24 / 105
24.マスターにまで失望されたらと思うと
しおりを挟むそこにあったスツールに僕を座らせて、レヴェリルインは人の姿に戻ると、僕の前に跪いた。
「ま、マスター!?」
「じっとしていろ」
「え、でも……でも……」
「俺の言うことが聞けないのか?」
「い、いえ!!」
じっとしてろって言われたらするけど……だ、だけど、僕だけ座ってるのは、変じゃないか! だって、ここまで歩いてきたレヴェリルインだって、疲れているのに。それに、本来なら僕が跪くはずなのに、目の前で彼に膝を床につかれて、僕はどうしていいかわからない。
慌てるばかりの僕の前で、レヴェリルインは、魔法でバケツを呼び出した。その中には、水がなみなみ注がれている。それにタオルをつけて、彼はそっと僕の足に触れてきた。
すると、足の痛みは驚くほど簡単に消えた。
「これでいい……コフィレグトグス」
「…………はい……」
……もう全然痛くない。
だけど、レヴェリルインの方だって、僕と同じように、外を歩いてきたんだ。僕だって、何かお礼がしたい……
「あ、あの…………」
「どうした?」
「……あの……ま、マスターも…………」
「……? どうした?」
「…………あの、あ、あ、あし……あ、足っ……と、靴が汚れています……」
「俺のは気にしなくていい」
「あっ……でもっ……! 待って!!」
レヴェリルインが立ち上がろうとして、僕はつい、縋るようにその服を掴んでしまった。
レヴェリルインが僕に振り向く。彼は、驚いているようだった。
僕だって、こんなことしちゃってドキドキしてる。だけどここまで来たら、やめるわけにいかない。だって、僕だけしてもらうなんておかしい。レヴェリルインは、僕を助けるために城を失って、ここまで連れてきてくれたのに。僕だって……何かしなきゃ。
「あの…………ぼ、僕も、マスターの靴…………き、綺麗に……綺麗にしたくて……その……ダメですか…………?」
「……は?」
レヴェリルインは、珍しく驚いたような声を上げていた。
何言ってるんだ……僕は。出し抜けにっ……! 絶対にレヴェリルインに引かれた。むしろ、僕みたいなの助けて、後悔してるかもしれない。お礼がしたいのに後悔させるなんて…………僕、ダメな奴だ!!
だけどここまできて、引き下がれない。
僕はいつも、レヴェリルインにしてもらってばっかりだ。
彼は、あの屋敷での冷たい目から守ってくれて、城に呼び寄せてくれた。失敗作って分かっても、僕を庇ってくれた。
それなのに、僕はいつも、蹲って震えているだけだ。
僕だって、レヴェリルインの従者。彼のために、何かしたい!!
レヴェリルインが軽く笑う声が聞こえた。
見上げたら、彼はいつの間にか大きな魔法の杖を持っている。きっと魔法で呼び出したんだ。それを僕に渡してくれる。
「靴はいい。これを頼む」
「は、はい!!」
僕は、杖を受け取った。
い、意外に重いっっ!! 落としそうになってしまう。魔法の杖にしては重すぎじゃないか!? 剣術使いが持つ大剣くらいありそう。
だけど、落とすわけにはいかない!!
なんとかそれを抱えて座って、さっそくタオルで拭こうとしたら、レヴェリルインのかすかな笑い声がした。
「そっちじゃない。これだ」
そう言って彼は、僕に不思議な刺繍が施された布を渡してくれた。
「魔力を込めたものだ。それで綺麗にしてくれればいい」
「は、はい!!」
返事をして、僕はそれを受け取った。こっちは布だから軽い。
座り込んで杖を抱えて、布でそっと拭く。拭くごとに、布からかすかな光の粒がこぼれていく。なんだか綺麗……拭けば拭くほど溢れてくる。
ずっとそれを黙って続けていたら、頭の上からレヴェリルインが僕を呼ぶ声がした。
見上げると、レヴェリルインが微笑んでいる。
「上手じゃないか」
「え?」
「……お前の装備も必要だな」
「でも…………僕、魔法が…………」
「いずれ使えるようになる」
そう言って、レヴェリルインはにっこり笑う。
いずれって……僕、もう使えなくてもいいのに。だって、使えたところで、失敗するから。
魔力を増強してまで魔法を教えられたけど失敗して、毒の魔法も失敗して、魔力を失って、レヴェリルインまでこんなことになって……
もう、魔法が欲しいなんて思わない。もう、レヴェリルインに迷惑かけたくない。
それに……魔力を得ようとして、レヴェリルインにまで失望されたら……そう思うと、怖い。
僕は、黙って杖の整備を続けた。
161
あなたにおすすめの小説
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒(https://x.com/cacaotic)さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた
風
BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。
「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」
俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる