そこは獣人たちの世界

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第三章

他の受験者

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森の前に転移してきて、改めて周りを見ると60人くらいの受験者がいるみたいだ。ギルドだと他の人も多くてわかりづらかったけど、30日に1回とはいえこの人数か。

「さぁ、Cランク昇格試験開始だ!もし森から出た場合は失格となるので注意するように。」

その合図と同時にほとんどの人が入るように森にと入っていく。でも僕は魔素感知をしっかり使って魔物の気配がないかを確認してゆっくりと歩いてはいる。僕以外にも歩いて入っていく人たちもちらほらといる。その中には青い毛並みの狼種の人もいたな。
森にと入ると日の光が全然差し込んでこなくて結構暗い。これだと説明の時に見た緑のフードを被られてると目視ではかなり見つけるのは難しいだろう。魔素感知もどこまで通用するのか。本気で隠そうとしてたら教官の人たちは探せないんだろうな。
と、さっそく魔物の気配が、剣を構えながら気配のある方にと歩み寄る。茶色の体にまだらな斑点の黒と、その名前の特徴でもあるいびつな角を持つディストーデットホーンディアー。こちらには気づいているけど、下手にこちらから仕掛けなければ襲ってくる相手ではない。少しにらみ合ってたけど森の奥にと逃げていったので剣をしまう。
食料を持ってきてない人たちはあぁいう魔物を倒さないといけないんだろうな。戦闘が増えれば食料を得れても疲労が増える。教官との試験戦闘に疲労を残したくはないし、僕は食料だけなら十二分に用意してる。避けられる戦闘は避けるべきだろう。
さて、一応は教官探しの続きだな。といっても一日目、二日目はあの説明された緑のフードと金のリングの人は配置されていないんだろう。ガロがどれだけ探してもいなかったっていてったし。それでも他の似た格好をしているだろう試験官を探すのはおそらくそこも含めた試験だからだ。感知には引っかかってないけど、どこかから行動を見られてるかもしれない。
しばらく森を魔素感知を広げながら進む。魔物の気配を何度か感じるけどさっき見た歪角鹿いびつつのしかに似た気配ばかりなのであえて近寄ることもない。一度目視したから大きさは多少違くてもわかる。
おっと、人の気配。もしかして試験官か?いや、向こうも近づいてきてる?一応剣を構えつつこちらに向かってくる気配に僕も向っていくと、試験前からちょっと気になっていた青い毛並みの狼種の人だった。向こうもレイピアみたいな剣を構えていたけど、僕を見るとすぐに剣をしまい込んだ。僕も剣を鞘に納める。

「君だったのか。確か雷剣の連れだったね。」

「知ってるんですか?」

「有名だからね。」

まぁそりゃそっか、ガロとずっと一緒に居たら目につくよね。王都にも結構長居してるし、ギルドだってよく通ってた。うわさになってるだろうし、直接見たことだってあるかもしれない。僕のほうは、相手を知らないわけだけど。
声の感じからして女性のようだ。胸はふくらみがないし、もしかしかしたら複乳タイプの人なのかも。まぁそれはどうでもいいか。あんまりからんでても仕方ない。教官探しに戻らないと。

「試験官でなくてお互い残念でしたね。ではこれにて。」

「あぁ、待って待って。大丈夫、このくらいの会話は情報共有として認められてるよ。」

「え?そうなんですか?」

「まぁ、何せ五回目だからね。」

軽く肩をすくめて見せたけど、五度目ってことは四回は落ちてるってことだよね?ほんとに話してて大丈夫なんだろうか?

「あの、それならなおのこと話してていいんですか?」

「君は知らないかもしれないけど、三日目までは対象の試験官が配置されていないからね。全く、意地悪な試験だよ。」

ガロから聞いてたからそうかもと思ってたのが確信に変わったくらいだけど、まさか教えてくれるとは思わなくてちょっと驚く。

「そ、そうなんですか。」

「そうそう、あたいも前回参加してやっと気づいたんだけどね。もっともだからって犯人探しをしないわけじゃないよ?でもちょっとくらいこうやっておしゃべりしたいし。」

「は、はぁ。」

僕としては今すぐ教官探しをしたいけど、どうやら開放してくれないようだ。ちょっと困ったけど、しょうがない。向こうだって試験だ。ある程度したら満足して離れてくれるだろう。

「あ、そうだ。名前聞いてなかった。先に自己紹介。あたいはデミルっていうんだ。君は?」

「えっと、キオです。」

「キオ君ね。覚えたよ。ところで、そのポーチはマジックポーチなんだよね?」

「え?はい、そうですけど。」

「あぁやっぱり。そうだよね、あの雷剣がただのポーチひとつでパートナーをこの昇格試験に送り出すとは思えないし。あたいは初めての時、転移前の鳥種のように用意不足で棄権したんだよ。」

「そうなんですか。」

もしかして五日間のサバイバルと聞いてなくて準備不足と感じて棄権する人は多いんだろうか?この試験の教官をすぐ捕まえられるだろうと高をくくり準備不足でも突っ込む人もいるんだろうけど。

「マジックポーチを買うのも結構お金が必要で、二回目はリュックだったけど、失敗だったね。重くて森を犯人探してずっと移動なんてできやしない。見つけてもリュック重くて逃げられちゃうし。」

「それは、そうでしょうね。」

つまり今回リュックで参加してる人は大体落ちるだろうってことだよね。この人と同じ道をたどってるんじゃないだろうか?それかリュックでも平気なくらい魔素纏いで身体強化できるとかかも。

「そして三回目はこの森のすごく奥に入りすぎちゃったみたいでビッグフォレストベアに遭遇しちゃって棄権、生きてただけよかったと思うよ。教官がすぐ助けてくれたからね。」

「そんな魔物もいるんですか。」

確かビッグフォレストベアはホワイトグレータータイガーよりちょっと楽かどうかって相手だったはずだ。個体によってはかなり危険度がある。危険度の低い魔物しかいないって言ってなかったっけ?もしかしてそこまで奥に入るのが間違いってこと?わからないな。
でもおそらくすぐに教官が助けてくれたってことはどこかからずっと見られていたんだろう。今も僕たちは見られてるのか、試験範囲外に出たか、出てしまいそうだったかのデミルさんを見ていたのか、わからないけど。

「あ!多分あそこらへんは犯人役の教官も少なかったし、思ってる以上にこっち側に来ていたなって助けてくれた人が言ってたから範囲外ぎりぎりだったのかも?」

「そうですか。」

「はぁ、話せてすっきりしたよ!キオ君も森の奥にはいきすぎないように注意するといいよ。」

「はい、ありがとうございます。」

「それじゃああたいは行くね!」

「えぇ、では。」

なんか話したいことだけ話して去っていってしまった。なんだったんだろう?まぁいっか。デミルさんがきたほうには教官はいない、かな?ちょっとずれるように歩いてみるか。
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