虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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50.二人目の

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 チミテフィッドは、森で殿下に拘束された時に、すでに殿下が王城へ送っている。こんなところにいるはずがない。それなのに、彼はここにいるってことは、誰かが手引きしているからだ。
 余計なことを知った僕らを、本気で殺す気か? 僕はともかく、王族であるロヴァウク殿下を狙うなんて。

「あ、ありがとうございました……殿下」

 僕が頭を下げると、殿下は何だか嬉しそうに笑う。呑気な人だ。笑っている場合じゃないのに。

「さっきチミテフィッドを守ってくれたことにはお礼を言いますけど……お、お怪我はございませんか!?」
「全くない。貴様は俺を誰だと思っている?」
「第五王子殿下です! 護衛もつけずに裏通りをフラフラ歩くなんて、あり得ない人です!」
「貴様……フラフラとはなんだ。俺は警戒もせずにうろついていたわけではない」
「そ、それは分かっていますが、危険だと言っているんです! 護衛もつけずに、こんな危ない通りを歩かないでください!」
「……? どうした? 何をそんなに焦っている?」
「何を? 王子殿下が襲われたら誰でも焦ります!」
「何度も俺と切り結んでいる男が何を言う」
「僕は殺す気でやってません!」
「そうか。今度から殺す気でやれ」
「殿下は僕を死刑囚にしたいんですか!?」
「安心しろ。貴様が何をしても、俺を殺すことはできない」
「やってみますか? ……じゃなくて、そういう問題じゃありません! ちゃんと護衛をつけてください! できるだけたくさん!!」
「いらん。護衛など、四六時中あれは危険だそれは危険だそこへ行くなそれをするなと口うるさい。鬱陶しいだけだ」
「……」

 この王子は……!! 今しがた危険な目にあったばかりなのに!

 ロヴァウク殿下は平然とチミテフィッドに近づいていこうとする。

「ち、ちょっ……待ってください!! 殿下!! 危険って言ってますよね!? 僕が行きます!」

 僕は、倒れたチミテフィッドに駆け寄ろうとしたけど、すぐに立ち止まった。彼の体に巻き付いた水が、微かに濁るのが見えたからだ。

 チミテフィッドの魔法じゃない。だけど、ロヴァウク殿下の魔法の拘束に抗おうとしている。敵は、彼だけじゃなかったのか?

 すぐに周囲に、魔力を探知するための魔法をかける。相手の魔力を感じ取るための魔法だ。そしてすぐに、近くに魔力を感じた。誰かが近くにいる。僕らを見下ろしている。

 すぐに、ロヴァウク殿下に知らせなくては。それも、僕らを監視している人物には気づかれずに。

 僕は咄嗟に、その場に倒れた。

 突然僕が倒れて、ロヴァウク殿下が僕を抱き止めてくれる。道路に倒れるつもりだったのに、殿下が抱き止めてくれたから、少しびっくりした。

 な、なんだか抱き起こされているみたいで恥ずかしい……すぐに「大丈夫です!」って言って離れたいところだけど、今は殿下と、できるだけ至近距離で話がしたい。敵を油断させながら。

 ロヴァウク殿下は、力が抜けたように彼にしなだれる僕に向かって、心配そうに言う。

「レクレット!? どうした!?」

 やけに慌てた様子で言う彼に、僕は声を小さくして言った。

「殿下……僕は大丈夫です……」
「貴様……俺を謀ったか?」

 ロヴァウク殿下も、すぐに声を小さくして答えてくれる。明らかに僕が無事なことを知って、しかも、僕が倒れる演技なんかしたから怒っているはずなのに、それでも、抱き上げる仕草や心配そうな表情だけは崩さない。

 殿下も、気づいてる。誰かが、僕らを見下ろしている。二人目の刺客がいる。

「……殿下も、気づきましたか?」
「ああ……貴様の背後の倉庫の裏の商店の煙突の裏だ」
「も、もうそこまで……」

 なんだよ。僕より、よっぽど気づいているじゃないか。さすがだよ。僕は、誰かが僕らを見下ろしていることにしか気づかなかったのに。

 なんだか悔しい……僕、これで他人に負けたこと、なかったのに。後でどうやったのか聞いてみよう。

「敵の目的は、僕らの監視でしょうか?」
「それなら、チミテフィッドの拘束を解こうとはしないだろう」

 殿下は、微かに首だけを、倒れたチミテフィッドの方に向けた。

 敵はチミテフィッドを逃がそうとしているのか? 確かに、チミテフィッドのものでない魔力が、鎖のように絡みついているみたいだけど、なんの魔法がかけられているのかは全く分からない。

「魔法の正体が見えますか……?」
「いいや……相手は随分な使い手のようだ。だが、気をつけた方がいい。チミテフィッドの仲間なら、あいつのように、子爵から毒の魔法を扱う道具を持たされているかもしれない」
「……」

 チミテフィッド以外にも、ランギュヌ子爵から魔法の道具を持たされた刺客がいるのか……

 良からぬ連中と付き合っては僕らに刺客を送るランギュヌ子爵といい、駅の魔物を放置するディロヤル伯爵といい、ろくなことをしない。

 チミテフィッドみたいな、ランギュヌ子爵の手駒が、自分の領地をうろついて、ディロヤル伯爵はなんとも思わないのか?
 あの粗悪な素材を没収した時も人買いとの時も思ったけど、ランギュヌ子爵、他人の領地でやりたい放題していないか?
 ディロヤル伯爵は、なんでそういうの黙認しちゃうかな……お陰で、森の中から、ずっと変な刺客に付け狙われてる。魔物のことも放置しているみたいだし、あの伯爵には自分の領地を守る気がないのか。

 ロヴァウク殿下は、警戒は解かないまま、表情も変えないまま、僕に囁く。

「解毒の魔法は使えるか?」
「僕、回復魔法の類はまるでダメなんです……」
「では、俺が貴様を守る。俺がチミテフィッドに近づいて刺客が油断したら、その隙に貴様は刺客に飛び掛かれ」
「は!?? え、ちょ……」
「心配せずとも、相手の毒の魔法からは、俺が守ってやる。回復の類なら、城で俺の右に出る奴はいない」
「そ、そうじゃなくて、囮なら僕が行きます」
「貴様が行ったところで、相手は俺の方に意識をやる。悪いが、俺は第五王子だ」
「だからです!」

 普段、王だなんだって言って胸を張るなら、こんな時こそ王様らしく振る舞って、僕を行かせればいいのに。
 こんな時だけ「第五王子だ」なんて言って、僕と殿下なら誰もが殿下の方を狙う、なんていう嫌な現実を突きつける。
 僕と殿下、罠に引っかかって敵が油断するなら殿下の方。そんなの、僕にだって分かってる。だけど、僕は殿下がそんな風に危険な目にあうのは嫌だ。

「殿下! 僕はっ……!」
「騒ぐな。監視趣味の下郎に気づかれる」

 そうじゃなくて、罠にかかる囮役なら僕が行くよ!! 殿下は殿下だろ!! 無茶はやめてほしい。
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