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お兄様の過去

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 お兄様がヤケになってるとは思わないけど、幸せになってはいけないと思ってる気がした。

 確かにお願いしたのは私だけど、お兄様に不幸になって欲しくない。

 タチアナと結婚したら不幸みたいに言うのは悪いけど、今みたいな言動をされたらセニヨン公爵家の恥になるわ。

「僕は、誰も愛するつもりはない。だけど、妻になったのに愛されないなんてかわいそうだろう?でも、問題ある令嬢ならそういう扱いをしても罪悪感がなくていいかな、と思ったんだよ」

「お兄様・・・それでも、私はお兄様を幸せにしてくださる方と結婚していただきたいです」

「なら、ローズが僕の妻になるかい?」

「私が・・・ですか?」

 確かに私は、クリストフお兄様とは血が繋がっていないから、結婚できるけれど。

「冗談だよ。ローズが僕に幸せになって欲しいというのと同じように、僕もローズには幸せになって欲しいからね」

「お兄様」

 クリストフお兄様が、誰も愛さないというのには、理由がある。

 お兄様は、幼馴染だったあるご令嬢のことをとても、とても、想われていた。

 でもそのご令嬢は、事故で亡くなった。

 今から十年も前のことだ。

 お兄様はずっと、そのご令嬢のことを忘れられずにいる。

 その事故は、お兄様を助けたことで起きた事故だった。

 その日、五歳だったお兄様はそのご令嬢一家と買い物に出かけていた。

 当時、先代のセニヨン公爵に恨みを持つ人間がいて、お兄様を誘拐しようとしていたらしい。

 それに気付いたご令嬢一家は、入ったお店でご令嬢とお兄様の洋服を交換して、お兄様にお店に隠れているように言って、馬車に乗り込んだ。

 執拗な追手から逃げるためにスピードを出した馬車は、町外れまで逃げて、崖から落ちてしまった。

 犯人は捕まったけど、お兄様は事実を知って狂ったように泣き叫んだそうよ。

 お兄様はその日からずっと、ご自分を責めていらっしゃるんだわ。

 五歳の子供にできたことなんてなかったと思う。

 お兄様が誘拐されていたら、もしかしたら殺されていたかもしれない。

 そのご令嬢一家には悪いけど、お兄様が無事で良かったと思う。

 他人が忘れろと言って、忘れられるものではないのだろう。

 だけど、お兄様はセニヨン公爵家の嫡子だから、いずれは結婚しなくてはいけない。

 政略結婚だと思えば、タチアナでも大丈夫なの?

 お祖母様が矯正すると言ってるし。

 でも、になったのなら、夫であるお兄様に愛されないなんて悲しいわよね。

 どうするのが、正しいのかしら。



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