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20.なんでそんなこと知ってるの?
しおりを挟む外は快晴で、春先の朝は少し肌寒いけど、空気が気持ちよかった。
広い海にぽつんとあるこの島には、魔物が多い。
魔物は、魔力だけで動く命のないもので、この辺りの海にはよく沸いてくるらしい。
そしてここは、そんな魔物がうろつく城。だから、城をうろついていてそのまま崩壊した魔物の破片なんかが、城の周りに散らばっている。
城の周りでは、魔法の道具や武器を作り出すための素材を取るための魔法の植物なんかが育てられていて、それらは、定期的に手入れをしないと、増えすぎたり、庭を荒らしたり、魔物を呼ぶ餌になってしまうこともあるらしい。
だから、定期的な整備が必要。それで城主も、俺に頼んだんだ。
しかし、庭はかなり広大だ。
この島にあるのは、小さな船着場と、船を誘導して島に入る人たちを案内するための灯台、それとこの城。あとは、城の中で使う食糧を育てるための広い畑と、魔法の植物を育てたり、魔獣を放し飼いにしておくための庭、その周りに森が広がり、あとは小さな湖があったはず。
庭は、城の裏に、畑と一緒に森に囲まれるようにしてある。そこには巨大な魔法の植物も植えられているから、庭の方が森よりも迷いやすくなっているところもある。
そこは城にとって大切な食糧や素材を確保するための場所だから、四六時中、警備兵がうろついている。けれど彼らは魔物退治で手一杯。それだけ魔物が多いところなんだ。
周りの様子に気をつけながら、ビクビク歩く俺とは違い、ティウルは楽しそうだ。彼の魔力なら、魔物なんて怖くないんだろうか。だけど、魔力があるだけでは、魔物に対抗することはできない。魔法として攻撃できないと、魔物が襲って来ても、できるのは逃げることだけだ。
魔力で体を守ることはできるから、怖いとは思わないのかな……?
今の時点では、主人公ティウルに使えるのは、いくつかの簡単な魔法だけのはず。だけど、もしかしたらまた、ゲームとは変わっているのかもしれない。
なぜなら、ゲームの悪役令息はもっと魔法が使えたからだ。
眠りの魔法すらうまく使えないような俺は、ゲームの悪役令息に比べれば、めちゃくちゃ弱い。俺が悪役やってる時点で、だいぶゲームと違う。手下のヴァグデッドだって、令息の俺を追いかけてくるし……
ヴァグデッド……ちゃんと目を覚ましてご飯食べたかな……
俺は、前を歩くティウルを呼び止めた。
「て、ティウル……あの、整備は、向こうからやろうと思うんだ」
「え? 向こうって……」
ティウルは少し迷った様子で、俺の指差した方に振り向いた。
戸惑うのも無理はない。向こうの方は畑がある方で、食糧を育てる場所だ。あまり魔物は出ないけど、魔法の植物もないし、魔物の破片が散らばったりもしない。つまり、整備に行くには思えない場所ということだ。
「その……い、いきなり魔物が出るところに行くのは怖いと思って……さ、先に、魔物が少なそうなところから行っておきたいんだ! その……どうかな?」
「……うん! もちろん!! いいよ!」
彼が同意してくれて、ほっとした俺は、彼を連れて、庭の方に急いだ。
この先では、早春の今の季節は、魔力を持つキノコを育てている。たしか、そこそこ大きなキノコで、主人公がシチューに入ったキノコの多さにびっくりして、キノコ嫌いを王子に咎められるシーンがあったはずだ。
「あ、あの……キノコ、苦手だよね?」
「……なんで知ってるの?」
「へ!?」
あ、そうか……昨日会ったばかりの人が自分の好き嫌いを知ってたら、びっくりするか。
「な、なんとなく、そんな気がしたんだっ……あの……王子も苦手だから! 安心して!」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「へ!? あー……それは、その……俺はこう見えてあくやくっ……じゃなくて、公爵令息だから! 会ったことがあるんだ!」
「……ふーん…………」
「この先にはキノコがたくさんあるから……嫌だったら言ってくれ!」
「……」
な、なんだか目が怖い……
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