【完結済】婚約者である王子様に騙され、汚妃と馬鹿にされて捨てられた私ですが、侯爵家の当主様に偽物の婚約者として迎え入れられて幸せになります

ゆうき

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第二十四話 愚か者への制裁

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「セーラ!」

 私を呼び止めるヴォルフ様の声に一切耳を傾けず、私はじっとお父さんの事を見つめる。そんなお父さんは、一瞬だけ驚いていたけど、すぐに忌々しそうな目で私を睨んだ。

「何だお前、まだいたのか……しかもこんな所に何をしに来た?」
「お父さんを追いかけて来たんだよ! お母さんだけじゃなくて、ミナ様まで裏切るなんて……!」
「一々うるさい奴だ。俺が何しようと、お前には関係ないだろう? さっさと家に帰って看病でもしてろ」

 ……嘘でしょ? お父さんは、お母さんが亡くなった事を知らない? そんなはずはない、私は何度もお父さんに手紙を送っていて、その中に確かに書いたはずなのに。

「お母さんは、とっくの昔に亡くなったよ。手紙に……書いたよね?」
「手紙……ああ、そういえばお前から何度も送られてきたな。読まずに捨てたから知らなかった」

 ふんっと鼻で笑うお父さんの姿は、もう私の知っている優しくて真面目なお父さんじゃなかった。完全に変わり果てた……ううん、本性を現した悪魔そのものだ。

 私はそれが許せなくて……頭が真っ白になって。お父さんに飛び掛かろうとしてしまった。

 しかし、そうなる事は無かった。私が動く前に、ヴォルフ様が飛び出し、私を後ろから抱きしめる形で止めてくれたから。

「放してください! あの人は……絶対に許せないの! お願い、放してぇ!!」
「黙って聞いてりゃ、いい気になってんじゃねえよ! お前に何がわかる? あんな見た目だけのハズレ女と結婚して、お前まで生まれちまったせいで、仕方なく薬代とお前の養育費を稼ぐ為に、毎日真面目ぶって働くのが、どれだけ大変だったと思っている!」

 まるで今までの鬱憤を晴らすように、お父さんは腕を大きく振って感情を爆発させる。

「炭鉱での仕事も、死ぬほどきつかった! そんな中、ミナに声をかけられた時、俺は金と地位を手に入れられるチャンスと思った! お前らのような人生の足手まといを捨てようと決心し、新しい人生を始められた! なのに、何故邪魔をする! お前のような汚い娘なんて、俺にはもう不要なんだよ!!」

 わかっていた。もうお父さんにとって、私は邪魔な存在だと。でも、それを改めて言葉として突き付けられると……あまりにも辛すぎて、涙が止まらない。

 そんな私の前に、ヴォルフ様がスッと静かに立った。

「レイジ殿は随分と面白い事を仰るお方だ。悲劇のヒーローを気取っているのかは知りませんが、所詮は全てただの身勝手で、最低な裏切り行為をしただけだ。そんなあなたを、僕は絶対に許さない」
「お前、この間もセーラの隣にいたが……誰なんだ?」
「あなたに名乗る名など持ち合わせておりません。エリカ」
「かしこまりました」

 ヴォルフ様が合図を出すと、ずっとお父さんの隣で静かにしていたエリカさんが、自分よりも体格が良いお父さんを一瞬で投げ飛ばし、地面に叩きつけてしまった。

「がはっ……! な、お前……いきなり何しやがる!」
「その汚い口を、今すぐ閉じなさい、外道め」

 倒しただけにはとどまらず、エリカさんはお父さんが動けないように、背中に腕を回させて、それを強く押さえつけた。

 今までなら、お父さんに酷い事をしないでって言っていたと思うけど、もうそんな気持ちは一切湧きあがってこない。

「こんな事をして、タダで済むと思っているのか? 俺は男爵家の娘の恋人なんだぞ!」
「ええ、存じております。しかし、彼女はあなたの味方になってくれるでしょうか?」

 一切感情を感じさせない、冷たい言い方でそう言ったヴォルフ様の言葉を合図に、隠れていたミナ様達が出てきた。

「な、ミナにお義父さん……それに、なんで炭鉱の連中まで!?」
「貴様に父と呼ばれる筋合いはない! ふざけた真似をしおって……ミナを愚弄した罪として、お前を炭鉱の仕事から解雇させてもらう!」
「は……?」
「ええ、そうですわねお父様。本当……心底呆れ、失望しました。あなたとは別れさせてもらいます」
「真面目だと思ってたのに、酷すぎて反吐が出るぜ。お前、もうこの炭鉱に居場所はねえよ」

 各々が違う言葉で心境を吐露しながらも、お父さんを見る目は、全員が蔑んだ目だった。

 これが、今回決行した作戦だ。決定的にミナ様を裏切った所を、ミナ様とミニエーラ家の当主様、そして炭鉱の人達に見せて更に他の人に広め、お父さんから全てを奪うという内容だ。

「もう二度と我々の前に現れるな! 皆の衆、奴を連れて行け!」
「うっす!」
「おいふざけんな! 俺を誰だと思ってやがる! セーラ、早く俺を助けろ!」
「……こんな時だけ、調子が良い事を言わないで。もう……あなたは父親じゃない。私の家族は……世界でたった一人。大好きなお母さんだけだから」

 もう顔も見たくない。そう思った私は、お父さんに背を向けてその場を後にした。それに続いて、ヴォルフ様達も私の所に来てくれた。

 勝手に一人で来ちゃったけど、一人でいたら悲しみと怒りに押しつぶされてしまいそうだったから……来てくれて嬉しい。

「ありがとうございます、ヴォルフ様。あなたのおかげで、私はレイジさんの本性を見抜く事が出来ましたわ」
「いえ、お気になさらず。セーラ、大丈夫かい?」
「ヴォルフ様……私……わた、し……」

 心配そうに私を真っ直ぐ見つめながら、私の手を取ってくれたヴォルフ様の姿を見ていたら、勝手に涙が溢れてきてしまった。

 こんな所で泣いちゃ駄目だよ、私。泣いたら……また余計な心配をかけてしまう。ただでさえ厄介毎に巻き込んで迷惑をかけたんだから、これ以上は駄目だ。

「うぅ……あっ……これは、その……」
「我慢する必要は無い。悲しかったら、素直に泣いて良いんだよ」
「ぐすっ……あぁぁぁぁぁ!!!!」

 ヴォルフ様の優しい言葉で限界を迎えた私は、ヴォルフ様の胸に寄りかかるように倒れると、そのまま大声で泣き叫んだ。

 泣いてても意味はない。皆さんを困らせるだけだ。それがわかっていても……もう私には……どうする事もできなかったの……。
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