聖女やめます

ふたつぎ

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「ただいま戻りました」
「ああ、おかえり。怪我などは ―― 」
「ありません、大丈夫です。あ、リガート、シルビィ、メリーアンもただいま。元気だった?」

夫への挨拶もそこそこに、夫の従者やメイドたちに笑いかけるヴィジェルにアンニーバレは肩を落とす。
いいんだ、自分が悪いんだ。そんなことを呟いているが誰にも聞こえない。

使用人たちと談笑しながら屋敷へ入っていく妻の背中を見ながら、アンニーバレも足を進める。


あれから約半年。
その間に何度も手紙でやり取りをした。

ヴィジェルが領地に行ってから初めて一人で夜会に参加した後、再び元婚約者のアマリアから手紙が届き、その中でしこたま怒られた。
そこでようやく、ヴィジェルに謝罪の言葉を伝えた。

そして、今日から二週間後に行われる筆頭聖女の結婚式に仲睦まじい二人として出席することを目標に、この半年間何度も手紙を送り懐柔を図ってきたが、ヴィジェルの態度は良くも悪くもなっていない。凪だ。

手紙を送ればちゃんと返事をくれる。
こちらの心配もしてくれる。
手紙で怒られたときについうっかり出てしまったアマリアへの舌打ちを最後に、約半年間一度もしていないことも褒めてくれた。
筆頭聖女の結婚式に出席するための衣装を揃いで仕立てることも賛成してくれたし、実物を見るのが楽しみだとも書いてあった。
少しは仲を改善できたと思いたい。

「ヴィジェル、ドレスの調整を頼もうと思うのだが、明日でいいかい?」
「はい。あの、お手紙では書きましたけど、仕立ててくださってありがとうございます!楽しみにしていたんですよ」

笑顔で答えてくれるヴィジェルに、アンニーバレはほっとする。

「あ、そうそう。今日のお夕食後に友人を一人招いても構いませんか?」

夕食後という時間帯に眉根を寄せそうになるアンニーバレだが、笑顔で了承した。

「私も挨拶をしてもいいかい?」
「もちろんです。というよりも、公爵様に紹介したい方なんです」
「私に?」
「ええ。そういうわけで、リガート。お客様がいらしたらお通ししてね。艶やかな蜂蜜色の髪の凛とした素敵な方よ」

いったい誰なのだと質問したいが、長旅から到着したばかりのヴィジェルを休ませてやらねばならない。それではまた夕食のときに、と言って、二人は一旦別れた。

領地での話、旅の話、帰りにも寄ったヴィジェルの実家で会った甥や姪、弟たちの成長などを話しながら和やかに夕食を終え、お茶でまったりとしていたところに、来客を告げられる。

二人で客間に移動して迎えた相手は、ヴィジェルの言葉通り、艶やかな蜂蜜色の髪をゆるりと編んだ美しい女性だった。

「ルシラ!久しぶりね。相変わらず、ひれ伏したくなる美しさだわ」
「ヴィジェル様、今宵はお招きありがとうございます。ふふ、筆頭聖女様の美しさを見慣れているヴィジェル様にそんな風に言っていただけるなんて嬉しいわ」
「公、旦那様。こちらはルシラです。ルシラ、こちらが私の旦那様のアンニーバレ・ベルヌーイ公爵です」
「アンニーバレ・ベルヌーイだ。よろしく」
「ルシラです。公爵様にお会いできて嬉しく思います。以後お見知りおきくださいませ」

ヴィジェルと話すときは単に美しい女性というだけであったが、アンニーバレに向ける視線は妖艶で、まさかとは思うが自分を誘惑しているのではと勘繰りたくなる甘やかさをはらんでいた。

ヴィジェルはこの女性に利用されているのではないかと心配になって、ヴィジェルに視線を向けるが、にこりと笑顔を返されるだけであった。

席に着き、お茶ではなくお酒とおつまみが用意してもらい、ヴィジェルは人払いをする。

一体何なのだと訝しんでいるアンニーバレに、ヴィジェルはさらりと言った。

「旦那様、私好きな人ができました」

「・・・・・・は?」


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