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第二章 大国での失恋

大国皇太子とクリスの二人で市井にお忍びのはずが…

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翌朝、宮殿の通用口に二人の若い男女が立っていた。

「すいません。
ジャンヌって言いますけど、ガーネットに会いに来たんですけど」

「ジャンヌ様。
ガーネットと言いますと、侍女ですか?」
通用門の係官が訪ねる。

「いえ、王女の」
「はあああ?!」
係官の目が点になった。

いかにも市井の女って言う感じの女性がガーネット王女の知り合いとは思えない。

「すいません。そのようなお話は聞いていないのですが、お約束ございましたでしょうか」
「いや、無いんですけど」
「誠に申し訳ありませんが、お約束がない場合は取り次ぐわけにはいかないのですが」
「えっ、そんなこと言わずに取り次ぐだけ取り次いでくれたらいいんだけど」
「誠に申し訳ありませんが、規則ですので」
怒ろうとするジャンヌを抑えて

「だから言ったろう。それじゃあ無理だって」
余裕の笑顔でアレクが言う。

「アレクだが、外務大臣呼んでくれる」
しかし、アレクも恰好をつけて門番に言うが、どう考えても一般市民としか見えない。
それがいきなり雲の上の外務大臣を呼ぶなど、普通に考えてありえないことだった。

「お約束はございますか?」
いかにも胡散臭そうに係官が聞く。
「いや、無いが」
「それでは誠に申し訳ありませんが、取り次がせていただくわけには参りません」
「何だと!」
ぴきっと切れるが、一般人の恰好では流石の赤い死神も形無しだ。

「ははんっ貴様もおんなじじゃんか」
怒るアレクにジャンヌが笑った。

それを門の陰から見つけたオーウェンはクリスの手を引いて慌てて物陰に隠れようとした。

そこへ慌てて追いかけてきたガーネットがぶつかる。

「きゃっ」
「ガーネットどういうことだ。」
オーウェンが後ろをつけてきたしか思えないガーネットを見つけて、目に怒りを浮かべて言う。

「えええっ?だってお兄様だけずるい!」

「あっガーネット」
見つけたと言わんばかりにジャンヌが遠くから手を振る。

「あっジャンヌお姉様」
慌てて駆けだした一般人の恰好をした王女を見て門番は青くなった。

「お前らな・・・・」
オーウェンは頭を押さえた。

平身低頭する門番らに手を振りつつガーネットら6人は歩きだした。

「どういうつもりだ。アレク」
ブスっとしてオーウェンが言う。

「いやあ、いきなりジャンヌが来ちゃって、せっかくだからみんなで遊ぶかと」
「ジャンヌお前は何をしに」
「いやあ、面白そうなことやっているからさ、私も混ぜてほしいじゃん。
クリスと街歩いた事も無かったし。」
「ジャンヌお姉さま。そこはガーネットにも会いたかったしとおっしゃっていただきたいかと」
ガーネットが横から口を出す。
「当然。ガーにも会いたかったさ。久しぶりだな。こんなに小さかったのに」
自分の腰のあたりを指さす。

「お姉さまも、あの頃は小さかったでは無いですか。
今はこんなにりりしくなられて、大国ノルディンの皇太子殿下を下僕として引き連れていらっしゃるなんて」

「ちょっと待った。ガーネット。
お忍びだからニックネームで呼ぶよ。俺の事もアレクでいいから」
「それ本名ですけど」
ぼそっとウイルが言う。
「でも、ガーじゃなあ。」
困ったようにアレクが言う。

「いいですよ。ガーで」
屈託なくガーネットが言う。

「じゃあ、ガーで。
俺はジャンの下僕ではない。恋人と呼んで欲しい」

「却下」
即座にジャンヌが拒否してしばく。

「だって昨日もお姉さまにモミジマーク付けられてたじゃないですか。
クリスもお姉さまの尻に敷かれているって言ってたし」
「ガー、そうは言ってないでしょ。
いつもお姉さまと一緒にいらっしゃるって」
慌ててクリスが否定する。

「でも、お姉さまのわがままにいつも付き合わされているって。
でも、そのお姉さまに付き合うなんてアレクはものすごく恰好いい人だと思いますわ」
ガーネットの瞳にはキラキラの星マークが出ていた。
「それは許す。」
「でも、赤い死神を下僕にするなんてなんてお姉さまはなんて素晴らしいんでしょう!」
全然わかっていないと改めてアレクは思ったが、本人以外の周りはアレクはジャンヌの下僕認定していたが…

「ならガーもウイルを下僕にしたらいいんじゃないか」
ジャンヌが言う。
「パスっ、それでなくても今でもジャンにこき使われているのに
これ以上やられたくない。」
「えええ、お姉さま、2人も下僕がいるのですの。
流石お姉さま。」
「それは俺は違うよ。上司と部下の関係だから。部下の扱いがひどいからそう見えるだけで」
慌ててウィルが言う。
「どうしたの。クリスは黙りこくって」
静かなクリスにオーウェンが声をかける。
―やったあクリスって言えた。どさくさに紛れて言えたー
オーウェンはメチャクチャうれしかった。
「お姉様はうらやましいなと思って。」

「じゃあクリスもオウを下僕にすればよいのに。」
ズバッとジャンヌが言う。
「そうですわ。お兄様なら喜んでクリスの下僕になってくれますわよ」
「おいおい、それはないだろう」
慌ててアレクは邪魔をしようとする。
勝手に2人でくっついてくれると困るのだ。

その声を無視して、オーウェンがクリスの前に跪いた。
「クリス姫。是非とも私を下僕に」
手を差し出す。

「まあ、オウったら、冗談ばっかり」
そう言いながら軽くオーウェンを叩いて歩いていく。
クリスから触られて、というか叩かれただけだが、オーウェンは感激していた。
「クリスは冷たい。本心なのに。」
そう言いながらクリスを追いかける。

残った4人の生暖かい視線、いや一人はやばいという慌てた視線が二人に注がれていた。
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