこのくらい。じゃあ、行く?」
「はい。」
自分が先に立って本屋を出る。
先日行ったペットショップに今度は2人で。
あの時は急いでてよく見なかったけど、週末だけあって犬猫コーナーにはガラスの向こうのぬいぐるみのような犬猫をめがけて、子供も大人もへばりついている。
マイペースに遊ぶ犬猫。
時々指を追ってガラス越しに遊びに付き合ってくれるサービス精神旺盛な子もいる。
彼女と一緒に同じようにガラスにへばりつくように見ていく。
さり気なく、でもかなり近づいている二人。
子猫と子犬に夢中の彼女もとてもうれしそうだ。
かすかに見える表情は魅力的な笑顔だった。
そのままこっちを見てもらえたら今夜は楽しい夢が見れそうなのに。
「この子よりはまだまだ小さいよね。」
「そうですね。やっぱり二カ月だと随分しっかりしますね。」
「可愛いよね、今まで来たことはなかったけど。」
「やっぱりかわいいです。」
「あ~、短い間でもペットロスを起こしそう。」
ちらっと見上げられた表情はちょっと驚いた顔をしていた。
そうと分かるくらいに表情があった。
笑顔で笑いかけたが、ゆっくりと顔が仮面様に戻り正面を向かれてしまった。
がっかり。
なかなか・・・難しい。
最後のゲージまで一通り見て餌のコーナーに行く。
一カ月からの離乳食用の猫缶を買う。それなりのお値段だ。
出かけない分の飲み代をかけて、しっかり育ってもらわねば。
まったく飲みに行かなかったら実家にもお土産が買えるかもしれない。
一応好みもあるだろうからと少しだけ買い、猫皿と猫じゃらしを買う。
彼女が選んだ猫じゃらし。きっと気に入るだろう。
一緒に会計して外へ出る。
このまま来てくれるんだよな?
「食事、お昼は食べた?」
「・・・いいえ。」
「あの、一緒に猫の食事に付き合ってもらえるかな?猫じゃらしもせっかく選んでもらったし、まだ教えて欲しいこともあるから。」
理由を並べてお願いする。断りにくいだろう。
昨日猫には会いたいと言ってもらったし。
「はい。もちろんです。」
やや声は平たんだが嫌がられることはなく。
「じゃあ、お昼食べてから部屋に行こうか?」
軽く背中に触れてみたが、いきなり横にずれられてしまった。
過剰に反応されて手が浮いた状態で。
・・・・ええ~、そんなに?
心の中で何度目かの落胆のため息をつく。
諦めの悪い自分を見せつけられた気がした。
「あ、ごめんね、つい。」
『つい何だろう?』って思われるだろう言い訳をしてしまった。
「いえ。あの、何か買って昨日みたいに部屋の中でも大丈夫ですけど。」
「ああ、そうだね。どうしようか。お弁当屋さんか、ファーストフードか。パン屋もあるし、サンドイッチとか?」
「お弁当屋さんでいいですか?」
「もちろん。」
よくあるお弁当屋さんに行って注文し、出来上がりを待つ。サラダを少し、量り売りの物を買う。
「あの、昨日ごちそうになったので払います。」
「ああ、大丈夫だよ。」
「いえ、払わせてください。」
「・・・じゃあ、ごちそうになります。」
ここはひとつ笑顔でお礼を言って払ってもらうことにした。
軽くうなずいて会計をしてもらう。
今日は髪を結んでいるので耳がよく見える。
ちょっと赤くなっている。
表情には出ないけど恥ずかしい感じが出てるとみていいのだろうか?
シャイなのは事実だろう。
お弁当を持ってもらって、途中お酒を買う。
何故か彼女がいると思うと飲みたくなる。
酔わせたいという心の奥の何かを隠しきれないらしい。
誘うと彼女も自分の分を普通にかごに入れる。
部屋で昼からお酒を飲みながらゆっくり食事をする。いいじゃないか。
部屋では箱の中ですっかり眠ている子猫。
朝が遅かったからまだ満腹だろうと思い先に自分たちの食事をする。
お弁当とサラダを広げてもらう間お茶を入れる。
「デザート買って来ればよかったかな?」
「あ・・・そうですね。」
「週末なのにごめんね。」
「・・・・いえ、大丈夫です。あの、町野さんは?」
「もちろん大丈夫です。だからお酒も買いました。」
「時間があるならゆっくりして行ってください。あいつもその内起きるし。今朝少し放したらヨタヨタとしながらもあちこち歩き回ってて。それが可愛くて可愛くてずっと見てました。しばらく引きこもりになりそうです。」
そう言うと視線が合ったまま、彼女もかすかに笑顔になった気がした。
「いつもそんな感じの服装なの?」
「そんな・・・・?」彼女が自分の服を見る。
「初めてパンツスタイルを見たけど、とても似合ってるなあって。スカートよりパンツ派?」
「いえ・・・別に。両方着ます。普通です。」
「そうなんだ。」
見たい。女性らしいワンピース、大人っぽいシックな恰好。
でも、一番は柔らかい印象の服を着て柔らかく笑うところを。
「住んでるところが近くてびっくりしたなあ。よく今まで会わなかったよね。」
「はい。」
「電車とか、お店とか。会いそうだけど。」
「はい。」
「あの公園はいいね。窓から見えると季節感があっていいんじゃない?」
「はい。癒されます。」
彼女の返事がワンパターンだけどさほど気にならない。
やっぱりまだかなり緊張してるのはわかるし。
お弁当を食べ終えてお茶を飲み、勢いつけてアルコールを飲む。
「普通1人だと昼間から自宅で飲むことはないよ、一応言っておきます。」
「強いんですよね?鈴木さんとよく一緒に・・・・。」
彼女が見上げる様にこっちを見て言う。
「ああ、鈴木さんの相手は大変なんだ。実家が酒蔵とかいうことで小さい頃からお酒の薫陶を受けて育ったようなもので、なかなか手ごわい。」
小さくうなずいたようだ。
「酔うとどうなるタイプ?」
一気に表情が消えた。何かいけない思い出でも思い出させたか?
「あんまり・・・そんなに飲まないので。」
「歓迎会でも一人で結構飲んでたみたいだったから。もしかして鈴木さんと同じくらい強いとか?」
「それはないと思います。」
やはりどこか固い表情のまま。話題を変えよう。
「昨日はすごくぐっすり寝てたみたい。あんまり鳴かない子猫のようで声をかけると鳴くけど静かなほうかも。こんなものかな?」
彼女も子猫に視線をやる。
「個体によって違うので・・・・。」
「そうだよね。」
「起きるのが待ち遠しいよね?」
「・・・はい。」
そうだろうなあ。大分会話も慣れてもらえたとは思うが、ちょっと気づまりか?
なかなか難しい。質問ばかりでも変だし。
取りあえず空いたゴミなどを片付ける。
広いテーブルにお酒を乗せてゆっくり飲む。
至福。
これで本当はソファに並びで、もっと近くに座ったりしたいのだが。
猫を抱いたらさりげなくもっと近くに行こうなどと思ってたりして。
早く起きないかなぁ。
おい、起きろ~。心の中で呼んだ。
昨日はとにかく猫の上下するお腹を見ながら、撫でながら、彼女の姿を思いながらまどろんだ気がする。
ただ何でだか思い出せるのは横顔ばかりで表情は今一つ見えてない。
そうなんだ。話をする時の視線はほとんど子猫に向いていた。
自分に向くことは本当に少なかった。
どうにかしてこっちを向いてほしくて。
でもこっちを見ると少し表情が硬くなるようで。
ちょっと悲しい。ジレンマ・・・。
とりあえず起きだして部屋の窓を開けて換気し、部屋の掃除をする。
コーヒーを淹れる。
箱を覗くとゆっくり顔をあげて鳴き声を聞かせてくる。
頭を撫でてゆっくり抱き上げる。
「おはよう、子猫。今日も来てくれるからな、麻美さん。」
「みゃ~。」
「うれしいか?お前も。俺も楽しみだ。おいしいご飯も買ってきてやるからな。」
箱に戻して朝ごはんを用意してやる。
とりあえず猫ミルク。
膝に乗せてミルクをあげる。
それなりに慣れてきた気がする。
「なかなかうまくなっただろう?どうだ、うまいか?」
勢いついて飲んでお腹がすぐにぽってりとしてきた。
「かわいいメタボじゃないか。」
くるくると撫でてやる。
そのままお尻トントンをしてやる。
さてトイレはどうやって、いつから。
紙に書き出す。『ご飯の事』『トイレの事』『手術の事』『病院の事』『運動の事』
名前・・・、あとどのくらい一緒にいるのか。
『子猫』と呼んでるけど、どうだろうか?
ぼんやりした状態ですっかり手元が忘れられていた。
「あ、ごめんな。」
まだ寝ていなかった子猫を撫でる。
ちょっとおろしてみたら思ったより歩いてるし、ヨタヨタと動く。
箱の中じゃ狭くてかわいそうだな。大きな箱を持ってくるか。
箱じゃダメか。囲い?柵?
これじゃあ早めに実家に連れて行った方がいいのか?
自分の周りでちょこちょこと歩いてる。
ちょっとだけぎこちないのが可愛い。
ゆっくりしてたけど何時だ?時計を見る。まだまだ昼までにはある。
ゆっくり立ち上がる。見上げる子猫。そのまま視界に入れて着替えをする。
遊び道具も買ってくるか。一緒に見てこよう。
待ちに待ったお昼。結局ずっと子猫の散歩を見てた気がする。
箱に戻して声をかける。
「じゃあ、行ってくるから。留守番よろしく。いろいろと楽しみにしてろよ。」
「みゃあ。」
箱の中で首を伸ばす子猫。
もう一度撫でて玄関へ向かう。
デート・・・・気分で。
待ち合わせの駅前の本屋へ。
ペット本のコーナーを見つける様に端の方から歩いていく。ゆっくり。
すぐに見つけた。それでもゆっくり近づく。
その横顔と立ち姿。わざと観察するようにゆっくりと。
でもさすがに視線が強かったのか、持ってる本から顔をあげ気づいた彼女。
一瞬緩みそうな顔はまた見慣れた無表情になる。
いつものスーツとは違う服。シンプルにジーンズにパーカー。
本当に普段着、彼との初デートには選ばないような・・・・・、普通は。
『がっかりするな。』と自分に言い聞かせる。
でもやっぱり魅力は少しも損なわれてない。
ゆるく束ねた髪が逆にリラックスしてるように見える・・・気がする。
ごくりと喉が鳴る。
こっちも緊張するのだ。いろいろと。
「お待たせ。」
「いえ、写真集見てましたので。」
のぞくと素人撮影の猫の写真。
いずれも無条件にかわいい猫の表情で。
それでもうちの子猫が一番と思う親ばかぶりを堂々と披露したくなる。
パタンと写真集を閉じて背伸びして本棚に戻す彼女の横から本を取り元に戻す。
「ありがとうございます。」
「ああ、別にこのくらい。じゃあ、行く?」
「はい。」
自分が先に立って本屋を出る。
先日行ったペットショップに今度は2人で。
あの時は急いでてよく見なかったけど、週末だけあって犬猫コーナーにはガラスの向こうのぬいぐるみのような犬猫をめがけて、子供も大人もへばりついている。
マイペースに遊ぶ犬猫。
時々指を追ってガラス越しに遊びに付き合ってくれるサービス精神旺盛な子もいる。
彼女と一緒に同じようにガラスにへばりつくように見ていく。
さり気なく、でもかなり近づいている二人。
子猫と子犬に夢中の彼女もとてもうれしそうだ。
かすかに見える表情は魅力的な笑顔だった。
そのままこっちを見てもらえたら今夜は楽しい夢が見れそうなのに。
「この子よりはまだまだ小さいよね。」
「そうですね。やっぱり二カ月だと随分しっかりしますね。」
「可愛いよね、今まで来たことはなかったけど。」
「やっぱりかわいいです。」
「あ~、短い間でもペットロスを起こしそう。」
ちらっと見上げられた表情はちょっと驚いた顔をしていた。
そうと分かるくらいに表情があった。
笑顔で笑いかけたが、ゆっくりと顔が仮面様に戻り正面を向かれてしまった。
がっかり。
なかなか・・・難しい。
最後のゲージまで一通り見て餌のコーナーに行く。
一カ月からの離乳食用の猫缶を買う。それなりのお値段だ。
出かけない分の飲み代をかけて、しっかり育ってもらわねば。
まったく飲みに行かなかったら実家にもお土産が買えるかもしれない。
一応好みもあるだろうからと少しだけ買い、猫皿と猫じゃらしを買う。
彼女が選んだ猫じゃらし。きっと気に入るだろう。
一緒に会計して外へ出る。
このまま来てくれるんだよな?
「食事、お昼は食べた?」
「・・・いいえ。」
「あの、一緒に猫の食事に付き合ってもらえるかな?猫じゃらしもせっかく選んでもらったし、まだ教えて欲しいこともあるから。」
理由を並べてお願いする。断りにくいだろう。
昨日猫には会いたいと言ってもらったし。
「はい。もちろんです。」
やや声は平たんだが嫌がられることはなく。
「じゃあ、お昼食べてから部屋に行こうか?」
軽く背中に触れてみたが、いきなり横にずれられてしまった。
過剰に反応されて手が浮いた状態で。
・・・・ええ~、そんなに?
心の中で何度目かの落胆のため息をつく。
諦めの悪い自分を見せつけられた気がした。
「あ、ごめんね、つい。」
『つい何だろう?』って思われるだろう言い訳をしてしまった。
「いえ。あの、何か買って昨日みたいに部屋の中でも大丈夫ですけど。」
「ああ、そうだね。どうしようか。お弁当屋さんか、ファーストフードか。パン屋もあるし、サンドイッチとか?」
「お弁当屋さんでいいですか?」
「もちろん。」
よくあるお弁当屋さんに行って注文し、出来上がりを待つ。サラダを少し、量り売りの物を買う。
「あの、昨日ごちそうになったので払います。」
「ああ、大丈夫だよ。」
「いえ、払わせてください。」
「・・・じゃあ、ごちそうになります。」
ここはひとつ笑顔でお礼を言って払ってもらうことにした。
軽くうなずいて会計をしてもらう。
今日は髪を結んでいるので耳がよく見える。
ちょっと赤くなっている。
表情には出ないけど恥ずかしい感じが出てるとみていいのだろうか?
シャイなのは事実だろう。
お弁当を持ってもらって、途中お酒を買う。
何故か彼女がいると思うと飲みたくなる。
酔わせたいという心の奥の何かを隠しきれないらしい。
誘うと彼女も自分の分を普通にかごに入れる。
部屋で昼からお酒を飲みながらゆっくり食事をする。いいじゃないか。
部屋では箱の中ですっかり眠ている子猫。
朝が遅かったからまだ満腹だろうと思い先に自分たちの食事をする。
お弁当とサラダを広げてもらう間お茶を入れる。
「デザート買って来ればよかったかな?」
「あ・・・そうですね。」
「週末なのにごめんね。」
「・・・・いえ、大丈夫です。あの、町野さんは?」
「もちろん大丈夫です。だからお酒も買いました。」
「時間があるならゆっくりして行ってください。あいつもその内起きるし。今朝少し放したらヨタヨタとしながらもあちこち歩き回ってて。それが可愛くて可愛くてずっと見てました。しばらく引きこもりになりそうです。」
そう言うと視線が合ったまま、彼女もかすかに笑顔になった気がした。
「いつもそんな感じの服装なの?」
「そんな・・・・?」彼女が自分の服を見る。
「初めてパンツスタイルを見たけど、とても似合ってるなあって。スカートよりパンツ派?」
「いえ・・・別に。両方着ます。普通です。」
「そうなんだ。」
見たい。女性らしいワンピース、大人っぽいシックな恰好。
でも、一番は柔らかい印象の服を着て柔らかく笑うところを。
「住んでるところが近くてびっくりしたなあ。よく今まで会わなかったよね。」
「はい。」
「電車とか、お店とか。会いそうだけど。」
「はい。」
「あの公園はいいね。窓から見えると季節感があっていいんじゃない?」
「はい。癒されます。」
彼女の返事がワンパターンだけどさほど気にならない。
やっぱりまだかなり緊張してるのはわかるし。
お弁当を食べ終えてお茶を飲み、勢いつけてアルコールを飲む。
「普通1人だと昼間から自宅で飲むことはないよ、一応言っておきます。」
「強いんですよね?鈴木さんとよく一緒に・・・・。」
彼女が見上げる様にこっちを見て言う。
「ああ、鈴木さんの相手は大変なんだ。実家が酒蔵とかいうことで小さい頃からお酒の薫陶を受けて育ったようなもので、なかなか手ごわい。」
小さくうなずいたようだ。
「酔うとどうなるタイプ?」
一気に表情が消えた。何かいけない思い出でも思い出させたか?
「あんまり・・・そんなに飲まないので。」
「歓迎会でも一人で結構飲んでたみたいだったから。もしかして鈴木さんと同じくらい強いとか?」
「それはないと思います。」
やはりどこか固い表情のまま。話題を変えよう。
「昨日はすごくぐっすり寝てたみたい。あんまり鳴かない子猫のようで声をかけると鳴くけど静かなほうかも。こんなものかな?」
彼女も子猫に視線をやる。
「個体によって違うので・・・・。」
「そうだよね。」
「起きるのが待ち遠しいよね?」
「・・・はい。」
そうだろうなあ。大分会話も慣れてもらえたとは思うが、ちょっと気づまりか?
なかなか難しい。質問ばかりでも変だし。
取りあえず空いたゴミなどを片付ける。
広いテーブルにお酒を乗せてゆっくり飲む。
至福。
これで本当はソファに並びで、もっと近くに座ったりしたいのだが。
猫を抱いたらさりげなくもっと近くに行こうなどと思ってたりして。
早く起きないかなぁ。
おい、起きろ~。心の中で呼んだ。
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