普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
57 / 105

57.反逆者

しおりを挟む

 レヴェリルインは、不思議そうに僕を見上げている。今はあんまり見られたくない。

 僕……嫉妬してるんだ。スキノレールに。マスターに、自分以外の人が触れたからって。マスターが、他の人にマスターって呼ばれたからって、そんなの、僕が口を出していいことのはずがないのに。

 何考えてるんだ。僕はただの従者じゃないか。そもそも、全く役に立ててないくせに、レヴェリルインが他の人に触れられているのが気に入らないなんて。

 彼の視線から逃れて、僕は、自分に言い聞かせた。

 こんなこと、考えちゃいけない。レヴェリルインが僕に良くしてくれるのは、彼が僕のマスターだからで、他に意味なんてない。精一杯仕えるって決めておいて、何を早速分不相応なこと考えてるんだ。

 僕は、顔を上げた。

 そして、スキノレールに向かって、頭を下げた。

「あ、あのっ……! あ、ありがとうございました!! 薬の瓶…………た! たすかりました! ぼ、僕……こ、これで失礼します!」
「うん。頼んだよ」

 スキノレールがそう答えて、その時、窓の外から大きな音がした。まるで、爆発の音のようだ。そして、その轟音とほとんど同時に、外から朗々とした声が聞こえてきた。

「反逆者レヴェリルイン!! 出て来い!! 貴様がそこにいるのは、わかっているんだぞ!!」

 この声……

 窓に駆け寄る。すると、この家の玄関の前で第五王子のクリウールトが喚いているのが見えた。彼の背後には、魔法使いたちがたくさん控えていて、みんな杖をこっちに向けている。その杖には、すでに火の玉が灯っていた。言うとおりにしなかったら、この家を焼いてしまいそうな勢いだ。

 スキノレールがそれを見て「あの馬鹿王子……家ごと焼く気か?」って、冷めた目をして言っていた。

 クリウールトは、僕らを追ってきたんだ。

 そいつの後ろにいる魔法使いたちが、ドルニテットやラックトラートさん、アトウェントラを取り囲んで、杖を向けている。
 ドルニテットは平然としているようだったけど、ラックトラートさんは今にも泣き出しそうな顔をしている。あんな風に囲まれたら怖いに決まってる。その少し離れたところに、馬になった伯爵もいたけど、誰も彼が伯爵とは気づかないのか、彼の方には見向きもしない。

 レヴェリルインは、元の姿に戻って、僕らに振り向いた。そして、突然子犬が元伯爵の弟になって驚いているスキノレールさんに「リフィノセスには少し眠ってもらっただけだ」と言って、彼に向かって小さな瓶を投げる。

「空瓶の礼の魔法薬だ。次に魔物にやられたら、それを使えばいい。邪魔したな」
「あ……はい……レヴェリルイン様……な、なんでここにいるんですか?」
「……アトウェントラが掴まされた魔法薬について調べている。アトウェントラは、騙されただけだ。倒れた連中のために、一人きりで必死になっていただけだ」

 すると、スキノレールは「知ってますよ、そんなこと」と言って、肩を竦めていた。

「ほかに魔法薬が欲しければ、その瓶を飛ばせ。使い魔になって俺の元へ飛んでくるはずだ」

 そう言って、レヴェリルインは僕の手を握った。

「行くぞ。コフィレグトグス」
「は、はい!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒(https://x.com/cacaotic)さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。 ◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。 ◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。

処理中です...