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25.ごめんなさい
しおりを挟む杖は、僕の身長ほどもある。仕えているのに、僕はレヴェリルインがこれを使うところを見たことがほとんどない。
こうして、僕がレヴェリルインのために何かすることすら、初めて。
僕と彼は、ずっと同じ城にいて、部屋も隣で、僕はずっと彼に仕えていたはずなのに、ずっと何もしてこなかった。
……もしも、もっと前に、ちゃんと僕のことはあなたのせいじゃありませんって伝えられていたら……
僕は、泣き出しそうになるのを堪えて、なんとか全部拭き終えた。
「あ、あのっ……!」
僕が杖を差し出すと、レヴェリルインはにっこり笑ってくれる。
「よくできたな」
「……」
やけにレヴェリルインが笑うから、僕は苦しくて堪らなくなる。
もっと早く伝えられていたら、こんなことにならなかったんだ。もっと早く、僕が彼に話していたら、彼が全部を失うこともなかったんだ。
「………………申し訳……ございません……」
「……コフィレグトグス?」
「申し訳ございません!!!!」
僕は、彼の前で、額を床につけた。平伏した床が、ひどく冷たく感じた。もう、顔を上げられなかった。涙がボロボロ出てくる。
こんなつもりじゃなかった。レヴェリルインから、全部奪うつもりなんてなかった。ただ少し、ほんの少し、静かな時間が欲しかった。怯えなくていい日々が手に入る、そう夢見たんだ。そうしているうちに、いつか自分が消えてしまえば……そんな風に考えていたんだ。
もっと早く、こうできていたら、僕を連れ出してくれたレヴェリルインに、こんな思いをさせなくてすんでいたんだ。もっと早く……そんな後悔でいっぱいだった。
「申し訳ございませんっ……! ぼくっ……僕……い、い……いっぱい……助けてもらったのに……僕…………い……いつも、かっ……庇って、も……もらって……感謝……かんしゃ……して、い、います……っ!! あ、あなた、の……せいじゃっ……ないっ……ないん……ですっ……! 全部……全部っ……」
「落ち着け。コフィレグトグス」
「ぼくがっっ……! 僕がっ、わ、悪いんです!! な、何も……かもっ……! 僕がっ……僕がっ……し、失敗したから…………ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……ごめん……なさい…………」
泣きながら謝罪を続ける僕の頭に、彼の手が優しくふれた。
「泣くな……」
「…………ごめん……なさい……」
「魔力はいずれ返す」
「もう魔力なんていりませんっっ……!! あなたから……全部奪って…………僕なんかっ……ぼくなんかっっ……!!」
僕は、ずっと泣きじゃくっていた。
もっと早く伝えていれば、こんなことにならなかった。一番感謝しているこの人を、苦しめることもなかったんだ。
どうせなら、あの城と一緒にバラバラにして欲しかった。それなのに、彼が持っていたもの全部壊して、残ったのは、役立たずの僕。
だったらせめて……
「僕…………僕…………一生懸命仕えます! 好きに扱ってくださいっ……何をされてもいいっ…………!! どんなふうに扱われてもいいっ……! 僕なんかっ……!」
泣きじゃくる僕の、床についた手を、彼が取る。強く引っ張られて、切り落とされたっていいと思った。
それなのに、レヴェリルインは僕を抱き寄せたかと思えば、強く抱きしめた。
「必ず……魔力は返す」
「なんでっ……そんなものっ…………」
「……俺がこうなったのは、お前のせいじゃないっ……! 失敗したのは、お前のせいじゃない! わざとやったんだ」
「え…………?」
「わざと失敗したんだ。俺が……最初から成功させる気なんて、なかった……」
苦しそうに言う彼の腕の中で、僕は、体の力が抜けていった。
わざと……? 最初から、成功させる気なんてなかった??
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