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「……よし」
数分後に来た返信を見て、思わずニヤリと笑う。既読からのこの数分間のタイムラグは、おそらくかなり逡巡したからだろう。ごめんな、本当。今日でだいぶ疲れてるはずなのにな。君のことがあまりにも好みすぎて来週末まで待てなかったよ。早く二人きりでゆっくり話したくてさ。
さっきの食事会での美晴の様子を思い出すと、思わず笑いが込み上げる。可愛かったなぁ、マジで。めちゃくちゃ緊張してたな。綺麗な顔してるくせに、控えめで謙虚で。ああいう子ってなかなかいない。こんな遊び回ってるくせに、俺の好みはああいうスレてない純粋そうな子だったりする。自分にないものを求めてんのかなー俺。
初回から部屋に連れ込めるなんて思ってはいない。いかにもウブそうだし、ありゃ下手したら男も女も未経験だぞ。……さすがにそれはないかな。まぁいい。とにかく何度か会って向こうのあの緊張をほぐさねぇと話にならねぇ。親しくなって馴染んできた頃にこの部屋に呼んで、より親密な時間を過ごす。そしたらそのうちそういう雰囲気に持っていけるだろ。いつものやり方だ。ただ今回はちょっと時間かけてゆっくり慎重にいかねぇとな。あそこまでドンピシャな子には、下手したらもう一生出会えない。がっついて嫌われたくねぇ。
焦らず、ゆっくりだ、ゆっくり。まずは美晴の警戒心を解かねぇとな。
まだまだ余裕ぶっこいてるこの時の俺は、まだ分かっていなかった。
この俺が、恋愛に関しては負け知らずの、常に相手より優位に立ち続けてきた、この俺が。
まさかここまであいつに翻弄され続けて、なかなか手に入れられずに悶え苦しむことになろうとは。
「おはよう。早ぇな」
「あっ、はいっ!おはようございます!昨日はお疲れ様でした!」
いかにも頭の中で準備していたと思われる緊張感満載の挨拶をされ、心の中で苦笑する。
「そっちこそお疲れ。悪いな本当。せっかくの休日なのに。ゆっくりしたかっただろ?」
「はっ!いっ!いえっ!そんなこと……」
なんか昨日より一層カチコチになってる気がする。とにかく早くこの距離感をガッと縮めたいところだ。昨日はお互いスーツ姿だったけど、今日は私服だ。美晴は薄いグレーのコートの下に白いニットを着ている。普通なのに、なんか可愛い。
待ち合わせした場所からゆっくり歩きながら美晴に話しかける。
「なぁ、今日は完全に仕事関係ねーんだからさ。気楽にしてくれよ。ふっつーーに話してくんない?外で会うときは、もう、ごくごく普通に」
「えっ……、あ……は、はい…。…むっ、難しいですね……」
「そうか?ためしに名前呼んでみろよ」
「えっ?!なっ……名前、ですかっ……?」
「そ。ひびきって。ほら、はい」
「え…………えぇっ?!いえ、でも、…あ、…」
「ほら、呼べよ美晴。……な?俺は呼んだぞ」
「そっ、……そんな……」
しれっと呼び捨てにすることに成功したが、美晴の方は全く無理そうだ。泣きそうな顔をして真っ赤になっている。困らせてんなー俺。だけど困った顔もものすごく可愛いもんだからこっちも困る。
「ほら、勇気を出せ、美晴。せーの」
「………………ひ、…………ひびき、さん」
「………………っ、」
(お…………おお、…可愛いなおい……)
困った顔で上目遣いでひびきさん、と呼ぶ美晴。最高だ。たまんねぇ。顔がニヤけそうになる。
「うん。まぁいいだろ、それで。合格だ。はは」
俺はニヤけ顔をごまかしてそう言った。
適当に映画を見て昼飯を食べる。しかし美晴の緊張は予想以上にひどく、なかなか力を抜いて話してはくれない。
(こりゃかなり前途多難だぞ…。どうするかな…)
映画を観ても飯を食っても美晴はずっとカチンコチンで、これじゃ疲れきって俺と会うこと自体が嫌になるだろう。それじゃ困るんだよなぁ。喉を通らねぇのか、さっきから目の前のパスタも全然減ってねぇし。
俺はどうにか美晴の緊張を解こうと苦心していた。そうこうしているうちに、話はなんとなく美晴のこの可愛らしい外見のことになった。
「モテてモテてしょうがなかっただろ、お前」
「えっ。ま、まさか……まるっきりモテない人生でした」
「ふ。でしたって。もう終わったみたいな言い方すんなよ」
「……ひ、……響さん、こそ」
「いや俺はそうだけどさもちろん。別の意味お前もめちゃくちゃモテそうだよ」
(俺なんか一目見た瞬間に即落ちたぞ)
「や、ホントに全然……。昔からよく女の子に間違われて、わりとコンプレックスです…」
「あー、たしかに。間違われそうではあるな。……ふふ、ガキの頃の可愛らしさが想像つくよ」
「いえもう……幼稚園の発表会でも女神様の役とかやったことあるし…休んだ女の子の代わりで。ホントはすごい嫌でした」
「くく……。めっちゃ似合ってそうだな。まぁコンプレックスなんて誰にでもあるだろ。美晴のはまだ贅沢な方だよ。可愛すぎることが悩みなんてさ」
「でっ、でも、響さんにはないですよね?コンプレックスなんて」
「え?あるぞ一応」
「えっ?あるんですか?……どっ、…どんな……?」
あ……しまったな。この話あんましたくねーんだけどなぁ。でもここで自分の話だけしないでごまかしたら感じ悪いよなぁ。こういうあんま格好良くない話はもっと先でしたかったが、まぁ仕方ない。
「いや実は俺さ、身長180センチちょうどって公言してるんだけどさ、何回測っても179.5なわけよ。毎年健診受けるじゃん?会社で。毎年179.5。それが嫌なんだよな」
「……。そ、そんなことですか?…充分高いのに。僕なんて165ですよ?」
「いやお前はいいんだよ。可愛いキャラだから」
「え」
「でも俺は5ミリごまかしてんのが嫌なんだよ。せっかくこのルックスならいっそもう180センチでありたいだろ?もうここ何年もずっとセノビ~ルクン飲み続けてんのに、なぜか179.5で止まったままなんだよなー」
「……。……セノビ~ルクン……?」
「知らねぇ?なんか粉のやつだよ。CMやってるだろ。カルシウム入ってて、牛乳に溶かして飲むやつ。アレだよ」
「………………。え、あ、あれ、飲んでるんですか?」
「おお」
「あの、成長期の子どもとかに飲ませる、あれ……?」
「おお。ひそかに飲んでんだよ、毎朝家でな。もう何年飲んでる?アレ。あと5ミリなのに一向に伸びねぇ」
「………………。…………ふっ…………ふふっ」
「……っ、」
(えっ…………)
俺は美晴の表情に、思わず釘付けになった。
「ふふふふふ……。し……信じられない……。響さん……、ふふ、こんなカッコいいのに、い、家ではひそかに、セノビ~ルクンって…………あははははは」
「────っ!」
おかしくてたまらないという風に両手で口元を押さえ、満面の笑みを浮かべた美晴の顔に、俺の心臓は痛いほど大きく高鳴った。
(かっ………………可愛すぎかよ…………)
初めて見た美晴の笑顔に、俺の心は完全に奪われてしまった。
(あーー……ヤバい。これはヤバい)
ドクドクと激しく鳴り続ける鼓動。沸き上がってくる、叫びだしたいほどの欲求。
俺はこの瞬間、本気で美晴に恋をしてしまった。
数分後に来た返信を見て、思わずニヤリと笑う。既読からのこの数分間のタイムラグは、おそらくかなり逡巡したからだろう。ごめんな、本当。今日でだいぶ疲れてるはずなのにな。君のことがあまりにも好みすぎて来週末まで待てなかったよ。早く二人きりでゆっくり話したくてさ。
さっきの食事会での美晴の様子を思い出すと、思わず笑いが込み上げる。可愛かったなぁ、マジで。めちゃくちゃ緊張してたな。綺麗な顔してるくせに、控えめで謙虚で。ああいう子ってなかなかいない。こんな遊び回ってるくせに、俺の好みはああいうスレてない純粋そうな子だったりする。自分にないものを求めてんのかなー俺。
初回から部屋に連れ込めるなんて思ってはいない。いかにもウブそうだし、ありゃ下手したら男も女も未経験だぞ。……さすがにそれはないかな。まぁいい。とにかく何度か会って向こうのあの緊張をほぐさねぇと話にならねぇ。親しくなって馴染んできた頃にこの部屋に呼んで、より親密な時間を過ごす。そしたらそのうちそういう雰囲気に持っていけるだろ。いつものやり方だ。ただ今回はちょっと時間かけてゆっくり慎重にいかねぇとな。あそこまでドンピシャな子には、下手したらもう一生出会えない。がっついて嫌われたくねぇ。
焦らず、ゆっくりだ、ゆっくり。まずは美晴の警戒心を解かねぇとな。
まだまだ余裕ぶっこいてるこの時の俺は、まだ分かっていなかった。
この俺が、恋愛に関しては負け知らずの、常に相手より優位に立ち続けてきた、この俺が。
まさかここまであいつに翻弄され続けて、なかなか手に入れられずに悶え苦しむことになろうとは。
「おはよう。早ぇな」
「あっ、はいっ!おはようございます!昨日はお疲れ様でした!」
いかにも頭の中で準備していたと思われる緊張感満載の挨拶をされ、心の中で苦笑する。
「そっちこそお疲れ。悪いな本当。せっかくの休日なのに。ゆっくりしたかっただろ?」
「はっ!いっ!いえっ!そんなこと……」
なんか昨日より一層カチコチになってる気がする。とにかく早くこの距離感をガッと縮めたいところだ。昨日はお互いスーツ姿だったけど、今日は私服だ。美晴は薄いグレーのコートの下に白いニットを着ている。普通なのに、なんか可愛い。
待ち合わせした場所からゆっくり歩きながら美晴に話しかける。
「なぁ、今日は完全に仕事関係ねーんだからさ。気楽にしてくれよ。ふっつーーに話してくんない?外で会うときは、もう、ごくごく普通に」
「えっ……、あ……は、はい…。…むっ、難しいですね……」
「そうか?ためしに名前呼んでみろよ」
「えっ?!なっ……名前、ですかっ……?」
「そ。ひびきって。ほら、はい」
「え…………えぇっ?!いえ、でも、…あ、…」
「ほら、呼べよ美晴。……な?俺は呼んだぞ」
「そっ、……そんな……」
しれっと呼び捨てにすることに成功したが、美晴の方は全く無理そうだ。泣きそうな顔をして真っ赤になっている。困らせてんなー俺。だけど困った顔もものすごく可愛いもんだからこっちも困る。
「ほら、勇気を出せ、美晴。せーの」
「………………ひ、…………ひびき、さん」
「………………っ、」
(お…………おお、…可愛いなおい……)
困った顔で上目遣いでひびきさん、と呼ぶ美晴。最高だ。たまんねぇ。顔がニヤけそうになる。
「うん。まぁいいだろ、それで。合格だ。はは」
俺はニヤけ顔をごまかしてそう言った。
適当に映画を見て昼飯を食べる。しかし美晴の緊張は予想以上にひどく、なかなか力を抜いて話してはくれない。
(こりゃかなり前途多難だぞ…。どうするかな…)
映画を観ても飯を食っても美晴はずっとカチンコチンで、これじゃ疲れきって俺と会うこと自体が嫌になるだろう。それじゃ困るんだよなぁ。喉を通らねぇのか、さっきから目の前のパスタも全然減ってねぇし。
俺はどうにか美晴の緊張を解こうと苦心していた。そうこうしているうちに、話はなんとなく美晴のこの可愛らしい外見のことになった。
「モテてモテてしょうがなかっただろ、お前」
「えっ。ま、まさか……まるっきりモテない人生でした」
「ふ。でしたって。もう終わったみたいな言い方すんなよ」
「……ひ、……響さん、こそ」
「いや俺はそうだけどさもちろん。別の意味お前もめちゃくちゃモテそうだよ」
(俺なんか一目見た瞬間に即落ちたぞ)
「や、ホントに全然……。昔からよく女の子に間違われて、わりとコンプレックスです…」
「あー、たしかに。間違われそうではあるな。……ふふ、ガキの頃の可愛らしさが想像つくよ」
「いえもう……幼稚園の発表会でも女神様の役とかやったことあるし…休んだ女の子の代わりで。ホントはすごい嫌でした」
「くく……。めっちゃ似合ってそうだな。まぁコンプレックスなんて誰にでもあるだろ。美晴のはまだ贅沢な方だよ。可愛すぎることが悩みなんてさ」
「でっ、でも、響さんにはないですよね?コンプレックスなんて」
「え?あるぞ一応」
「えっ?あるんですか?……どっ、…どんな……?」
あ……しまったな。この話あんましたくねーんだけどなぁ。でもここで自分の話だけしないでごまかしたら感じ悪いよなぁ。こういうあんま格好良くない話はもっと先でしたかったが、まぁ仕方ない。
「いや実は俺さ、身長180センチちょうどって公言してるんだけどさ、何回測っても179.5なわけよ。毎年健診受けるじゃん?会社で。毎年179.5。それが嫌なんだよな」
「……。そ、そんなことですか?…充分高いのに。僕なんて165ですよ?」
「いやお前はいいんだよ。可愛いキャラだから」
「え」
「でも俺は5ミリごまかしてんのが嫌なんだよ。せっかくこのルックスならいっそもう180センチでありたいだろ?もうここ何年もずっとセノビ~ルクン飲み続けてんのに、なぜか179.5で止まったままなんだよなー」
「……。……セノビ~ルクン……?」
「知らねぇ?なんか粉のやつだよ。CMやってるだろ。カルシウム入ってて、牛乳に溶かして飲むやつ。アレだよ」
「………………。え、あ、あれ、飲んでるんですか?」
「おお」
「あの、成長期の子どもとかに飲ませる、あれ……?」
「おお。ひそかに飲んでんだよ、毎朝家でな。もう何年飲んでる?アレ。あと5ミリなのに一向に伸びねぇ」
「………………。…………ふっ…………ふふっ」
「……っ、」
(えっ…………)
俺は美晴の表情に、思わず釘付けになった。
「ふふふふふ……。し……信じられない……。響さん……、ふふ、こんなカッコいいのに、い、家ではひそかに、セノビ~ルクンって…………あははははは」
「────っ!」
おかしくてたまらないという風に両手で口元を押さえ、満面の笑みを浮かべた美晴の顔に、俺の心臓は痛いほど大きく高鳴った。
(かっ………………可愛すぎかよ…………)
初めて見た美晴の笑顔に、俺の心は完全に奪われてしまった。
(あーー……ヤバい。これはヤバい)
ドクドクと激しく鳴り続ける鼓動。沸き上がってくる、叫びだしたいほどの欲求。
俺はこの瞬間、本気で美晴に恋をしてしまった。
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