百戦錬磨は好きすぎて押せない

紗々

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「わー!すごーい!初めて来ましたよ僕!」
「……おー、…俺もだよ」
「絶対嘘ですよねバレバレですよ」
「……。人が多いなー」
「あ、ごまかした。ふふふ」

 美晴とこの手の話をするのは妙に気まずい俺。美晴の方は満面の笑みで大人気の夢の国の雰囲気を楽しみはじめた。いい歳した男が二人でこんなところにくるのもどうかと思うが、そんじょそこらの女よりこいつの方が異様に可愛すぎるから問題ないだろう。ほら見ろ、すれ違うヤツらがチラチラ美晴のことを見ている。俺のだよバカ。見てんじゃねーよブサイクどもが。いや俺のじゃねーけどな。

 はしゃぐ美晴を追いかけるようにしてランド中を回る。まだまだ肌寒いのに、元気だなーこいつ。よっぽど楽しいんだろうな、いつもはあんまり体力なさそうなくせに。アトラクションに乗るのにいちいち長い時間並ぶのがマジで面倒くさくて本当はこういう場所は全然好きじゃないんだが、はしゃいでいる美晴の可愛い顔を見ながら話していると時間が経つのがあっという間だ。

 ランチを食べればキャラクターを模したオムライスを写真に撮りキャッキャとはしゃぎ、デザートのプリンの表面に何かのプリンセス的な絵が描いてあるのを見てはまたキャーキャー言っている。女の子かお前は。笑顔が可愛すぎて顔がニヤけるわ。


「美晴、疲れただろ。ちょっと休憩しようぜ」
「は、はい……。そうですね、さすがに足が痛いです……ふふ」

 足が痛いことの何がそんなに楽しいのか、美晴はニコニコ笑いながらベンチに向かう俺についてくる。美晴を座らせて待たせ、俺はドリンクを買いに行った。お。このチュロス美味そうだな。買ってくか。


「………………ちっ」

 ココアとチュロスを買って美晴の元へ戻ると、美晴の前に何人もたかっている。男じゃなくて小娘たちだ。しまったな。一人で置いとくんじゃなかった。

「彼女いるんですかー?」
「や、あの…………と、友達と来てるから……」
「えー?ホントにぃ?男友達と二人ですか?」
「あー、えっと、……あは、まぁ」
「えーホントかなー。あやしー」
「ホントなら一緒にまわりませんか?」
「や、でも……その……」

 俺はスタスタと近づき営業スマイルで小娘たちをはねのける。若ぇなー。まさか女子高生か?

「ごめんなーお嬢さんたち。今日は二人でまわりたいんだよ。久しぶりに会ったからさ。な?」
「響さん…」

 女子高生まがいの小娘たちは俺を見るとピタッと固まり、顔を真っ赤にしてキャーキャー甲高い声で騒ぎ始めた。ちっ。うるせーなマジで。何で美晴のキャーキャーはめちゃくちゃ可愛いのに他人のキャーキャーはこんなに苛つくんだろう。

「あっ!あのっ!どうしてもっ、ダッ、ダメですか……っ!」
「ん、ごめんなー」
「ど、どこから来られたんですかっ?!」
「遠いよー九州の方」
「あのっ!ラッ、ラインとか、交換してもらえませんかっ?き、今日がダメならこっちに滞在中に、一緒に皆でご飯でも……!」
「んー、ちょっと厳しいかなースケジュール的に。な?」
「えぇっ!じゃあ、ラインだけでも……!」
「お願いしますぅ~!」
「かっ、彼女さんとかいますか?」

 しつけーなとっとと引けよ!空気読め!!俺は美晴にココアとチュロスを渡しながら頬が引き攣ってきた。こっちは美晴との貴重な時間を一分一秒たりとも無駄にしたくねーんだよ。
 ……ええい、もうしょうがねぇ。

「……悪いな。女に全く興味ねーんだよ、俺。な?美晴」

 ちゅっ。

 俺は屈んで見せつけるように美晴の髪を撫でながら額にキスをした。甲高い声で騒いでいた小娘たちがピタリと静まり返ったかと思うと、

「「「「ギャァァァァァッ!!」」」」
「すごぉぉい!と、尊い……っ!!」
「こ、こんな美形同士で?!ヤバくない?!すごい!!」
「いやぁぁぁぁ!!」

 耳をつんざくような奇声を上げて興奮し始めた。野生動物かよ。

 ようやく追い払った頃には耳がキンキンしていた。あーーーウザかった。

「大丈夫か?美晴」
「………………っ」
「…………み、」

 美晴は耳まで真っ赤にして、ココアを握りしめたまま俯いて震えていた。……さすがに嫌だったかなぁ、さっきのは。だけど今回のはもう不可抗力というか……ゆ、許してくれるよな…?これ。

「……悪いな、美晴。しつこかったからさ、あの女どもが。さっさと追っ払いたくてよ」
「……………………。」
「………………許してくれよ、今のキスは。……な?」
「…………っ、」

 コクコクコク。

 美晴は無言のまま首を縦に振ってくれている。

「……嫌じゃなかったか?……大丈夫か?美晴」
「……っ、…………っ」

 コクコクコクコク。

 口をパクパクしながら必死で首を縦に振る。……なんかパニクってはいるがひとまず怒ってはなさそうだ。よかった。


 しばらくゆでだこのようになって俯いていた美晴だが、落ち着いたら美味しい美味しいと言いながらチュロスを食べ始めた。

「……響さんのはないんですか?」
「俺は別にいいよ。甘党のお前に買ってきただけだ。疲れると甘いもん食いたくなるだろ」
「……。ありがとうございます。……少し食べますか?」
「や…」
「はい」
「っ!」

 美晴が食べかけのチュロスを俺に差し出してくる。……え?……何これ。食っていいのかよ。だって俺が食ったらお前、俺の食べかけを…

「……。」
「………………。」

 ……なんかすげぇ真っ赤な顔で見つめてくるんだけど。チュロスを差し出したまま。

「……。」

 ……ぱく。

「……あま」
「……美味しいでしょ?」
「……ああ」

 俺が返事をすると美晴はプイッと向こうを向いてまた続きを食べ始めた。

「…………。」

(…………かっ……可愛すぎる……!!また耳が赤くなってるじゃねぇかこいつ!!)

 何だよこれ。どういうことだよ。もうこれは俺が勘違いしすぎてるとかじゃない。こいつが、…こんな思わせぶりなことするから……!!

(……もしかして、…………俺もう少し押しても大丈夫なんじゃねぇか?)

 またそんな考えが頭をよぎる。ほら見ろ。お前のせいだぞ美晴。また俺が暴走し始めた。
 いやだってこれ、いつもの感じなら絶対イケるだろこれ。…………でもなぁ…………分からないんだよこいつに関しては。マジで。なんせ俺には世紀の大失敗の実績がある。


『………………ブロックするから』


 ……いやいや冗談じゃねぇ。怖い怖い。騙されねーぞ美晴。俺を誘惑して、わ、罠に嵌めようとしてんじゃねーよ。たぶんそんなこと全然考えてねーんだろうけど、お前にも隙がありすぎるんだよ、もう……。
 …こんなんでよくこいつ今まで無事で生きてこれたな。



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