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ロウ(狼人間/105歳)
01 1階→二階(満月の夜、五感神経、研ぎ澄まされた能力)
しおりを挟む狼人間のロウはダンジョンに足を踏み入れた。
今宵は満月。狼人間にとって満月の日は最高に心が高ぶり、力が湧く。
毛皮で覆われた筋肉質な足からは類まれなる瞬発力と、指先から延びる鋭利な爪で攻撃を仕掛け、獣の牙は肉を切り裂く。
「…いい日だ。ダンジョンに挑むには絶好のタイミングになった。この世に生まれて百年余り、何があろうとも俺の攻撃には誰も叶うわけがない!」
狼人間の寿命は長く、その体も頑丈だ。熱さ寒さにも強いため、刃物で刺されても傷はほとんどつかない。それどころか視力が大変優れ、味覚嗅覚聴覚など全てにおいての能力も高い。
獣の本能がより一層濃くなる満月の日の夜、ロウはダンジョンに挑戦するのだ。
ダンジョン管理者のエログロスは思った。
狼人間は満月の夜、能力を一番発揮することができる、ということは結構前から知っている。
今まで別の狼人間に出会ったことはあるし、何度か話をしたこともある。彼らの寿命は長く、百年以上は生きるらしい。確かに彼らの鋭い牙や爪は尖っていて、もし突かれでもしたら痛いと思う。
そう、痛いとは思う。思うのだが。
「だからって別にこんな夜遅くに来なくってもさ~。今何時だと思ってるの、もう深夜だよ。眠いんだけど!」
先程までぐっすりと眠っていたエログロスは、ダンジョンのブザーがあまりにもうるさくて目が覚めた。無視し続けていたが、鳴り止まない音が耳障りで眠れたものではない。
しぶしぶ起きて監視部屋に行ってみれば、画面の向こうには挑戦者の姿があった。挑戦者の登録名簿に狼人間のロウとあるのを見て、エログロスはため息をつく。
「…今度から挑戦時間を決めておこう。看板も買って立てよう。深夜の挑戦は今日が最後だよ」
エログロスは眠そうな目を擦りながらそう言って、ダンジョンの扉を開いた。それにしても眠い。
ダンジョンの入口が開き、ロウは鼻息荒く進みだした。
室内は真っ暗だった。シンと静まり返り、気味の悪い空間。しかし狼人間の視力は暗闇に強い。真っ暗な中でもしっかりとした足取りである。
「…何だこの香りは」
ほのかに甘い香りがする。何やら怪しい、とロウは鼻を手で覆う。もしかすると神経毒のようなものかもしれない。
キィ…、キィ…、キィ…
「誰だ!!」
何かの軋む音がしてロウは振り返った。しかし、誰もいない。取り付けられている換気扇が回る音だったらしい。耳が良すぎるのも困ったものだ、とロウは気を取り直して進む。
何も起こらないことに疑問を感じ、時々ロウは周囲を見回す。やはり何も起こらない。先ほどの甘い香りがしただけだった。
「気味の悪い部屋だ。何も起こらない。だが常に警戒していなければ…」
緊張のせいか、神経が少しずつ高ぶっているように感じる。
ロウは荒くなりつつある息遣いを落ち着かせるために深呼吸をした。もうあの甘い匂いはしなくなった。嗅覚が過敏になっているせいで毒か何かかと勘違いしたのかもしれない。
どこからか吹いてくる風が心地いい。滲んだ汗を拭い、足は確実に二階へ繋がる階段へと向かってゆく。
エログロスは睡魔と戦っていた。
あれから一時間、ロウの動きを見ていると、太極拳でもしているのかと思うほどの遅い動作に睡魔が襲ってきた。
トラップを仕掛けようと思ったが面倒になり、いっそ暗闇がトラップでいいじゃないか、と思ったので何もしなかった。
だがそれではダンジョン挑戦者に申し訳ないので、仕方なく媚薬香を適当にばら撒いてみたのだが、結構隙間風に飛ばされた。ほのかに香っていたみたいだったから良しとしたが。
「ふわあ~、眠い~。次の階で適当にトラップ仕掛けて退場させたらいっか~…」
エログロスはガクンガクンと睡魔で頭を揺らしながら、二階の監視カメラの映像を見た。
室内は真っ暗だった。当然だろう、部屋の電気は節約のため全部切っているのだから。
とりあえず遠隔操作で電気をつける。
「あああ…、トラップどうしようかなぁ…。はぁ、眠い。眠すぎる。何で僕はこんな時間に睡魔と戦いながら挑戦者のためにトラップを考えているんだ…。はぁ…、ね、眠い…」
エログロスの体力はそろそろ限界。今にも睡魔に負けてしまいそうだ。
一方、狼人間のロウは、未だに一階の真っ暗な部屋の中をゆっくりと歩いている。
慎重に、慎重に、神経を研ぎ澄ませ、歩く。何のトラップも無い部屋の中を。
エログロスは一階のトラップを諦めたので、これ以上慎重に行動しなくてもよいのだが、何も知らないロウはこれでもかというほど神経を研ぎ澄ませ、ゆっくりと歩いているのだ。
「はぁっ、…はっ、……はぁっ、……もう少しで二階へ上がる階段だ。…慎重に行動するのだ、慎重に…」
緊張のせいでロウの息遣いは荒い。滴る汗が地面を濡らし、五感の神経は満月の力により昂ってゆく。
とうとう始めの目的である階段が目の前に現れた。
「ふうっ、…ふうっ、…ふうっ……。流石にこの俺でも、暗闇の中で神経を使うのは骨が折れる。もしやこれが敵の作戦だと言うのか。何と気味の悪いトラップだ…」
そう言ってロウは階段を静かに上り始めた。
エログロスの予定では、二階で適当に仕掛けたトラップにて退場させるとのことだが。
どうなることやら。
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