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10歳

83ページ:すべてを失った

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 ロイおじ様に、直接的な罰は与えられなかった。

 お母様は最後まで、そのことに苦言を呈されていたけど、私の「私の力を知られたくない」という言葉に、渋々だけど頷かれた。

 ロイおじ様の目的は、私の力をこの国のために使うこと。
 それは多分、出会った時から変わってないと思う。

 だから、私の力を知られてしまえば、それはおじ様の勝ちになってしまう。

 ロイおじ様は、決して悪人ではない。
身内だからというわけではない。あの人は、なんていうか『国のため』ということに振り切っている気がする。

 だから国のためになら、罪を犯すことも、自分がそれこそ死ぬことも気にしないだろう。

 私は別に、国のために力を貸すことが嫌なわけではない。

 ただ、国の犠牲になるつもりもない。
私が大切で、守らなければならないのは、お父様とお母様だ。

 もしも、国王となったアル兄様が、私に国のために力を貸して欲しいと頼んできたなら、私は力を貸すだろう。

 だけど、強要してきたり、力を貸すことにお父様やお母様が顔を顰められるようなら、私は拒否するに違いない。

 ロイおじ様にとって大切なのがこの国であるのと同じように、私にとって大切なのは、お父様とお母様なのだ。

 ロイおじ様は、光の精霊王であるレディアントからの加護を失った。

 聖の精霊の加護も受けていたらしく、セイクレッドがその加護も打ち切ると言っていたんだけど、それはやめさせた。

 いや。セイクレッドは、絶対に許せないと言って、加護を与えている精霊を呼び出そうとしてたんだけど、加護を打ち切らせた場合、私もセイクレッドを2度と呼ばないと言ったら、泣かれた。

 それは、もう、あのお綺麗な顔を絶望感でいっぱいにして、ものすごく泣かれた。しかも、土下座付きで。

 相手が精霊王でなくても、年上の女性を土下座させている状態に、まるで極悪な魔王みたいだと我ながら感心した。

 罪悪感も、居心地の悪さも感じてないことに、自分の性格の悪さを痛感する。

 ロイおじ様はあれでも教会のトップ、教皇である。
 もしも、聖の精霊の加護も失えば、癒しの魔法なども使えなくなる。

 そうなれば、ロイおじ様はその地位も力もそれから生きる糧も失うのではないか。

 私は別に、ロイおじ様を嫌いなわけではない。
 いうなればアル兄様と同じだ。

 家族としての親交はいいけれど、それ以上を望まれても了承出来ない、というだけである。

 だから、おじ様から何もかも奪おうとは思ってはいなかった。

 それに、おじ様がいなくなることで、教会内が混乱することも危惧していた。

 だけど。

 ロイおじ様は突然、教皇の座を下りて、私たちの前から消えてしまった。

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