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月に一度の会食は、王族や上級貴族の一部が集う豪華絢爛な宴です。貴族であれば誰もが憧れる催しで、それに招待されることは家の誇りでした。
そのような誉れ高い会食に、私は第三王子ディートハルト様の妻として参加するのです。会食は夕方からなのに、朝から身支度が始まります。
朝、私の目の前に現れたドレスには度肝を抜かれました。深紅のベルベットのドレスです。裾と袖には金糸で刺繍がなされており、胸元には大小さまざまな宝石が付けられていました。見るだけでもあまりの美しさにくらくらするのに、実際に着たらどれだけ夢見心地になるだろうかと妄想しました。
会食の時間となり、会場の大広間の席に座ると、そこには王家と上級貴族の錚々たるメンツが佇んでいます。しかしその中で、シルヴィア様の姿が見当たりません。私は隣にいるディートハルト様に「シルヴィア様は……?」と尋ねました。
するとディートハルト様は笑顔で「そのうちわかるよ」と返してきました。彼が笑顔だったので少し安心したのですが、どういうことなのだろうという感じでした。
まもなく出来たての料理が運ばれてきました。使用人たちが続々と入り、テーブルはごちそうで埋められていきます。
そんな中、なんとシルヴィア様が使用人に混ざって給仕をしていたのです。シルヴィア様はテーブルに一皿置いたあと、席に座る面々に明るく挨拶しました。
「みなさま。本日の会食の準備には、わたしシルヴィアも加わりました。月に一度の宴を楽しみましょう!」
王族には料理や裁縫などの英才教育もあるので珍しい行いというほどではありませんが、シルヴィア様が料理などの準備を手伝うという話は聞いたことがありませんでした。
私はディートハルト様に小声で尋ねました。
「シルヴィア様はいつもあのように献身的な奉仕を……?」
ディートハルト様は首をかしげました。
「初めて見た。いちおう朝報告はもらっていたけど……心境の変化でもあったのかな」
シルヴィア様は国王陛下や王妃様を始め、会食の参加者一人一人に挨拶をしつつ、紅茶とブドウ酒を注ぎました。
「ビアンカ様。先日はおしゃべりしてくださってありがとうございました。楽しかったですね」
以前とは打って変わって、シルヴィア様は愛らしい笑顔を見せてくれました。私のティーカップを念入りに拭いたあと、紅茶を注いでくれます。
「こちらこそありがとうございました。今日は会食のご準備……誠にありがとうございます」
私は形式的な返答だけをして、シルヴィア様の顔色をうかがいました。変わらず彼女は満面の笑みを浮かべたままです。ひととおりの給仕を終えると、席につきました。
国王陛下のご挨拶が終わり、みなが食事を取り始めました。やはりシルヴィア様はいつも以上にニコニコしています。不気味でしかたありません。会食のときだけ彼女はこんな顔をするのでしょうか。
私は彼女の笑顔の理由がわからないまま、ひとまずティーカップに手を伸ばそうとしました。
そのときです。
ディートハルト様が「待って。飲まないで」と止めてきました。私は手を引っ込めました。
「どうしてですか?」
ディートハルト様は私の紅茶を凝視したあと、カップを持ち上げ、様々な角度で光を当てました。
(何か埃でも入っていたのかしら……)
ディートハルト様はティーカップを持ったまま立ち上がり、シルヴィア様のそばまで歩いて行きます。その後シルヴィア様の肩を叩き、それをテーブルに置きました。
その瞬間、シルヴィア様の笑顔が急に真顔へ変わりました。シルヴィア様は目を細め、ティーカップを見つめています。
ディートハルト様がシルヴィア様に言いました。
「これはビアンカの紅茶だが……シルヴィア……君が飲んでみてくれないか?」
そのような誉れ高い会食に、私は第三王子ディートハルト様の妻として参加するのです。会食は夕方からなのに、朝から身支度が始まります。
朝、私の目の前に現れたドレスには度肝を抜かれました。深紅のベルベットのドレスです。裾と袖には金糸で刺繍がなされており、胸元には大小さまざまな宝石が付けられていました。見るだけでもあまりの美しさにくらくらするのに、実際に着たらどれだけ夢見心地になるだろうかと妄想しました。
会食の時間となり、会場の大広間の席に座ると、そこには王家と上級貴族の錚々たるメンツが佇んでいます。しかしその中で、シルヴィア様の姿が見当たりません。私は隣にいるディートハルト様に「シルヴィア様は……?」と尋ねました。
するとディートハルト様は笑顔で「そのうちわかるよ」と返してきました。彼が笑顔だったので少し安心したのですが、どういうことなのだろうという感じでした。
まもなく出来たての料理が運ばれてきました。使用人たちが続々と入り、テーブルはごちそうで埋められていきます。
そんな中、なんとシルヴィア様が使用人に混ざって給仕をしていたのです。シルヴィア様はテーブルに一皿置いたあと、席に座る面々に明るく挨拶しました。
「みなさま。本日の会食の準備には、わたしシルヴィアも加わりました。月に一度の宴を楽しみましょう!」
王族には料理や裁縫などの英才教育もあるので珍しい行いというほどではありませんが、シルヴィア様が料理などの準備を手伝うという話は聞いたことがありませんでした。
私はディートハルト様に小声で尋ねました。
「シルヴィア様はいつもあのように献身的な奉仕を……?」
ディートハルト様は首をかしげました。
「初めて見た。いちおう朝報告はもらっていたけど……心境の変化でもあったのかな」
シルヴィア様は国王陛下や王妃様を始め、会食の参加者一人一人に挨拶をしつつ、紅茶とブドウ酒を注ぎました。
「ビアンカ様。先日はおしゃべりしてくださってありがとうございました。楽しかったですね」
以前とは打って変わって、シルヴィア様は愛らしい笑顔を見せてくれました。私のティーカップを念入りに拭いたあと、紅茶を注いでくれます。
「こちらこそありがとうございました。今日は会食のご準備……誠にありがとうございます」
私は形式的な返答だけをして、シルヴィア様の顔色をうかがいました。変わらず彼女は満面の笑みを浮かべたままです。ひととおりの給仕を終えると、席につきました。
国王陛下のご挨拶が終わり、みなが食事を取り始めました。やはりシルヴィア様はいつも以上にニコニコしています。不気味でしかたありません。会食のときだけ彼女はこんな顔をするのでしょうか。
私は彼女の笑顔の理由がわからないまま、ひとまずティーカップに手を伸ばそうとしました。
そのときです。
ディートハルト様が「待って。飲まないで」と止めてきました。私は手を引っ込めました。
「どうしてですか?」
ディートハルト様は私の紅茶を凝視したあと、カップを持ち上げ、様々な角度で光を当てました。
(何か埃でも入っていたのかしら……)
ディートハルト様はティーカップを持ったまま立ち上がり、シルヴィア様のそばまで歩いて行きます。その後シルヴィア様の肩を叩き、それをテーブルに置きました。
その瞬間、シルヴィア様の笑顔が急に真顔へ変わりました。シルヴィア様は目を細め、ティーカップを見つめています。
ディートハルト様がシルヴィア様に言いました。
「これはビアンカの紅茶だが……シルヴィア……君が飲んでみてくれないか?」
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