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55.無我夢中で
しおりを挟む家に入って廊下を走る。後ろからはリフィノセスが僕を追いかけてくる。
な、なんでこんなことになったんだ!? って、僕が勝手に家に入ったからだ。魔法薬が入っていた瓶が欲しいだけなのに! なんとか事情を話して分かってもらいたいけど……
振り向くと、リフィノセスは僕を怒鳴りつけてずっと追ってくる。話を聞いてもらえるとは思えない。
無我夢中で逃げて、僕は階段を駆け上り、そこにあった部屋に飛び込んだ。そこは、誰かの部屋だったみたいで、小さな机とベッドがあって、一人の男の人が寝ている。
そっと近づいたら、寝ていたのは茶色い髪の、小さな犬耳の男の人。この人が倒れて起きないスキノレールか?
「おい」
「わっ……! え!? ま、マスター!??」
急に話しかけられてびっくりして、抱っこした狼を落としてしまいそうになった。
見下ろすと、マスターは僕の腕の中で、僕を見上げている。
「……何をやっているんだ……お前は……」
「す、すみません……」
謝る僕の腕から、レヴェリルインは飛び降りる。
「さっきの男には眠りの魔法をかけておいた。追っては来ないだろう」
そう言って彼は、寝ているスキノレールの上に飛び乗ると、その鼻先で彼の頬に触れて魔法をかけた。
すると、スキノレールは呻いて体を動かし始める。さっきまで、微動だにしなかったのに。
「これでもう大丈夫だ」
「え……も、もう!??」
「ああ。大した傷じゃない。回復の魔法だけで済む程度のものだ」
レヴェリルインは、僕を見上げて言った。
「すぐにこいつは目を覚ます。分かっているな? 俺は後ろにいるから、お前は薬の瓶のありかを聞き出せ」
「は……はい!!」
「杖は小さくしておけ。それと、突っかい棒のように使うな!!」
「は、はい! すみません……」
「ギルドのことと、魔法使いのことは話すな。リフィノセスの知り合いとでも言っておけ」
「は、はい! ま、まかせ……お任せください!」
裏返った声で返事をしたら、小さな狼の姿のレヴェリルインは、僕に近づいてきて、その前足で僕の足に触れた。
「え……ま、マスター?」
「お前のそばに俺もいるんだ。いざとなれば、俺が瓶を強奪してやる」
「マスター…………で、でも……強奪は……」
「冗談だ。とにかく、俺がいるんだから、そんなに思い詰めるな」
「…………はい!」
返事をしたら、少し落ち着いた。レヴェリルインがすぐそばにいてくれているからだ。まためちゃくちゃ緊張しそうになったらレヴェリルインがそばにいることを思い出そう……
杖をもとの小さなものに戻したところで、寝ていたスキノレールが起き上がる。
「いった……何を任せるんだよ……」
「あ、え、えっと……ち、ちがっ……」
慌てる僕は、起きたばかりのスキノレールにとっては全く知らない人。彼は、訝しげに僕を睨んで言った。
「……誰? 俺の部屋で何してんの?」
「あ、あのっ……! 僕、リフィノセスさんの……し……知り合いで……」
「リフィノの? ……見たことないけど?」
「あっ……えっと…………さ、最近知り合って……」
「……どこで?」
「へ!? えっと……あの…………あ! ……ら、ラウティさんの店で……」
「ラウティの……? ああ……またか……」
「ま、また?」
「しょっちゅう遅くまで飲んでる奴らだろ? あいつと飲んでるなら、お前らからも言っておいて。朝になって帰ってくるの、やめろって」
「あ、ああ……はい……」
なんだかよく分からないけど、納得してくれたみたい。よかった……
またさっきみたいにぼろが出る前に、薬の瓶を回収しよう!!
「そ、それで……えっ……と、く、薬! ギルドから渡した、く、薬の瓶……あの、あれ、渡してくれませんか?」
「薬の瓶……?」
「は、はい!! どうしても……あれが必要なんです!! お願いしますっ!」
「それなら、確かそこの棚にあったけど……」
そう言って、彼はそばにあった棚に近づいていく。
僕もついて行ったけど、スキノレールは瓶を取り出す前に、ふらふらと棚に寄りかかってしまう。
「頭いた……」
「だ、大丈夫ですか!? 僕、瓶持って行くから、あの……ベッドにいてください!」
「うん……」
彼を支えてベッドまでつれていく。
スキノレールはしばらく頭を押さえていたけど、だんだん目が覚めてきたみたい。
「俺……どうしたんだ? なんでこんなところに……魔物と戦ってたはずなのに……」
「え、えっと……魔物にやられて、ずっと寝てたみたいです……」
「あー……そうか……そうだっ! リフィノは!? あいつはどうしたんだ!?」
「あ、あの人は大丈夫です! さっき、げ、玄関で僕らを……えっと…………あの、で、出迎え? てくれました」
「そうか……つーか、お前だれ?? なんで俺の部屋に勝手に入ってきてるの?」
「そ、それは……えーっと……あの、り、リフィノセスさん……あの、ね、眠かったみたいで、寝ちゃって……それで、えっと……」
「なんでそんなにビクビクしてるんだよ……それで、なんだよ? なんで俺の部屋にいるんだ?」
「そ、それは……あ! あの……び、瓶のありかは、あ、あなたに聞いてくれって言われて……」
「……ふーん……」
さ、さすがに嘘くさかったかな? って思ったけど、スキノレールはベッドに座って、テーブルに置いてあった水を飲んでいる。気づいてないのかな……
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