普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

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8.怒ってる……

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 レヴェリルインはとぼけているけど、僕はベッドの中にいる。彼が僕をここに隠したのは、王子から隠すためだったんだ。

 だけど……布団の中って、これ、バレないのか?

 とぼけるレヴェリルインに、王子はニヤリと笑って続ける。

「あんな廃棄物一つ処分できないから、あなた方は陛下の怒りを買うのだ……お二人とも、高名な魔法使いだというのに、なんて勿体ない!! ご自身の経歴に傷がつかないうちに、ぜひ、あれは処分するべきだ。なんなら、私が手を貸す。だから」
「必要ない」

 にべもなく断るレヴェリルインに、さすがに王子も、眉を顰める。

「あなたには、今の自分の立場が分かっているのか? 城ごと破壊されたくなかったら、私の手を取るべきだ。それがなぜ分からない? この際だから、話そう。国王陛下には、すぐにここを破壊するように言われている。それを……私はこうして待ってやっているんだ。我ながら、自分の思い切りの悪さに呆れそうだ。陛下より賜った金貨を全て私的なことに流用したばかりか、いつまで経っても廃棄物の処分ひとつできないあなた方に、こうして声をかけているなんて。それなのに、さっきから二人揃ってその態度はなんだ? さすがはあの屑の弟だ。私がこうして頼んでいるうちに、態度を改めた方がいい……城と共に死にたいのなら別だが。あの廃棄物はどこだ?」

 王子が探るように言うのを聞いて、僕は震え上がった。

 廃棄物って、絶対に僕のことだ。じゃあ、王子は僕を処分しに来たのか? 僕が処分されてないせいで、レヴェリルインたちが責められているのか?
 しかも、城が廃棄処分だなんて……それに、まるでレヴェリルインたちまで一緒に殺されるような口ぶりだ。
 僕のせいで二人が責められて、城まで破壊されるのか……??

 王子はずっとレヴェリルインから目を離さなかったけど、ちらっと、僕の方を見た。もしかして、僕に気づいてる?!

 ベッドにいるだけなんだから、布団が盛り上がっていれば、おかしいことくらいすぐにわかるはず。
 気づいてて、レヴェリルインに言ってるんだ。僕はどこだって。試しているんだろう。僕を差し出すか。

 だけど、レヴェリルインは答えない。代わりに首を横に振って言った。

「あいつはここにはいない」
「……」

 王子は無言だった。王子にしてみれば、それは、自身に対する反逆みたいなものだったんだろう。

 レヴェリルインはいつもこうだった。全然僕とは目を合わせたり話したりしないけど、僕の前に立って、僕を殺そうと伸ばされる手から守ってくれたんだ。
 何日も食事抜きにされていた僕に、こっそり食事を持ってきてくれて、ここにいろって言って、いつも僕を部屋に置いていく。外に出ると、さっさとそれを廃棄しろって言われて、僕が指さされて俯くことを知っているから。
 それなのに、僕はまだこんなところに隠れたまま。

 このままじゃ、レヴェリルインまで、僕と一緒に処分される。

 ここにいろって言われたけど……

 僕は、ビクビクしながら、布団を下ろした。

 出てきた僕に、レヴェリルインはすぐに振り向いたけど、僕は彼の顔を見ることができなかった。だって、僕なんか庇ってしまったから、こんなことになったんだ。

 王子は、ますますバカにしたように言った。

「あなたがもたもたしているから、自分から出てきたようだな……あなたの失敗作の方が、利口じゃないか」

 そう言って、僕に伸ばされようとした王子の手を、レヴェリルインは振り払って、僕に振り向く。

「出てくるなと言っただろう」
「…………はい」

 答えて恐る恐る顔を上げると、レヴェリルインはめちゃくちゃ怖い顔で僕を見下ろしていた。
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