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24.マスターにまで失望されたらと思うと
しおりを挟むそこにあったスツールに僕を座らせて、レヴェリルインは人の姿に戻ると、僕の前に跪いた。
「ま、マスター!?」
「じっとしていろ」
「え、でも……でも……」
「俺の言うことが聞けないのか?」
「い、いえ!!」
じっとしてろって言われたらするけど……だ、だけど、僕だけ座ってるのは、変じゃないか! だって、ここまで歩いてきたレヴェリルインだって、疲れているのに。それに、本来なら僕が跪くはずなのに、目の前で彼に膝を床につかれて、僕はどうしていいかわからない。
慌てるばかりの僕の前で、レヴェリルインは、魔法でバケツを呼び出した。その中には、水がなみなみ注がれている。それにタオルをつけて、彼はそっと僕の足に触れてきた。
すると、足の痛みは驚くほど簡単に消えた。
「これでいい……コフィレグトグス」
「…………はい……」
……もう全然痛くない。
だけど、レヴェリルインの方だって、僕と同じように、外を歩いてきたんだ。僕だって、何かお礼がしたい……
「あ、あの…………」
「どうした?」
「……あの……ま、マスターも…………」
「……? どうした?」
「…………あの、あ、あ、あし……あ、足っ……と、靴が汚れています……」
「俺のは気にしなくていい」
「あっ……でもっ……! 待って!!」
レヴェリルインが立ち上がろうとして、僕はつい、縋るようにその服を掴んでしまった。
レヴェリルインが僕に振り向く。彼は、驚いているようだった。
僕だって、こんなことしちゃってドキドキしてる。だけどここまで来たら、やめるわけにいかない。だって、僕だけしてもらうなんておかしい。レヴェリルインは、僕を助けるために城を失って、ここまで連れてきてくれたのに。僕だって……何かしなきゃ。
「あの…………ぼ、僕も、マスターの靴…………き、綺麗に……綺麗にしたくて……その……ダメですか…………?」
「……は?」
レヴェリルインは、珍しく驚いたような声を上げていた。
何言ってるんだ……僕は。出し抜けにっ……! 絶対にレヴェリルインに引かれた。むしろ、僕みたいなの助けて、後悔してるかもしれない。お礼がしたいのに後悔させるなんて…………僕、ダメな奴だ!!
だけどここまできて、引き下がれない。
僕はいつも、レヴェリルインにしてもらってばっかりだ。
彼は、あの屋敷での冷たい目から守ってくれて、城に呼び寄せてくれた。失敗作って分かっても、僕を庇ってくれた。
それなのに、僕はいつも、蹲って震えているだけだ。
僕だって、レヴェリルインの従者。彼のために、何かしたい!!
レヴェリルインが軽く笑う声が聞こえた。
見上げたら、彼はいつの間にか大きな魔法の杖を持っている。きっと魔法で呼び出したんだ。それを僕に渡してくれる。
「靴はいい。これを頼む」
「は、はい!!」
僕は、杖を受け取った。
い、意外に重いっっ!! 落としそうになってしまう。魔法の杖にしては重すぎじゃないか!? 剣術使いが持つ大剣くらいありそう。
だけど、落とすわけにはいかない!!
なんとかそれを抱えて座って、さっそくタオルで拭こうとしたら、レヴェリルインのかすかな笑い声がした。
「そっちじゃない。これだ」
そう言って彼は、僕に不思議な刺繍が施された布を渡してくれた。
「魔力を込めたものだ。それで綺麗にしてくれればいい」
「は、はい!!」
返事をして、僕はそれを受け取った。こっちは布だから軽い。
座り込んで杖を抱えて、布でそっと拭く。拭くごとに、布からかすかな光の粒がこぼれていく。なんだか綺麗……拭けば拭くほど溢れてくる。
ずっとそれを黙って続けていたら、頭の上からレヴェリルインが僕を呼ぶ声がした。
見上げると、レヴェリルインが微笑んでいる。
「上手じゃないか」
「え?」
「……お前の装備も必要だな」
「でも…………僕、魔法が…………」
「いずれ使えるようになる」
そう言って、レヴェリルインはにっこり笑う。
いずれって……僕、もう使えなくてもいいのに。だって、使えたところで、失敗するから。
魔力を増強してまで魔法を教えられたけど失敗して、毒の魔法も失敗して、魔力を失って、レヴェリルインまでこんなことになって……
もう、魔法が欲しいなんて思わない。もう、レヴェリルインに迷惑かけたくない。
それに……魔力を得ようとして、レヴェリルインにまで失望されたら……そう思うと、怖い。
僕は、黙って杖の整備を続けた。
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