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第7章 ーノエル編ー
21 学園五年目
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ハロルドが自分の生い立ちを父親に問い詰めた話を聞いた後、ノエルも思うことがあった。
母はムキムキマッチョ集団である黒薔薇騎士団に勤めていたが、明らかにマッチョではなかった。ミネルバから光魔法による身体強化を学んだからこそ、母の細さで力が強いというのは非魔法族ではありえないとわかる。
…では母はなぜ黒薔薇騎士団に勤めていたのか。
辺境から白薔薇騎士団に連行されていった母。オールディの白薔薇騎士団と言えば聖女様の護衛が任務である。つまり、聖女様の命令を受けて首都に連れてこられたのではないだろうか。
…では母と聖女様の関係はなんなのか。
首都に戻って半年でぼろぼろになり、ついにはなくなってしまった母。半年の間、母は聖女様たちの祈る正教会にいたらしい。
…ではその間母は何をさせられていたのか。
そして、母が亡くなった後、父はノエルを連れてすぐにオールディを出た。何かを恐れるようにルクレツェンに入国しすぐに首都まで来た。『パパンがノエルを守るからね』とは旅行中の父の口癖だった。
…オールディでノエルが狙われていたのではないか。
鏡の向こうに映るノエルは父譲りのくせ毛の金髪に、母譲りのキラキラとした青い目をもつ美人さんだ。宝石のような青い目を持つことからブルーローズと呼ばれるオールディの大聖女…血のつながりがあるのではないか。
ノエルが決意し、父を問い詰めるのは五年生が始まる前の夏休みのことだ。
「そうだね。ノエルはもう理解できる年だろうね。ママンのローズはオールディで代々大聖女を輩出する家、ルロワ公爵家の出なんだ。」
父は長くなるからとノエルにお茶をいれてくれた。手作りのお菓子も一緒である。
「ノエルはオールディの聖女がどのように選ばれるのか知ってるかい?」
「結界をはれるかどうかを教会で調査してもらうんでしょ?」
オールディの聖女は血筋によるものではなく、一市民でも適性があればなれる。むしろ聖女はオールディでは人気の職業で女の子はみんな一度はあこがれる職業だ。適性があるのは希望者の20人に一人という狭き門らしいが。
「そう。聖女には血筋に関係なく適性があればなれるけど、大聖女にはルロワ家の血縁でないとなれないんだ。正確にはルロワ家の血縁で、青い目をしていないと大聖女にはなれないんだ。
大聖女の任命を受けたルロワ家由縁の聖女は宝石目を開眼して、オールディ全土を守る祈りの結界を展開するんだ。毎年夏にある建国祭は大聖女による祈りの結界の張り直しなんだ。」
「…じゃあ青い目のママンは大聖女候補の聖女だったってこと?」
「聖女の定義が結界をはる能力だとすれば、ローズは聖女ではなかったよ。彼女はルロワ家の中でも特に由緒正しい生まれでありながら、結界術が使えなかったんだ。」
確かにノエルの記憶にある母がそのような術を使った覚えはない。
「私がローズと出会ったのは、彼女がルロワ家のしきたりから教会で聖女をさせられていた時だったよ。あの時はまだ16歳だった。今のノエルと同じ年だね。」
「じゃあ、ママンは聖女の適性がないのに無理やり聖女にさせられていたの?」
「いや、ローズには結界術は使えなかったけど、強化術が使えた。歴代の大聖女に比べれば弱い力だったけど。」
「強化術?」
「大聖女はルロワ家の出ならだれでもいいわけじゃない。結界術に加えて傘下の聖薔薇騎士団の団員たちの身体能力を強化する強化術が使えることも条件なんだ。」
「え、じゃあムキムキマッチョのお兄さんたち、強化されてたの??」
それはちょっと残念だ。
「うーん。あくまでそれは有事の時に発動する術だからね。ノエルが見ていた平時の時は強化はされていなかったと思うよ。」
じゃあ彼らの筋肉は本物なのだ。ああよかった。
「強化術が使えるなら結界術も使えるはずだって思われていたけど、ローズが結界術を使うことはなかった。それで正式に当時の大聖女の後継がローズの姉に決まったのをきっかけにローズはルロワ家を勘当されて、当時の騎士団長に助けられる形で黒薔薇騎士団に配属になったんだ。」
「じゃあ、今の大聖女様は私の伯母さん?」
「そうだね。ローズとは異母姉妹らしい。そこから辺境で暮らしていたんだよ。」
「パパンはママンを追いかけて仕事をやめて辺境に行ったんだよね。」
「そう。大恋愛だよ。」
はいはい。娘の前で恥ずかしくないのかしら。父は昔を懐かしむように遠い目をしたが、ふと真顔になる。
「辺境で結婚して、ノエルが生まれて、ローズの能力に変化があったんだ。」
「…まさか結界術が使えるようになったの?」
だから辺境から呼び戻された?
「ちがう。大聖女が使う術にはもう一つ未来視という術があるんだ。これは歴代でも使えた大聖女は数人しかいないらしいけど。」
”未来視”。そういわれてふとノエルは納得した。
母と最期の会話で、『ノエルは強い子になるのだ』と決まったことのように断言されたことがずっと気になっていたのだ。
「ローズはずっとかくしていたけど、なぜかそれがルロワ家と正教会にばれて、あの日、拉致同然に連行されてしまったんだ。
その後、未来視の力を酷使したローズはノエルも覚えている通り、衰弱して亡くなってしまった。」
父がお茶のカップを握りしめる。
「ノエルもローズと同じキラキラした青い目をしていたからね。それにあのころノエルはオズマと黒薔薇騎士団の本部で歌いながら飛び跳ねまわっていたから、それを見た正教会の幹部から、聖女として育てるべきではないかという声があがっていることを黒薔薇の隊長から聞いたんだ。
ローズの死後、すぐに国を出たのはそういうわけだよ。」
ノエルが今、ルクレツェンで暮らせているのは父のおかげだ。もしオールディに残っていたら、母を死に追いやった正教会で働くことを強要されていたかもしれない。父と離れ離れだった可能性もある。
「どうして最後にママンに会えたの?」
「黒薔薇騎士団のみんなが尽力してくれたんだ。ルクレツェンに無事に渡れたのもみんなのおかげだ。」
ノエルがぽつりと「また会いたいね」と呟くと、父は複雑そうな顔をした。
「ノエルには近い将来、オールディに行く機会があるよ。…本当は行ってほしくないけど。」
父の発言の意味を知るのは一月ほど後のことだ。
母はムキムキマッチョ集団である黒薔薇騎士団に勤めていたが、明らかにマッチョではなかった。ミネルバから光魔法による身体強化を学んだからこそ、母の細さで力が強いというのは非魔法族ではありえないとわかる。
…では母はなぜ黒薔薇騎士団に勤めていたのか。
辺境から白薔薇騎士団に連行されていった母。オールディの白薔薇騎士団と言えば聖女様の護衛が任務である。つまり、聖女様の命令を受けて首都に連れてこられたのではないだろうか。
…では母と聖女様の関係はなんなのか。
首都に戻って半年でぼろぼろになり、ついにはなくなってしまった母。半年の間、母は聖女様たちの祈る正教会にいたらしい。
…ではその間母は何をさせられていたのか。
そして、母が亡くなった後、父はノエルを連れてすぐにオールディを出た。何かを恐れるようにルクレツェンに入国しすぐに首都まで来た。『パパンがノエルを守るからね』とは旅行中の父の口癖だった。
…オールディでノエルが狙われていたのではないか。
鏡の向こうに映るノエルは父譲りのくせ毛の金髪に、母譲りのキラキラとした青い目をもつ美人さんだ。宝石のような青い目を持つことからブルーローズと呼ばれるオールディの大聖女…血のつながりがあるのではないか。
ノエルが決意し、父を問い詰めるのは五年生が始まる前の夏休みのことだ。
「そうだね。ノエルはもう理解できる年だろうね。ママンのローズはオールディで代々大聖女を輩出する家、ルロワ公爵家の出なんだ。」
父は長くなるからとノエルにお茶をいれてくれた。手作りのお菓子も一緒である。
「ノエルはオールディの聖女がどのように選ばれるのか知ってるかい?」
「結界をはれるかどうかを教会で調査してもらうんでしょ?」
オールディの聖女は血筋によるものではなく、一市民でも適性があればなれる。むしろ聖女はオールディでは人気の職業で女の子はみんな一度はあこがれる職業だ。適性があるのは希望者の20人に一人という狭き門らしいが。
「そう。聖女には血筋に関係なく適性があればなれるけど、大聖女にはルロワ家の血縁でないとなれないんだ。正確にはルロワ家の血縁で、青い目をしていないと大聖女にはなれないんだ。
大聖女の任命を受けたルロワ家由縁の聖女は宝石目を開眼して、オールディ全土を守る祈りの結界を展開するんだ。毎年夏にある建国祭は大聖女による祈りの結界の張り直しなんだ。」
「…じゃあ青い目のママンは大聖女候補の聖女だったってこと?」
「聖女の定義が結界をはる能力だとすれば、ローズは聖女ではなかったよ。彼女はルロワ家の中でも特に由緒正しい生まれでありながら、結界術が使えなかったんだ。」
確かにノエルの記憶にある母がそのような術を使った覚えはない。
「私がローズと出会ったのは、彼女がルロワ家のしきたりから教会で聖女をさせられていた時だったよ。あの時はまだ16歳だった。今のノエルと同じ年だね。」
「じゃあ、ママンは聖女の適性がないのに無理やり聖女にさせられていたの?」
「いや、ローズには結界術は使えなかったけど、強化術が使えた。歴代の大聖女に比べれば弱い力だったけど。」
「強化術?」
「大聖女はルロワ家の出ならだれでもいいわけじゃない。結界術に加えて傘下の聖薔薇騎士団の団員たちの身体能力を強化する強化術が使えることも条件なんだ。」
「え、じゃあムキムキマッチョのお兄さんたち、強化されてたの??」
それはちょっと残念だ。
「うーん。あくまでそれは有事の時に発動する術だからね。ノエルが見ていた平時の時は強化はされていなかったと思うよ。」
じゃあ彼らの筋肉は本物なのだ。ああよかった。
「強化術が使えるなら結界術も使えるはずだって思われていたけど、ローズが結界術を使うことはなかった。それで正式に当時の大聖女の後継がローズの姉に決まったのをきっかけにローズはルロワ家を勘当されて、当時の騎士団長に助けられる形で黒薔薇騎士団に配属になったんだ。」
「じゃあ、今の大聖女様は私の伯母さん?」
「そうだね。ローズとは異母姉妹らしい。そこから辺境で暮らしていたんだよ。」
「パパンはママンを追いかけて仕事をやめて辺境に行ったんだよね。」
「そう。大恋愛だよ。」
はいはい。娘の前で恥ずかしくないのかしら。父は昔を懐かしむように遠い目をしたが、ふと真顔になる。
「辺境で結婚して、ノエルが生まれて、ローズの能力に変化があったんだ。」
「…まさか結界術が使えるようになったの?」
だから辺境から呼び戻された?
「ちがう。大聖女が使う術にはもう一つ未来視という術があるんだ。これは歴代でも使えた大聖女は数人しかいないらしいけど。」
”未来視”。そういわれてふとノエルは納得した。
母と最期の会話で、『ノエルは強い子になるのだ』と決まったことのように断言されたことがずっと気になっていたのだ。
「ローズはずっとかくしていたけど、なぜかそれがルロワ家と正教会にばれて、あの日、拉致同然に連行されてしまったんだ。
その後、未来視の力を酷使したローズはノエルも覚えている通り、衰弱して亡くなってしまった。」
父がお茶のカップを握りしめる。
「ノエルもローズと同じキラキラした青い目をしていたからね。それにあのころノエルはオズマと黒薔薇騎士団の本部で歌いながら飛び跳ねまわっていたから、それを見た正教会の幹部から、聖女として育てるべきではないかという声があがっていることを黒薔薇の隊長から聞いたんだ。
ローズの死後、すぐに国を出たのはそういうわけだよ。」
ノエルが今、ルクレツェンで暮らせているのは父のおかげだ。もしオールディに残っていたら、母を死に追いやった正教会で働くことを強要されていたかもしれない。父と離れ離れだった可能性もある。
「どうして最後にママンに会えたの?」
「黒薔薇騎士団のみんなが尽力してくれたんだ。ルクレツェンに無事に渡れたのもみんなのおかげだ。」
ノエルがぽつりと「また会いたいね」と呟くと、父は複雑そうな顔をした。
「ノエルには近い将来、オールディに行く機会があるよ。…本当は行ってほしくないけど。」
父の発言の意味を知るのは一月ほど後のことだ。
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