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婚約者編
エピローグ
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翌朝、朝帰りした気まずさから、こそっと部屋に戻ろうとした私は、宮殿に入るところで、ミシェルさんに呼び止められた。その後ろでは、クラースさんが深々と頭を下げている。
早速見つかった!とギクリと体を強張らせる私に軽く笑うと、彼女は私に手招きした。
恐る恐る近づく私に、ミシェルさんはスッと手を出す。反射的に私も手を出すと、ころんと何かが乗せられた。
「今回の作戦が上手く行ったら渡そうって、こっそり持ってたの。お守りがわりに」
それは、ブローチだった。蔦がペリドットと琥珀を寄り添うように抱えるデザイン。
私がアルフレッドへのお土産にした物と良く似ていた。
「……これ」
「そう、あのタイピンとカフスとお揃いのデザインなの。ささやかだけど、今回のお礼よ。本当にありがとう」
「でも…」
貰ってばかりな事に恐縮して断ろうとする私の手をミシェルさんはブローチごと優しく握り混む。
「だーめ。私の気持ちなんだからちゃんと受け取ってくれないと」
戸惑いながら、私は頷く。
でも。ダメだ。結局、いつも貰ってばっかり。これからは、自分から動くってきちんと決めたじゃない。
私は少しだけ考える。そして、こそっとミシェルさんの耳元で囁いた。
ミシェルさんは首を振った後、満面の笑みをくれた。
◆
結局、ほとんど観光できないまま、アルストリアへの訪問は終わってしまったが、私の心は行く時より少しだけ軽くなっていた。
帰りの馬車は、この騒動を糧に少しだけ距離が近づいた御二人に遠慮して私だけ別にすることにした。
隣の馬車の扉を開けてもらって入ると、中には何故か何食わぬ顔で、アルフレッドが乗っていた。
「あなた、こんなところで何してるの!?」
「何って…。帰るんですよ、僕も。もう用事は終わりましたからね」
腑に落ちない気持ちで、馬車に乗り込み、アルフレッドの向かいに腰かけようとすると、手を取られた。強引に、隣に座らされる。
「ちょっと!……て、何か嬉しいことでもあった?」
抗議しようとして、上機嫌なアルフレッドに毒気を抜かれる。
アルフレッドは晴れやかな顔でえぇ、と頷く。
「隣国に恩は売れましたし、フレイヤ様を受け入れていただく下地は作れましたし。概ね満足行く結果になりましたよ」
怖っ!どこまでが計算ずくだったのかしら。
戦く私に、アルフレッドは「それに」と続ける。
「あなたの気持ちをきちんと聞くことが出来ましたしね」
私は赤くなった頬をアルフレッドの視線から隠すために俯いた。
◆
帰ってきた私の顔を見て、フローレンス様は朗らかに笑った。
「あら、ビアちゃん。マリッジブルーは解決したの?」
私は、フローレンス様にはかなわないなぁと思いながら頷いた。
「はい。おかげさまで」
こうして、私の日常が戻ってきた。
「もうすれ違いは嫌ですからね」と笑うアルフレッドに、部屋を一緒にされたり、まだ婚約期間なのに、お嫁に行ったようで悲しいとお父様とミシェルに嘆かれたりしたことはここだけの話。
そして、ミシェルさんに頼んで作って貰った結婚の指輪が届いたことも。
いつも先回りして、私のためにと色々してくれるアルフレッドをあっと驚かせることが出来るかしら。
今度は私から逆プロポーズ、なんてどうかしら。
くふふ、と私は未来に思いを馳せて笑みを浮かべた。
早速見つかった!とギクリと体を強張らせる私に軽く笑うと、彼女は私に手招きした。
恐る恐る近づく私に、ミシェルさんはスッと手を出す。反射的に私も手を出すと、ころんと何かが乗せられた。
「今回の作戦が上手く行ったら渡そうって、こっそり持ってたの。お守りがわりに」
それは、ブローチだった。蔦がペリドットと琥珀を寄り添うように抱えるデザイン。
私がアルフレッドへのお土産にした物と良く似ていた。
「……これ」
「そう、あのタイピンとカフスとお揃いのデザインなの。ささやかだけど、今回のお礼よ。本当にありがとう」
「でも…」
貰ってばかりな事に恐縮して断ろうとする私の手をミシェルさんはブローチごと優しく握り混む。
「だーめ。私の気持ちなんだからちゃんと受け取ってくれないと」
戸惑いながら、私は頷く。
でも。ダメだ。結局、いつも貰ってばっかり。これからは、自分から動くってきちんと決めたじゃない。
私は少しだけ考える。そして、こそっとミシェルさんの耳元で囁いた。
ミシェルさんは首を振った後、満面の笑みをくれた。
◆
結局、ほとんど観光できないまま、アルストリアへの訪問は終わってしまったが、私の心は行く時より少しだけ軽くなっていた。
帰りの馬車は、この騒動を糧に少しだけ距離が近づいた御二人に遠慮して私だけ別にすることにした。
隣の馬車の扉を開けてもらって入ると、中には何故か何食わぬ顔で、アルフレッドが乗っていた。
「あなた、こんなところで何してるの!?」
「何って…。帰るんですよ、僕も。もう用事は終わりましたからね」
腑に落ちない気持ちで、馬車に乗り込み、アルフレッドの向かいに腰かけようとすると、手を取られた。強引に、隣に座らされる。
「ちょっと!……て、何か嬉しいことでもあった?」
抗議しようとして、上機嫌なアルフレッドに毒気を抜かれる。
アルフレッドは晴れやかな顔でえぇ、と頷く。
「隣国に恩は売れましたし、フレイヤ様を受け入れていただく下地は作れましたし。概ね満足行く結果になりましたよ」
怖っ!どこまでが計算ずくだったのかしら。
戦く私に、アルフレッドは「それに」と続ける。
「あなたの気持ちをきちんと聞くことが出来ましたしね」
私は赤くなった頬をアルフレッドの視線から隠すために俯いた。
◆
帰ってきた私の顔を見て、フローレンス様は朗らかに笑った。
「あら、ビアちゃん。マリッジブルーは解決したの?」
私は、フローレンス様にはかなわないなぁと思いながら頷いた。
「はい。おかげさまで」
こうして、私の日常が戻ってきた。
「もうすれ違いは嫌ですからね」と笑うアルフレッドに、部屋を一緒にされたり、まだ婚約期間なのに、お嫁に行ったようで悲しいとお父様とミシェルに嘆かれたりしたことはここだけの話。
そして、ミシェルさんに頼んで作って貰った結婚の指輪が届いたことも。
いつも先回りして、私のためにと色々してくれるアルフレッドをあっと驚かせることが出来るかしら。
今度は私から逆プロポーズ、なんてどうかしら。
くふふ、と私は未来に思いを馳せて笑みを浮かべた。
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