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61.恋人の色
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最初の街を出て、進むこと三週間。
サウスフォード王国の王都に着いた。
途中の街は小さめだったけど、親切な宿屋の女将さんに美味しいご飯をいただいたり、綺麗な花畑を見たりと、楽しい旅路だった。
「あら?あれって・・・」
王都の宝飾品から出てくる二人組の、男性の方に見覚えがあった。
挨拶程度しか交わしたことはないし、それも相当以前のことだけど、間違いないだろう。
少し離れた位置にいる、護衛の彼にも見覚えがあったから。
「サウスフォードの王太子殿下、ですね」
「やっぱり、そうよね」
私はかつてマデリーン王国の王太子殿下の婚約者だったから、他国の王族との交流もあった。
当然その場には、王族の護衛も控えていたし、リュカも私の護衛として控えていた。
だから覚えていたのだろう。
「あの方、婚約者が変わられたのかしら」
サウスフォード王国の王太子殿下は、私がお会いした時はアンブレラ王国の第五王女殿下と婚約していた。
そして現在、王太子殿下の隣にいるのはアンブレラ王国の王女殿下ではない。
「・・・私には関係ないことね。行きましょ、リュカ」
王太子殿下の婚約者だった頃ならともかく、ただの他国の公爵令嬢には関係ないことだ。
鉢合わせしないように、手前の小物店に入った。
「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ」
手頃な値段の、髪飾りやハンカチなどの小物が並んでいる。
「あ。これ、素敵」
値段から見たらガラス玉だろうけど、カラフルな小さな石で薔薇の形が作られていて白のレースが飾られている。
「その髪飾りとお揃いのブローチもあります。石は屑石なのですけど、一応は本物の鉱石なのでちょっとお値段がするのですけど」
あら。ガラス玉ではなかったのね。
貴族が使う宝石にならない大きさの石は屑石と呼ばれるのだけど、それを上手く使っていると思う。
一般的な平民が買うには少し高いけど、買えない値段ではないだろう。
「彼氏さんのお色を纏うなら、こちらに黒のリボンのもありますよ」
彼氏さん?
彼氏の色が黒ということは・・・
隣に立つリュカを見上げる。
黒髪黒目のリュカ。
「そ、そうね。じゃあ、そちらの黒の髪飾りをいただけるかしら」
「ありがとうございます。すぐに付けられますか?」
「え、ええ。そうするわ」
「じゃあ、はい!彼氏さん。彼女さんに付けてあげて下さい」
店員さんに悪気はない。
私たちは手を繋いだ状態で店に入ったし、平民には見えないだろうけど、貴族令嬢と護衛の距離ではない。
「リュカ、付けて」
リュカに背中を向けると、リュカは戸惑ったまま髪飾りを受け取り、私の髪に留めてくれた。
サウスフォード王国の王都に着いた。
途中の街は小さめだったけど、親切な宿屋の女将さんに美味しいご飯をいただいたり、綺麗な花畑を見たりと、楽しい旅路だった。
「あら?あれって・・・」
王都の宝飾品から出てくる二人組の、男性の方に見覚えがあった。
挨拶程度しか交わしたことはないし、それも相当以前のことだけど、間違いないだろう。
少し離れた位置にいる、護衛の彼にも見覚えがあったから。
「サウスフォードの王太子殿下、ですね」
「やっぱり、そうよね」
私はかつてマデリーン王国の王太子殿下の婚約者だったから、他国の王族との交流もあった。
当然その場には、王族の護衛も控えていたし、リュカも私の護衛として控えていた。
だから覚えていたのだろう。
「あの方、婚約者が変わられたのかしら」
サウスフォード王国の王太子殿下は、私がお会いした時はアンブレラ王国の第五王女殿下と婚約していた。
そして現在、王太子殿下の隣にいるのはアンブレラ王国の王女殿下ではない。
「・・・私には関係ないことね。行きましょ、リュカ」
王太子殿下の婚約者だった頃ならともかく、ただの他国の公爵令嬢には関係ないことだ。
鉢合わせしないように、手前の小物店に入った。
「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ」
手頃な値段の、髪飾りやハンカチなどの小物が並んでいる。
「あ。これ、素敵」
値段から見たらガラス玉だろうけど、カラフルな小さな石で薔薇の形が作られていて白のレースが飾られている。
「その髪飾りとお揃いのブローチもあります。石は屑石なのですけど、一応は本物の鉱石なのでちょっとお値段がするのですけど」
あら。ガラス玉ではなかったのね。
貴族が使う宝石にならない大きさの石は屑石と呼ばれるのだけど、それを上手く使っていると思う。
一般的な平民が買うには少し高いけど、買えない値段ではないだろう。
「彼氏さんのお色を纏うなら、こちらに黒のリボンのもありますよ」
彼氏さん?
彼氏の色が黒ということは・・・
隣に立つリュカを見上げる。
黒髪黒目のリュカ。
「そ、そうね。じゃあ、そちらの黒の髪飾りをいただけるかしら」
「ありがとうございます。すぐに付けられますか?」
「え、ええ。そうするわ」
「じゃあ、はい!彼氏さん。彼女さんに付けてあげて下さい」
店員さんに悪気はない。
私たちは手を繋いだ状態で店に入ったし、平民には見えないだろうけど、貴族令嬢と護衛の距離ではない。
「リュカ、付けて」
リュカに背中を向けると、リュカは戸惑ったまま髪飾りを受け取り、私の髪に留めてくれた。
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