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11.消えたもの
しおりを挟む結局あれから何回挑んでも勝てなかった。家に帰してもらうこともできなくて、すごく嫌だけど、渋々フュイアルさんの部屋に泊まった。
吊るすのをやめてから、フュイアルさんは自分で言ったとおり、もう襲ってきたりはしなくて、「けが人はベッドで寝なさい」と吐き気がしそうになること言い、僕をベッドに突き飛ばし、自分はソファで寝ていた。
フュイアルさんは、いつもこういう気味の悪い気の使い方をする。なんで自分が拷問の末に強姦されそうになった部屋のベッドで寝なきゃいけないんだ。ぐっすり眠った僕も僕だが、感謝なんてするどころか、恨みが増した。
次の日の朝起きると、あの気持ち悪い上司の記憶のせいで胸焼けがした。
朝になったら全部忘れていたらいいのに……ああ……気持ちが悪い……
まだ朝早い。フュイアルさんはソファで寝ているようだ。寝ている間に刺したい。
本当にそうしようかと思ったけど、僕の中の魔力が、ダストの気配を見つけた。すっかり忘れていたけど、昨日、ダストを探した時に、この捜索の魔法をかけていたんだ。
ダストがそばにいる……もしかして、僕を迎えに来てくれたのか!? 絶対にそうだ!
窓のカーテンを開けて、魔法の双眼鏡で見下ろすと、少し離れたところの大通りを、ダストが歩いているのを見つけた。
やっぱり、僕に会いに来てくれたんだ!!
僕は、クローゼットにあった服を勝手に着て、急いでマンションを出た。
太陽の光がいつもより美しく感じる。まだ日は昇ったばかり。街は朝焼けでキラキラしている。今日は砂嵐も吹いていない。
そんな街の大通りを、ダストを見つけた方に向かって、必死に走った。
道路沿いの店は、どこも開店前で、あたりは静か。電線の上の鳥が可愛らしい声で鳴いていた。
通りの向こうから、誰かが歩いてくる。
あれって……ダストだ!!
駆け寄るけど、ダストの隣には知らない男がいた。
あれ、誰だ? なんで僕のダストとそんなに仲良さそうに話しているんだ?
男は、僕のダストと二人で歩いている。肩まで組んでる。
なんで? もしかして、僕じゃなくてそいつに会いに来たの?
ダストはなんでそんな奴にそんなふうに笑いかけるの?
ダストはいつも、僕の目の届くところにいて、僕を愛していなくちゃダメなのに、何をしているんだ?
僕が呆然としていると、正面から歩いて来たダストは、僕に気付いたみたいだ。
「……ひっ……とっ……トラシュ!?」
引きつった顔で、ダストが立ち止まる。
それが、最愛の恋人の僕に再会した態度……?
「…………ダスト………………その男、なに……?」
「こっ……こいつはっ……べ、別になんでもねえよ!! か、関係ねぇだろっっ!! 俺らもう、別れたんだからっっ!!」
「…………なに言ってるの? だって、ダストはいつも僕に酷いことするけど、後で必ず、僕のところに戻ってくるじゃん。今まで、数え切れないほど仲直りしたじゃん。だから別れてないよ。ダストはあんな酷いこと言った後だって、必ず僕と仲直りしにくるんだから」
「な、何言ってんだお前! 俺はお前のせいで大火傷したんだぞっっ!! 見ろよ、この包帯!! 医者がすげえ魔法使いだったからこの程度で済んだんだ! 俺は死ぬところだったんだぞ!!」
何を言っているんだはこっちのセリフだ。火傷なんか、どうでもいい。
それより、僕らが別れるなんてあり得ない。
ダストは僕にどれだけひどいことをしても、結局は僕のそばにいる。
ずっとそうだったし、それが当然なんだ。
それなのに、ダストは何を言ってるんだ。
隣の男がダストに「あれ誰だ?」なんて聞いている。邪魔!!
僕が放った魔法で、そいつは弾き飛ばされ、近くにあった店の壁に激突し、血を流しながら気絶する。だけど、そんなことどうでもいい。
僕にとって、唯一大切だったダストは、一歩、また一歩と後退り、僕から離れて行く。
「ぉ……お、俺らは……わ、別れたんだよっ!! どうしようが俺の勝手だ!! お前……重いんだよっ!! 気持ち悪……終わってんだよっっ! 俺らはっっ!! もう……付き纏うんじゃねーよおぉっっ!!」
……なに言ってるの? こいつ。
………………あれ? なんで僕、こんな奴好きだったんだ?
焼けていた心が一気に冷える。まるで溶岩から、氷の塊になったみたい。
なんで僕、こんな奴好きだったんだ?
こいつ、僕に乱暴するし、金持ってくし、何もかも僕にさせて、僕はこいつの恋人っていうより、まるで奴隷じゃないか。
なんで僕、こんな奴と付き合ってたんだ。僕の愛は、なんでこんな奴に貪られていたんだ。
燃え上がった怒りが炎の剣を生み出す。それを握って近づくと、ダストは悲鳴を上げて逃げ出した。
なんで逃げるんだ。
僕から逃げる奴は許さない。
「待ってよ……ダスト…………」
普通に走っても、あいつより僕の方が早い。だけど、追いかけるのも面倒だ。
振り下ろした剣は、炎を吹き出し、逃げるダストの足を払う。
足を焼かれ転んだそいつは、地面に倒れて腰が抜けたようだ。それでも僕から逃げていこうとする。
「ひっ……ひいいいいっ! く……く……来るなあああああっ!!」
……本当に、なんでこんな奴のこと、好きだったんだろう。
冷め切った心が僕に命令する。冷徹なそれを素直に受け入れ、僕は、炎の剣を振り下ろした。
剣は、確実にそいつを火炙りにかけるはずだった。
それなのに、ダストは僕の炎の剣に貫かれる前に消えてしまう。
炎は虚しく道路に突き刺さり、そこを黒こげにした。
黒くなった大通りには、僕と、さっき僕が魔法で弾き飛ばした男が気絶したまま倒れているだけ。
ダストはどこにもいない。
またか……
空を仰ぐように、ついさっき、僕が出てきた高層マンションに振り向く。
あの最上階の部屋で、またあいつは笑っているんだ。
さっき、ダストを消したのは、フュイアルさんの魔法だ。
あの憎たらしい上司は、いつもこうやって、僕の邪魔をする。
ギリギリと奥歯が重なり合い軋む。
なんで僕の邪魔をするんだ……
振り返り、僕はゆっくりと、そいつがいる部屋を目指して歩き始めた。
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