普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

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20*レヴェリルイン視点*捕まえる

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 苛立つ俺に、ドルニテットはますます呆れたように言う。

「そんな風にキレるなら、なんでゲス兄にコフィレグトグスのそばにいるように言ったんですか……」
「魔法が使えないコフィレグトグスでも、あいつの魔力があれば、使えるようになるかもしれない……あんな奴、魔力補給用のタンクだ。それを……あんな風に抱っこされやがって……」
「兄上、すぐ怯えられるんだから、そんな顔してたらダメです。あんなの、何がいいんですか? 兄上だったら、その横暴なところと、すぐに魔法を振るうところと、だいぶ鬱陶しいところを治せば、どんな相手も選び放題ですよ」
「治すところが多いな……鬱陶しい?」
「気にしないでください」
「なる。それを治さないと、あいつに嫌われるかもしれないじゃないか」
「嫌いとか好きとかいう以前の問題ですよ。あれは」
「あいつはああいうところがいいんだ」
「……さっぱり分かりませんが……そんなに嫌なら、やめろ、その犬を下ろせ、必要以上にくっつくな、と言えばいいでしょう。何でも聞きますよ、コフィレグトグスは。あなたが言えば。俺はあいつの言葉で『はい』以外をほとんど聞いたことがない。呼び方だって、気になるのなら、元伯爵のことは名前で呼ぶなと、そんなに馴れ馴れしくするなと言えばいいんです。自分のことも愛称で呼んでくれって言えば良いじゃないですか」
「俺は言うことを聞いて欲しいんじゃない。俺が何か言えば、コフィレグトグスは、はいと言うに決まっている。だが、命令して呼んでもらうなんて虚しいだろう! 俺はあいつに自分から呼びたいと思ってもらって、自分の意思で呼んでほしいんだ!!」
「めんどくさ……」

 ドルニテットには分からない。俺は面倒じゃないし、コフィレグトグスはああいう面倒なところがいいんだ。

 そうだ。こんなことをしている場合じゃない。

 俺はコフィレグトグスに近づいて、彼に飛びついている犬を剥ぎ取った。

「バルアヴィフ……悪ふざけがすぎるぞ……」
「そ、そんなに怒らないでよ……わっ……!!」

 魔法をかけてやると、バルアヴィフは小さな馬に姿を変える。さすがのバルアヴィフも、これには慌て出す。

「お、おいっ!! まさか馬車馬の件、本気じゃないよな!? おい!!」
「うるさい。コフィレグトグスから離れるな。あと、近づくな」
「む、矛盾してないかな……それ……」

 まだぶつぶつ言っているバルアヴィフを無視して、俺は、コフィレグトグスに手を貸した。

 けれど彼は、差し出された手をどうして良いのかわからないらしい。俺の出した手と俺の顔を交互に見て、少し遅れて、やっと俺の手を取った。

 コフィレグトグスはいつもこうだ。手を差し出しても、何をされているのか分からない。声をかけても、なぜそうされているのか分からないらしい。俺はこいつの手を取りたくて、こいつの話を聞きたくて、そうしているのに。

 コフィレグトグスがビクビクしながら伸ばした手を、俺は強く握った。その手は震えている。手は握ったのに、まだ捕まえた気がしない。まだ手に入れた気がしない。
 何度捕まえた気になっても、いつもそうだ。逃げられた気になる。

「……バルアヴィフに必要以上に近づくな。お前のマスターは俺だ」
「……はい……」
「……」

 また、はい、か。こいつの同意を聞くたびに、逃してしまったような気になる。

 そう思って何度も手を差し出すのに、何度捕まえた気になっても、こいつは俺の手の中にいない。俺と目も合わせてくれない。

 久しぶりにこいつの「はい」以外の声を聞いたと思ったら「僕を殺して」だ。
 ふざけるな。俺はこいつを逃す気はない。

 コフィレグトグスは、まだおどおどした様子で俺を見上げている。俺のことが怖いのだろう。よほど逃げたいに違いない。

 けれど、俺はこいつを逃せない。
 何度も後悔した。他の方法があったんじゃないかと。
 それでも。どうしても。
 こいつを捕まえたい。

「街へ向かう。ついてこい」
「はい!」

 いつもみたいにそう答えて、コフィレグトグスは俺についてくる。まだ、捕まえた気がしない。

 コフィレグトグスを捕まえるために邪魔になるものは、全て俺が消してやる。

 城は消した。

 しがらみでこいつを縛った城は、もうない。

 次は、俺たちの邪魔をするあの王子……あれを消すか。
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