3 / 8
2
しおりを挟む
「どういうこと……?」
嘘だと言って。
そんな思いが込められた私の声は震えていた。
毎日のようにお茶に誘ってくるラファエロ皇子の誘いを断れ切れず、皇子と私は二人で向かい合って庭園の東家でお茶をしていた。
動揺する私を、太陽に反射して輝く金髪に、皇族だけに受け継がれる宝石のような金眼を瞬かせて、皇子は不思議そうに見ている。
私の思いを知らない皇子は、無情にも私を絶望へと突き落とした。
「ハルは元の世界に戻ることは出来ない」
聖女として召喚された私は、元の世界に戻るため、帝国に繁栄をもたらすために頑張っていた。
聖女の役目は祈り、祝福すること。
私の日々は聖女としての勉強、祈り、祝福に追われていた。
沢山の貴族への祝福に疲れた私は、貴族への祝福の数を減らして欲しいと皇子にお願いした。
そんな私に、皇子は「ハルはこの世界で生きていくしかないから、貴族と良い関係を築くためにも、頑張ってくれないと困る」と言った。
私が頑張っていたのは元の世界に戻るためであって、この世界で生きていくためじゃない。
それなのに、元の世界に戻ることは出来ない……??
言葉の意味を理解するのを私の脳は拒否したように、頭にモヤがかかる。
私がどんな気持ちで、今まで頑張ってきたと思っているの?
私を欲望に溢れた、馬鹿にしたような目で見る貴族達に祝福を与えるより、貧しい平民や孤児に祝福を与えたかった。
だけど、お願いという名の命令通りに、私は貴族に祝福を与えてきた。
全て、元の世界に戻るため。
その一心でここまでやってきた、それなのに……。
全てが無駄だった――。
元の世界に戻るためだと思っていた行為が、何の意味もなくなってしまった。
「僕と一緒に暮らそう」
呆然と机を見つめていると、立ち上がった皇子は私に手を伸ばした。
その手が近づいてくるのを見て、私の手は反射的に動く。
パシンッ
乾いた音が庭園に響く。
私は皇子の手を叩き落としていた。
「黙れ!!汚い手で私に触ろうとするな!!!」
今まで溜まっていたものが、言葉となって吐き出される。
私の怒鳴り声に驚いた顔をする皇子の目には、怒りで震える私が映っていた。
争いを好まず、出来るだけ物事を穏便に済ませたい私が、声を荒げて誰かに怒りをぶつけるのは、はじめてのことだった。
「どうしたんだ?落ち着いてくれ」
私を落ち着かせようとする皇子に、私はもう……、全てがどうでも良くなった。
私が知らないと思って口説いてくる皇子も、私を利用しようする大人達も――。
「私が何も知らないと思っているの?」
「何のことを言っているんだ?」
「分からないなら教えてあげる。あなたと元婚約者の関係が今も続いているのを、私が知らないとでも?」
私がこの世界に召喚されてから、皇子には婚約者がいたにも関わらず、皇帝や周りの大人達は私と皇子が結婚するように勧めた。
もちろん、私はそれを拒んだ。何より、他の女性と関係がある人と、婚約したり結婚するなんて、私には無理だ。
私がそう言うと、皇子は婚約破棄したと言ったが、元婚約者と皇子が抱き合って、キスしているのを一度ではなく、何度も見た。
私が元婚約者との関係が、今も続いているのを知っているとは思わなかったのか、皇子は目に見えて狼狽えだす。
ハッと吐き出すように笑うと、皇子はビクッと身体を震わせた。
この日から、私は聖女としての役目を放棄した。
嘘だと言って。
そんな思いが込められた私の声は震えていた。
毎日のようにお茶に誘ってくるラファエロ皇子の誘いを断れ切れず、皇子と私は二人で向かい合って庭園の東家でお茶をしていた。
動揺する私を、太陽に反射して輝く金髪に、皇族だけに受け継がれる宝石のような金眼を瞬かせて、皇子は不思議そうに見ている。
私の思いを知らない皇子は、無情にも私を絶望へと突き落とした。
「ハルは元の世界に戻ることは出来ない」
聖女として召喚された私は、元の世界に戻るため、帝国に繁栄をもたらすために頑張っていた。
聖女の役目は祈り、祝福すること。
私の日々は聖女としての勉強、祈り、祝福に追われていた。
沢山の貴族への祝福に疲れた私は、貴族への祝福の数を減らして欲しいと皇子にお願いした。
そんな私に、皇子は「ハルはこの世界で生きていくしかないから、貴族と良い関係を築くためにも、頑張ってくれないと困る」と言った。
私が頑張っていたのは元の世界に戻るためであって、この世界で生きていくためじゃない。
それなのに、元の世界に戻ることは出来ない……??
言葉の意味を理解するのを私の脳は拒否したように、頭にモヤがかかる。
私がどんな気持ちで、今まで頑張ってきたと思っているの?
私を欲望に溢れた、馬鹿にしたような目で見る貴族達に祝福を与えるより、貧しい平民や孤児に祝福を与えたかった。
だけど、お願いという名の命令通りに、私は貴族に祝福を与えてきた。
全て、元の世界に戻るため。
その一心でここまでやってきた、それなのに……。
全てが無駄だった――。
元の世界に戻るためだと思っていた行為が、何の意味もなくなってしまった。
「僕と一緒に暮らそう」
呆然と机を見つめていると、立ち上がった皇子は私に手を伸ばした。
その手が近づいてくるのを見て、私の手は反射的に動く。
パシンッ
乾いた音が庭園に響く。
私は皇子の手を叩き落としていた。
「黙れ!!汚い手で私に触ろうとするな!!!」
今まで溜まっていたものが、言葉となって吐き出される。
私の怒鳴り声に驚いた顔をする皇子の目には、怒りで震える私が映っていた。
争いを好まず、出来るだけ物事を穏便に済ませたい私が、声を荒げて誰かに怒りをぶつけるのは、はじめてのことだった。
「どうしたんだ?落ち着いてくれ」
私を落ち着かせようとする皇子に、私はもう……、全てがどうでも良くなった。
私が知らないと思って口説いてくる皇子も、私を利用しようする大人達も――。
「私が何も知らないと思っているの?」
「何のことを言っているんだ?」
「分からないなら教えてあげる。あなたと元婚約者の関係が今も続いているのを、私が知らないとでも?」
私がこの世界に召喚されてから、皇子には婚約者がいたにも関わらず、皇帝や周りの大人達は私と皇子が結婚するように勧めた。
もちろん、私はそれを拒んだ。何より、他の女性と関係がある人と、婚約したり結婚するなんて、私には無理だ。
私がそう言うと、皇子は婚約破棄したと言ったが、元婚約者と皇子が抱き合って、キスしているのを一度ではなく、何度も見た。
私が元婚約者との関係が、今も続いているのを知っているとは思わなかったのか、皇子は目に見えて狼狽えだす。
ハッと吐き出すように笑うと、皇子はビクッと身体を震わせた。
この日から、私は聖女としての役目を放棄した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
101
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる